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さくらもり

街はずれにある桜杜

夜に訪れてはいけないと

むかし誰かが教えてくれた


朧月夜に花びらが舞う

白い光に映し出されて

桜の花たちはその美しい姿を見せる

むせかえるほどの桜の花の香り

みわたすかぎりの薄紅色の海

いちど足を踏み入れたら

どこからきて どこへもどるのか

もうわからない

桜の海につつまれて このままここにいたいと

願う

月の光が注がれた

うすくけむる夜空には

星のあかりすらみえない

永遠に月夜のまま

永遠に朝がこないまま

永遠に咲き続けたまま

時を止めて このままでいよう

ここには誰もいない

私だけの場所

ぬるい夜風が指のあいだをすりぬけてゆく

つかめそうなくらい風を感じても

手の平にはなにも残らない

それでいい

誰にも見つからない 

秘密の森






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