THE YELLOW MONKEY「Sparcle X」~円盤につまった愛~

 頼まれていないのにディスクレビューなど書いてしまうほど、THE YELLOW MONKEYを愛しているし、今回のアルバムを愛している。そんな私です。もう、もう……色んな感情が溢れかえってこの数日ひとりでジタバタしております。10枚目のアルバム、「Sparcle X」。以下、私の感想です。敬称略でございます。申し訳ない。

 吉井和哉のがん治療を経てリリースされた今作。制作自体は長期にわたっていて、楽曲によっては昔からあたためられていたものもあり、「病気から復活!!」的な仰々しいことではなく、ただただ純粋に「カッコいい」一枚です。さらっと自然に貫禄があって、なのに十代のバンドキッズの勢いや若さを感じる不思議なアルバム。できるだけ「ファン」という色眼鏡を取り払って感じることは、それでした。
 この人たち、このバンドで鳴らすのがホントに好きなんだな、と全曲から感じられる。実は、吉井和哉ソロの楽曲のオマージュと思しきフレーズやコード進行もあったりして、それがまた感慨深い。不思議なことに、ソロはソロ、バンドはバンドで、また全然違うテイストになる。それがTHE YELLOW MONKEYにしか出せない音なんだろうな。

 まず1曲目からがつんと引き込まれる「SHINE ON」。
これはTHE YELLOW MONKEYの定番というか、十八番。これをアルバムリリースに先駆けて発表されたことや東京ドームのテーマにされたことが、もう素敵。そんな大看板を背負わされても全然びくともしない、骨太できらびやかな曲。軽やかなのに度数高きカクテルのような。
 2曲目の「罠」。これがねえ……めちゃくちゃカッコいい。計算とか感傷とかすっ飛ばして、ただロックンロールのカッコよさのみ追及されてる。曲の構成、展開の仕方も隙がなく、中毒性高い曲。リリース日に解禁されたMV合わせて、ここ10年ぐらいで一番くらいかもしれないくらい好き(※個人の意見です)
 3曲目「ホテルニュートリノ」。古くは「BURN」「砂の塔」といい、ドラマのタイアップになると一気に怪しい妖艶さを纏うのは何故。けど、ドラマのためだけじゃなく、このアルバムにとってこの1曲は超・重要。この昭和歌謡っぽさと平成らしきメロディが混ざり合ってる感じ、THE YELLOW MONKEYそのもの。
 4曲目の「透明Passanger」は、再結成した後のTHE YELLOW MONKEYらしいというか、正直、ある時期の吉井ソロ楽曲を思い起こさせるいい意味での混沌さを感じる曲。でも、あの時みたいな退廃的な不安定さじゃなくて、もっと建設的で肝が据わってる。
 5曲目、「Exhaust」。思わずカッコいいねエマさん!って言いたくなる、エマ作曲。これも、なんか演奏してる時みんなにこにこしてんだろうなって思う。THE YELLOW MONKEYっぽいかと言われるとまたちょっと違う。これが中盤に入っていることで、後の曲が新鮮。
 折り返しの6曲目に「ドライフルーツ」。その後の7曲目「Beaver」と合わせて、ファンをニヤリとさせる曲が続きます。果物(乾物)と動物、どっちも妖しい空気で性やら生やら聖やらを匂わせつつ、そんな深読みせんでもドストレートにも受け取れるなかなかの深さ。私個人としては、ここが実はTHE YELLOW MONKEYのファンにはすごく刺さるとこじゃないかなと思う。このバンドでしか聴けない、大人の遊び満載の曲。
 8曲目が「ソナタの暗闇」。これも先行リリース曲。すごくシンプルですごく切実で、これは多分解散と再集結とハプニングで休み、という経験がないと生まれなかったような気がする。各人が年数をかけて研いた技の集大成みたいな。ソナタ、そなた、其方……と、考えちゃう曲。
 9曲目「ラプソディ」で感情が揺り戻される。「ソナタの暗闇」とのギャップよ。前半3曲とのギャップよ。「人類最期の日」みたいな例もあるし、THE YELLOW MONKEYのこういうとこ好き。おとぼけに見せて、深いこと言ってるように見せて、実は本当にはっちゃけちゃっただけかもしれなくて。
 10曲目「Make Over」は、歌詞カードを見て聞いてしまうと泣いてしまうので注意が必要。吉井ソロでも同じようなことを言ってる曲はあったけど、明らかにそれとは趣向も意味もまったく違う。いや、だって、これはエマ作詞作曲だからね。それを踏まえると、エマさんの思う愛情の深さとかデカさに震えそうになる。この曲にこの詞、私は超好き。
 11曲目「復活の日」。本当に、復活ソング。これは、実はリスナーやファンではなくて3人から1人へのラブレターなのではないかと思う。曲も演奏も祝福に満ち溢れていて大好きだけど、特に演奏が本当に優しい。音からたくさんの気持ちが伝わる。ハートフル、だけど、ロックバンドらしい曲

 歌詞カードをこよなく愛する民の私
としては、歌詞についての考察も少し。考察っても、単なる感想でしかありませんが。
 「(病気を通して)全編、命についての歌になった」という趣旨のことは色々なところで言われていますが、それは確かにそう。そうなんだけど、全然説教くさくなくて、重くも悲しくもない。大仰に「命大切!」と感動を押し付けてくるのではなくて、本当に滔々淡々と命について向き合って綴られている。
 自分の人生や命のこれまでについて、さらっと後悔してさらっと反省して、全部受け止めて呑み込んでいることが前提。その上で、すごく大げさに何か言うんじゃなくて、静かに前向いてなんとか進んでいくその温度と強さ。吉井和哉にしか(またはエマにしか)選べない単語と言い回しで、それを見せてくれる。
 みんなに理解できるわけでもない、その人にしか分からない思いや景色があって、それに無理に踏み込まないよう、互いに距離を持ちながらそれでも心の傍にはちゃんといる。THE YELLOW MONKEYの歌詞から、そんなことを感じている私です。

 ダウンロード全盛の世の中、特に、シングルカットされるものはもはや多くがデジタル配信のみ、となりましたね。やはりずるずる続く不景気と値上がり、SDGsやエコロジーの観点から、この先CDという円盤はなくなってしまうのでしょうか。などと、デジタル疎い&非常に貧しい小市民の私は寂しく思っている今日この頃。そんな中、やはり、アルバムという円盤を手にした幸福は半端ないものです。手で触って、歌詞カードやディスクを通してその人たちを感じられるから。
 今回の「Sparcle X」、コンセプトが宇宙ということもあってまさに「円盤」。この円盤は、THE YELLOW MONKEYという惑星からひょっこりやってきて、素敵な音楽を奏でてくれる。不思議な円盤は、そうやって私の手の中で輝き続けている。
 時代に逆行してるなあ、とは重々承知。けど、こういう大事な円盤を、私はこれからもたくさん聞きたいし手に入れたい。そんなことを感じたアルバムでした。

以下、「罠」MVの感想らくがき。

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