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設計・施工分離発注方式に起因する弊害は、設計・施工一括発注方式で解決すべきです。

令和6年6月26日、横浜市、神奈川県、国土交通省、総務省の各HPの「ご意見・ご提案の受付」等を通じて提出した意見


【 意見のタイトル 】
設計・施工分離発注方式に起因する弊害は、設計・施工一括発注方式で解決すべきです。


【 意見の内容 】

2024年6月19日付の日経クロステック記事「Kアリーナ横浜を結ぶ歩道橋で設計ミス。開通時期未定に」によれば、音楽専用施設「Kアリーナ横浜」と横浜駅方面をつなぐ歩道橋として6月1日に利用開始予定だった「(仮称)高島水際線デッキ」で設計ミスが判明し、橋台が必要な鉄筋量を満たしておらず強度不足の状態であるため、利用開始が延期されたことが報道されています。

「(仮称)高島水際線デッキ」は、設計・施工分離発注方式により整備されたため、設計業務を受託したJR東日本コンサルタンツの責任は重大ですが、設計業務委託元である横浜市も責任を免れることができないところです。なぜならば、委託成果物である「(仮称)高島水際線デッキの設計図書」の横浜市への納品検査時に、橋台が必要な鉄筋量を満たしておらず強度不足の状態であるという「設計上の重大な瑕疵」に横浜市は全く気付くことができず、瑕疵がある設計図書をそのまま工事仕様書に仕立てて施工業者(鹿島建設)に示し、施工させてしまったからです。

我が国独自で他国に類を見ない設計・施工分離発注方式による整備事業では、このような弊害が全国の自治体で頻発しています。抜本的な解決策は、設計・施工分離発注方式に代えて、グローバルスタンダードな設計・施工一括発注方式を用いることです。

横浜市は、「横浜市設計・施工一括発注方式に関する取扱要綱」を、令和3年8月1日に制定していますが、その第3条と第4条の規定により、設計・施工一括発注方式は原則として使わない発注方式に位置付けています。それゆえ、「(仮称)高島水際線デッキ」は、当然のこととして設計・施工分離発注方式により整備されたのです。ちなみに、全国の多くの自治体では、古くは20年以上も前から「設計・施工一括発注方式実施要綱・要領」を定めてきていますが、どの要綱・要領も横浜市と同様の規定を設けて、設計・施工一括発注方式は原則として使わない発注方式に位置付けています。

具体的には、どの自治体の設計・施工一括発注方式実施要綱(要領)でも、設計・施工一括発注方式は、施工者のノウハウを反映した現場条件に適した設計や、施工者の固有技術を活用した合理的な設計が可能となることが利点であるとして、高度または特殊な技術力を要する工事に限定して設計・施工一括発注方式を適用するとしているのです。これに加えて、設計・施工一括発注方式による発注とすることは、入札参加資格審査委員会や入札指名業者選定委員会などでの審議を経て決定するとしているのです。

しかし、設計・施工一括発注方式の対象を限定し厳格に選定するとした結果、設計・施工分離発注方式で整備した「(仮称)高島水際線デッキ」は、発注者責任を問われる事態を招いています。また、道路補修工事や水道管更新工事、下水道管路改築工事など、設計・施工一括発注方式がその真価を発揮しやすく発注業務負担軽減効果が高い「場所を変えて繰り返し実施される小規模工事」が全て対象外となってしまっています。

ところで、「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式は、民間よりも官庁の技術力が圧倒的に上だった昭和30年代の情勢に適合して生まれた我が国独自の発注方式です。このことから、官民の技術力が完全に逆転した今日では、横浜市が設計委託した成果物である「(仮称)高島水際線デッキの設計図書」の納品検査時に、設計内容に問題はないかについて、しっかりと確認できる技術力が横浜市にあったとは到底思えず、結果として、設計図書の瑕疵に全く気付くことができないないままにこれを工事仕様書として横浜市は用いてしまったと言えます。今となってはタラレバの話ですが、「(仮称)高島水際線デッキ」を設計・施工一括発注方式で整備していたならば、横浜市にこのような責任問題が生じることは無かったところです。

それゆえ、設計・施工分離発注方式に起因する問題を抜本的に解決するには、自治体の設計・施工一括発注方式実施要綱(要領)における取り組み体制を全面的に見直して、道路補修工事や水道管更新工事、下水道管路改築工事など、設計・施工一括発注方式がその真価を発揮しやすい「場所を変えて繰り返し実施される小規模工事」についても、自治体の発注業務担当者の創意工夫により、設計・施工一括発注方式を自在、適切かつ効果的に活用できるようにすることが強く望まれます。


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