私が淹れる珈琲は美味い

なぜ美味いのか?
少し馬鹿げているように思うかもしれないが、それは「愛」があるからだ。もちろん前提として、技術や知識を会得しようとする執念は必要だ。
私が言っている「愛」は、そこからより美味しさを追求しようとしたときの延長にある。『caféから時代は創られる』という本の「第五章 商売人としての店主」で紹介されているように、フランスの詩人 アンドレ・サルモンはカフェ「ラ・ロトンド(La Rotonde)」の店主リビオンについて説明する中で、「理解すること、それは愛するということである」と述べている。ここでは、店主像として語られている為、私とアンドレ・サルモンの言っている「愛」はニュアンスが違うが、それを理解した上で、私なりの解釈を交えながら私の淹れる珈琲は美味いという話を進めていくとする。
 
私のもともとのパーソナリティは、沢山の人と広く浅く知り合いになりたいというよりも、気の合う少数の人と話すのを好み、個人として好きなように振る舞ってよければ、それが有難いのですが、というものである。しかし、お金と引き換えに私が提供した珈琲や会話、サービスが、回を重ねるうちにその人というひとりの人間に対する愛情に変わってゆく。こうしていくうちに初めは商売上の理由からそう振る舞っていた私でも、二度、三度、通ってくれると、その人がどんな珈琲が好きか観察して愛せてしまう。

【 美味しく珈琲を淹れるまでのプロセス 】
・Step 1  毎回の注文されたブレンドを記憶する。
・Step 2 記憶したブレンド内のバンド(味の振り幅)を探り始める。
・Step 3  各ブレンドのより好みのバンドで再現性を高めた抽出をする。
 
私は、自分好みの珈琲を押し付けて美味いと言わせるよりもその人にあった好みの珈琲で美味いと言わせたい。私の淹れる美味しい珈琲でどぶ漬けにしたい。
ちなみに私の珈琲の好みとしては、アフリカ系で、深煎りで、香りが強く、酸味は控えめで、全体的にパンチが効いた珈琲だ。この自分好みの珈琲を飲ませて唸らせたいと言う願望がないわけではない。今は、その感情に興味があるだけだ。その感情を珈琲で表現するには、まだまだ時間が必要だ。それはさておき、、、。
喫茶 百景のブレンド3種類を自分好みに淹れることは可能だが、それはあくまで私の好みの味に寄せただけであって、百景のバンドではない。
百景のバンドで淹れる技術があって、自分好みの味も出せることは、非常にカッコイイ。
 
上記しているプロセスが私にとっての「理解すること、それは愛するということである」そのものであって、私の淹れる珈琲がその人にとって美味しい珈琲になるべくしてなっている。
Step 3を詳しく説明すると
マイルド・ミディアム・ストロングの中にも私の技術があれば細分化できると言うことだ。つまり、マイルドの中にもマイルド・ミディアム・ストロングが存在する。各ブレンドの中に存在する何かは、その日の体調や気分、何も食べてない日の一杯目の珈琲、食事後の一杯の珈琲、覚醒したい時の一杯の珈琲、いつもの変わらない一杯の珈琲などで何を求めているのかで変化する。そのポイントを探り当てる瞬間は、たまらなく気持ちが良く、その微妙な変化を感じ取り、私はカッコつけている。

 私がこの感情に気づき始めたのは、ある程度の技術と知識と経験が伴ってきてからだ。今、自分好みの珈琲で唸らせたい願望がないのは、自分は作家ではなく作者だからだ。ここで言う作家は自家焙煎珈琲ガロだ。私は作家の意図を汲み取り作者として表現しているに過ぎないが、作家のようにその道の専門家ではなくてもそこは作者として、その先にある美味しさを追求し続けている。使用する珈琲豆のポテンシャルを最大限に引き出すにはどうしたいいか?を常に考え、「当たり前のことを当たり前にやる」
これを徹底的に突き詰めた結果が、喫茶百景に珈琲豆を卸して頂いている自家焙煎珈琲ガロの美味さの秘訣でもあると思う。このプロセスを理解して、私にできることは「美味しく珈琲を淹れる」だった。
 
この時、現状の能力に底が見えてきて、「美味しい珈琲」とは何かを模索する中で、自分好みの珈琲についての自己理解が始まり見えてくるものがあった。その答えが、その人にとって「なくてはならないモノ」を作り出すことで、その人の生活の延長に私が淹れる珈琲は存在すると言うことだった。そのような日常と非日常を行き来するグラデーションの中にある不変性が必要だと思ってもらえることで、私自身も生きていける。そこに私の商売人的な態度を持った自分があることにも気付いた。
 
しかし、これだけで商売を成立させることは難しい。私の場合、商売人としたときの珈琲は、あくまで手段であって方法ではない。ただ美味しく珈琲を淹れるだけでやっていけるほど甘くはないことも理解している。
ここから少し話は変わり、珈琲を媒介としたときの空間と店主の相互作用について話を進めていくが、少し疲れてきたので、続きは次回以降に書こう。

*この写真は私の上がりコレクションの中で、もっとも最高な上がりを叩き出したときの一枚だ。


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