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樹堂骨董店へようこそ⑥

そう思っていたら、ふいに視界が開けた。駅近くのお寺の脇道に出てきた。
「あ、ここ知ってる…」
「着きますよ。まずは金米堂です」
「ありがと…」
ものの五分程度で到着してしまった。那胡は信じられなかった。いつもの半分以下の時間でついてしまったのだ。
便利すぎて絶対おかしい。
那胡の頭の中は混乱気味だ。でも、あたりめを買わなくてはならない。あたりめのためにここに来たのだから。混乱する頭を落ち着かせ、タクシーを路肩に待たせると急いで金米堂に入った。
あっという間に買い物を済ませると今度は桜杜神社へ向かった。再び山道へ入る。ここから、車だと三十分はかかる場所だ。途中からやはり見たことのない道へと入る。
この辺りは山へ続く高原になっており、主要道路は一本だけ。そもそも道路が少ない。那胡はまだ小学生だったころを思い出した。パパの友達というおじさんやおばさんにたくさん遊んでもらったりお世話してもらった。今、ちょうどその感覚に似ているなと感じた。

気が付くと五分程度で桜杜神社の近くのお土産屋の前の通りに出てきた。あまりにも早すぎる。那胡はタヌキに話しかけた。
「おじさん、もののけ道…通ってるでしょ?」
タヌキは一瞬動きが止まった。
「なんのことでしょう?」
「私、もののけ道のこと知ってるよ。人間じゃない人たちが使う道」
タヌキはニヤッと笑みを浮かべた。
「さすがイツキさんのお嬢さんだ。そうですよ。人間と関わることを選んだもののけです。わしらも生活するためにこうして働くんですよ。さぁ、着きましたよ。お代はイツキさんからいただくことになっているので、お嬢さんはお支払い不要です」
「…わかった。ありがとう…あとで呼んだらまた迎えに来てほしいの」
「承知しました」
那胡をおろすとタクシーはもののけ道へと消えて行った。
「タヌキさん…もののけなのね」
那胡は小さいころから、イツキとかかわりのあるヒトではない者たちと触れ合うことが多かった。だから驚くことはなかった。もののけ道とは普段、人間が入り込むことのない空間だ。人間にはなかなか気付かれることはないけれど、あちこちに点在している。

那胡は桜杜神社のすぐ近くにあるお土産屋の脇道に入った。店の奥に一軒家がある。那胡は玄関ポーチにあがると呼び鈴を鳴らした。すぐにドアが開いた。那胡と同年代に見える女の子がでてきた。
「那胡久しぶりー」
「七緒久しぶりー」
那胡は二階の七緒の部屋に通された。

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