「ケダモノ狂想曲ーキマイラの旋律ー第3話」
グサッ。
アルバートは、目の前のライオン男に向かって飛び込みながら用意していたナイフを突き刺す。不意を突かれライオン男は、驚きの表情を浮かべる。
「鬼山、行け!今のうちに!」
ライオン男と相手をしながら、アルバートは鬼山に向かって叫んだ。鬼山は、一瞬立ち止まる。
アルバートが必死に抑えてくれている。この行為を無駄にするわけにはいかない。
「アルバート、ごめん。絶対に、助けに来る」
鬼山は、顔に影を落としながら意を決して地上に向かう階段に向かって走り出そうとする。
「動くな。動けば喉を掻っ切る」
鬼山が動き出す前に、狼男が彼の喉元に鋭い爪を突きつけ、動きを止めた。
せっかく、アルバートが命がけでチャンスを作ってくれたのに……。
鬼山は、苦虫を噛み潰したような顔を見せる。横に視線を向けると、アルバートもライオン男に呆気なく両腕で抑え込み、動きを封じられている。
絶体絶命の状況に、二人は、ここで動物の顔をした化け物に食い殺されることを覚悟した。
だが、意外にも食い殺されたりはしなかった。二人は、腕を縄で縛られ、そんな二人を囲うように動物顔の彼らは立つ。
「小僧たちは、ここで何をしている?」
まずは、像の顔をした男が腕を組み、二人に話しかけてきた。
「白い大蛇の噂を聞いてここに来たんだ」
鬼山は少しの沈黙のあと口を開き答えた。。
「鬼山の言うように俺たちは、白い大蛇が出るって聞いたから、本当にいるのか確かめに来ただけなんだよ。別に、お前たちに危害を与えるつもりは一切ない」
アルバートも鬼山に続いて、物怖じせず話し始める。
「白い大蛇って、この子たちのことを言ってるの」
ピアノを弾いていた女性の服から無数の白蛇たちがどさりと床に落ちて、二人の元まで這って近づいてきた。
「なっ……」
「えっ……」
二人は、白蛇が這っているのを見て思わず声を漏らす。
「「小さい」」
二人とも白い大蛇と聞いていたため、人間一人を丸呑みするほど巨大な蛇をイメージしていた。だが、目の前に現れた白蛇は通常の蛇ほどの大きさだ。
「なんか、かわいいかも」
鬼山は小さくつぶらな瞳をした白蛇に可愛らしさを感じた。
「かわいいでしょ。私の友達なの。だけど、気をつけて、この子たちはね。猛毒の牙を持っているの。あなたたちならひと噛みであの世行きね」
鬼山は白蛇の牙にとんでもない猛毒があることを知り急に怖くなった。
「も、猛毒!?あまり可愛くないかも」
白蛇たちは二人の足元まで接近し動きを止め細長い赤い舌をしきりに出している。いつ噛まれてもおかしくない危険な状況だ。
「白蛇たちのほうはあなたを気に入ったみたいよ」
確かに白蛇たちは体を寄せて、好いてくれているようにも見える。とはいえ、安心はできない。
「このガキたちの言う白い大蛇は、お前のことを言っているんじゃないのか、ムグリ」
白い大蛇の話を聞き、狼男が両腕を組み壁にもたれかけながら女性に言った
「そうかもしれないわね。私は大蛇の姿が好きじゃないから、人間の姿でいることがほとんどなんだけど、大蛇の姿を誰かに見られていたのね」
ムグリという女性は、頷くと狼男に向かって言った。
「あなたたちは、僕たちをどうするつもりなんですか?」
鬼山は、勇気を振り絞り、ムグリに向かって気になっていたことを尋ねる。
「そうね、どうしようかしら......」
ムグリが、少し考える素振りを見せると、狼男が堰を切ったかのように勢いよくがさつな声を吐く。
「考えることはねーよ!ささっと、食っちまおうぜ。ここじゃあ、誰の目にもつかねー」
狼男は、狂気に満ちた鋭い目つきで二人を睨みつけた。
「いいのか。親には、ここに行くことを伝えている。俺たちを食えば、親が警察に連絡して、ここまで捜索の手がまわるかもしれないぜ」
アルバートが、なんとか最悪の事態を避けようとそう言い放った。だが、狼男は、攻撃的な姿勢を変えることはない。むしろ、彼のプライドに火を付ける。
「なんだと、このガキ!俺たちを脅迫しているのか!調子にのりやがって!今すぐにでも、お前の顔に食らいつくことだってできるんだぞ!」
アルバートと狼男は、お互いににらみ合い、激しく火花を散らす。いつ、ここが真っ赤な血に染まってもおかしくない。
僕たちは、果たして生きてここから出ることができるのだろうか。現状、かなり厳しいだろうけれどーー。
鬼山は、アルバートと狼男が言い争う様子を見てそんなことを考えていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?