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樹堂骨董店へようこそ⑤

あたりめの袋がからっぽになった。
あからさまに那胡は不機嫌になった。那胡は食欲が満たされないと機嫌が悪くなる。
「あたりめー!」
叫んでみてもでてくるわけがない。買いに行かなくては。
ふと、「ほうづき屋」のことを思い出した。こんな理由で使うのはどうかと思うけど、試しに使ってみようと那胡は思った。
「送迎をお願いしたいです」
と送信すると一分もしないうちに返事がきた。
「ご利用ありがとうございます。何時に配車希望ですか?」
「今すぐがいいです」
「承りました。十分後にお迎えに上がります」
あまりにも都合よくスムーズにやりとりできてしまい、那胡はびっくりした。
「ほうづき屋ってすごい!」
感激の声をあげつつ、着替えるために自室へと向かった。

ピンポーン
インターホンが鳴った。本当に十分後で那胡は再度驚く。
「はい」
「お待たせいたしました。ほうづき屋です」
画面には小柄でふっくらした感じのベストスーツの男性が映っていた。那胡は玄関ドアを開けた。
「わたくし担当のタヌキと申します」
タヌキと名乗る男性は那胡に名刺をわたした。
ほうづき屋 営業部 田貫 寛平
と書かれていた。
タヌキ?…タヌキ?
那胡の頭の中は動物のタヌキのイメージがひろがる。
「え…あ…よろしくお願いします」
イツキよりもいくらか年長に見えるタヌキはてきぱきと那胡を車に導いた。車はぴかぴかに磨かれた、よく見るタクシーだった。
「二か所にいくことはできますか?」
「ええ。どこでしょうか」
「最初は駅前の金米堂、次に桜杜神社にお願いします」
「わかりました」
タヌキは鮮やかなドライブテクニックでカーブの多い森の中を疾走した。ほっとした那胡はさっそく考え始めた。
あたりめと、草餅と、栗蒸羊羹かな
どれも和菓子屋金米堂の自慢の商品だ。
抹茶入り玄米茶も買おうかな…
その時、那胡は窓の外を眺めて気が付いた。いつもの景色と違う。森の中に違いはないけれど、見たことのない道だった。
「あの、タヌキさん」
「はい、なんでしょう?」
「ここはどこですか?見たことのない道なんですけど…」
いつの間にか道路はアスファルトから砂利道に変わっていた。
「ここは、わしらだけが知っている近道ですよ。あっという間につきますよ」
「…そうなの…」
急に不安になる。初めて見るタヌキという人が見たこともない道を使っている。こんなに不安なことは久々だった。
もし事件になったらパパのことキライになる

つづきます

イツキ …樹堂店主 那胡の父
那胡  …イツキの娘
タヌキ カンペイ …ほうづき屋 職員 田貫 寛平


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