邪馬台国の使節の名を石棺文字に当ててみる(2)


伊声耆...「伊」は先日の伊支馬と同一で①の箇所としておきます。「声」は秦の時代の小篆に②のような書体があります。②の箇所はすきへん(例:耕)のような形状が目立ち,なかなかひらめかなかったのですが,②の異体字は左上に「声」の字が配置され,下方に耳が位置する形となります。あるいは②と同一の箇所に,秦の時代以前に使われていた篆文で「耆」の字体を見ることもできます。なお60歳以上の老人という意味をもつ「耆」の字ですが,翁のような尊称でなく単なる名の一部と考えたほうがよさそうです。

掖邪狗...「掖」の異体字にはてへんの他,けものへん,つきへんなどがありますが,つくりの「夜」の形状に注目したいと思います。篆文では③のような形となり,「大」の形に立つ人の両側に,昼の時間帯と夜の時間帯が存在し,右側の「夕」は三日月(夜間)を表すという字義をもちます。この,左右に対象的な事象を配置するという意味を含めると,③の箇所に夜の面影を認めたくなります。卑弥呼の国名にも含まれる「邪」ですが,④の箇所につくりの部分のつりばり状を認め,この異体字を当ててみました。ただし,この漢字のへんが牙から耳へ変化するのは3世紀半ば以降ということなので,篆文も付記しておきます。なお臧克和氏の論文によると,本来「邪」の字は邪悪なといったさげすんだ意味ではなく,古代の「邑」に付随する地名によく用いられた字で,たとえば唐の書家・顔真卿が自らの出身地を「琅邪」と記した書写が残っています。「奴」の字についても,漢~五代十国時代の石刻には,女性の名としておんなへんをもつ「奴」の字が,決して蔑称という意味でなく多くみられるとのことです。左端に位置する④が「邪」となると,人名とは別種の内容を表している可能性が浮かんできますので,これは後日考えてみたいと思います。「狗」については,篆文の字形を当てるとよくわかりますが,⑤の箇所に赤線で示した部分はけものへんの印象が強いということを改めて記しておきます。

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