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ファイル

「先輩?まだ残っていたんですか?」
きぃちゃんの声で私はハッと我に返った。
「あ…きぃちゃん…」
書庫の中に窓は無く、外の景色はわからない。スマホを見たらもう19時を過ぎていた。
「こんな時間なんだ…」
「そうですよ。何探してたんですか?」
「いやその…」
私はすぐに答えられなかった。
「いいんですよ。またいつものお役所からの調査依頼ですよね。無理しないでくださいね」
きぃちゃんはコツコツとパンプスを鳴らして書庫を後にした。

この部署は依頼された資料を探し出して依頼者へ提供する部署だ。たいていは公的機関からの依頼なので、内容には守秘義務が課せられる。そして、資料は重要書類なのでデジタル化されていない。
ということは、並べられた膨大な数の中から手作業で探し出さなければならないというメンドクサイ作業になるのだった。

私はとうとう目的のファイルを見つけ出した。
1ページ目を開くとうっすらと浮かび上がる文字が濃くなったり今にも消えそうになったり不安定な状態だった。
このファイルは未来のファイルだった。この書庫には過去から未来までの資料がぎっしりと詰め込まれている。始まりがどこで終わりがどこなのか、私にもわからなかった。

私はそのファイルを棚に戻した。なぜなら、依頼されて探していたわけじゃなかったから。それは私の少し先の未来を示すファイルだった。未来はまだ確定していないと確認したかっただけなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
そして、それがわかると私は安心した。まだ今なら、未来は定まっていない。これからの私の行動次第なのだ。

私は書庫に鍵をかけ、今日の門番に渡すと外へ出た。昼でも夜でもない空はぼんやりと明るかった。

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