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樹堂骨董店へようこそ③

その日の昼過ぎくらいに唐突にイツキが帰宅した。
「那胡、昼飯にしよう」
と言って美味しそうなパンをテーブルに置いた。隣町で評判のパン屋のだった。
「パパおかえり。美味しそう、スープ用意するね」
那胡はスープのフタをとってガスレンジに置いた。
「パパの部屋の絵ってまえからあそこに飾られていたの?」
那胡は聞いてみた。イツキは沸いた湯をティーパックの入ったカップに注ごうとしていた。
「ああ、見たのか?あれは昨夜持ってきたんだ。店に置いてあったんだけどもう商品にはならないから引き取ることにしたんだよ」
「ふうん」
「…何で?」
「なんでもないよ。今まで見たことなかったから聞いただけ」
那胡は小さいころからちょっとしたことに敏感だった。あの絵と、西側の部屋には何かありそうな「何か」を感じていた。もちろん、イツキも那胡のカンの良さを知っている。
「念のため話して置くと…この家に越してきたのは半分仕事でもあるんだ」
「そうなの?…じゃあ二階の一番西の部屋とか、やっぱりお仕事なの?」
イツキの顔色が変わった。
「部屋に入ったのか?」
「うん」
「…あの部屋何も感じなかったのか?」
「感じたよ。なんとなくわかったよ。よくないことがあったと思う。フォーカスする前に部屋は出たの。ずっといられない」
「あともう少しで片付くからそれまでは入らない方がいい。那胡は敏感だからな」
「うん。わかった」
だいぶ前に聞いたことがある。イツキは亡くなった人と話をすることができるらしい。きっと何かしているんだろう。でも、那胡には亡くなった人と話すことはできない。

イツキはティーカップにミルクを注ぐ。ミルクティーが2人分出来上がった。


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