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樹堂骨董店へようこそ②

二階にある部屋で気になっているのはイツキの部屋とその隣にある全く使っていない部屋だ。普段、那胡が入ることはまずないし、数えるほどしか入ったことがない。まずは使っていない部屋から入ってみた。

西寄りの部屋で昼間でも薄暗い。この部屋だけは夜にどうしても怖くて入れない。理由はわからないけどとにかく怖い。
見た目は普通の部屋と何ら変わりなかった。いくらか物置のようになっていて、使わないソファやテーブル、デスクなどが置かれている。まるで誰か使っているようにすら感じる家具の充実した部屋だった。気になるのは、備え付けの2段ベッドのすぐ横の壁だけクロスが新しくなっている。黄ばみがないのだ。ふいに那胡はザワザワ感を感じた。忘れていたが、この部屋に入ると那胡はなぜかざわざわしてくる。とにかく部屋から出たくなる。これも理由がよくわからないが、その感覚に素直に従って那胡は部屋を出た。

次にイツキの部屋に入った。
イツキの部屋は南向きの明るい部屋だ。森から鳥の鳴き声がよく聴こえる。きちんとハンガーにかけられた服、整頓された本棚とデスクはイツキらしい。きれい好きなのだ。
デスクには最近買ったばかりの新しいピカピカのノートパソコンが置かれていた。
その時ふと、壁に目がいった。
大きな絵が飾られていた。なんだろうと思って那胡は正面に立ってみた。描かれている人物と目が合ってしまった錯覚にとらわれた。

そこには女性の絵が描かれていた。肩までの髪に切れ長の瞳。満開の桜の木の下で微笑む女性。
なんともいえない気持ちになって那胡はその場にたたずんだ。
この人、どこかで見たことがある気がする…誰だっけ?
思い出そうとするがなかなか思い出せない。おそらく油絵であろうその絵は古いものであることがわかる。おそらく数年単位でなくて、数十年単位の古さだ。
そしてふと思った。引っ越した時にここにこんな絵飾ってあったっけ?
いろんな疑問がわいたが、寒くなってきてあったかいカフェオレが飲みたくなったので那胡はキッチンに戻ることにした。

イツキは那胡に詳しい話をしないけれど、那胡はイツキがわりと怪しい仕事をしていることを知っている。樹堂という名前の骨董屋をしているけれど、実は便利屋っぽいこともしている。あと口コミの人生相談みたいなこともやっている。だから、あの絵もそういう関係のものなのかもしれないと那胡は思った。

つづきます

登場人物

樹…イツキ  樹堂骨董店 店主 那胡の父

那胡…ナコ  イツキの娘



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