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樹堂骨董店へようこそ④

「これからパパの部屋はこれからカギをかけるようにするから、パパがいない時は入れなくなるよ」
イツキはジャーマンポテトパンを手に取る。
「…なんで?」
「うっかり入れば、那胡がイヤな気持ちになるかもしれないからな。それとこれ以上話してしまうと結局関わることになるから、これ以上は言わないよ。でも、部屋に入らなければ、何もないから心配いらない」
那胡はオリジナルカレーパンの袋を開けた。
「わかった」

つまりこの家は「何らかのいわくつき物件」ということだけはわかった。だったら最初に言ってくれればいいなのにぁと那胡は思った。イツキはいつもあまり仕事のことを話してはくれない。当たり前と言えばそうなのかもしれないが。
那胡はミルクティーを飲んだ。アールグレイの香りが心地よかったが、カレーの風味と混ざると不思議な香りになる。微妙だ。
「それと今まで駅や買い物が不便だったから、これからは便利にしようと思うんだ。出かけたいときにここに連絡すると送迎してくれるようにしておいたから…」
と言ってイツキがが何かラインで那胡に送ってきた。さっそく画面を開くと
「ほうづき屋?」
やけに和風の名前だ。
「ああ。馴染みの店だから心配いらない。送迎以外にも困ったことがあったら相談できる。私がいない時はそこにラインするといいよ。すぐに対応してくれる。二十四時間営業だ」
「ありがとう」
そんな便利なものあるのかと思いながら那胡はすぐに登録した。

美味しいパンを食べてまったりしていたら、イツキのスマホが鳴った。しばらく話していたが、仕事だと言ってスーツに着替えて出かけて行った。よくあることだ。部屋の中が急にしんと静かになった。

那胡はソファに寝っ転がったままスマホを見ながら「あたりめ」をかじっていた。旨味がたまらない。酒は苦手だけどあたりめは大好きだ。これは最寄り駅の近くにある和菓子屋に売っている。そこでしか買えない逸品だ。

つづきます

イツキ …樹堂骨董店店主  那胡の父
那胡(ナコ)  …イツキの娘

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