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狼のバラード 『狼よ、故郷を見よ』その1

『狼よ、故郷を見よ』

アダルトウルフガイ の…というより、第二期 平井和正の最高到達点だと思います。スピリチュアリズムとエンターテイメントが違和感なく融合した抜群の面白さ。名作です!

再び追われる身となった犬神明が目指すのは、人界から孤絶した山地に存在する犬神の里。しかし、里に近づく明を迎えたのは、大口径ライフルによる銃撃だった。

明らかにされる、犬神明のルーツ。

大峰山脈の奥地にて、ひっそりと血脈を繋ぐ犬神一族。
かつては人と関わりを持ち、神格化された犬神の一族が、なぜ人間社会と縁を切ったのかさだかではなく

「野生動物をいやしむ、大陸遊牧民族系統の侵略が行われ、征服王朝を築きあげたとき、大和の古代三輪王朝が滅亡したとき、人間界を見捨てたのかもしれない。」

ということなのですが、あれ? これって最近よく聞かれる様になった出雲族、饒速日王朝のストーリーにぴったり重なるのですが、いわゆる「正史」扱いされてるんでしたっけ?

『真幻魔大戦』で描かれた犬神の里は、役小角が活躍した時代で、既に人界とは縁を切った後でした。彼らの頑なさ、偏頗さを見るにつけ、現代でも強固な排斥の掟が残っていても不思議はない気がしますね。

なお、『狼男だよ』で「大阪南部の僻村」と書かれていた事とは矛盾するのですが、もしかしたら東京に出る前に一時留まった可能性もあるし、何かのキーワードになっているのかも知れません。むしろ校正されずに残っているのが興味深い。

襲撃者の足跡を追って、犬神の里へ。
集落への唯一の入口である橋を渡る際、明のアニキは“母の幻影”を観るのですが、もしかしたらこの時、亡き母の残留思念を感じていたのかも知れません。

ついにたどり着いた犬神の里。しかし同胞である犬神一族の姿はなく、代わりに獰悪な密猟者たちが里を占拠していた。

捕われとなった屋敷で出逢った村娘 たか から、一族が消え去ったことを聞かされたアニキは、意気消沈する。彼の不屈の精神を支えていたのは、同胞への憧憬と愛着だった。魂の故郷を喪ったアニキが、初めて見せる弱さ…。

「あたしを抱きなさるといいです……」

澄んだ瞳を持つ、美しい少女、たか。
まさに、定められた魂同士の結びそのままに、二人は自然に抱き合う……

この出逢いのシークエンスは本当に美しくって、マイ平井作品中の名シーン、ベスト3に入ります。

「どんな強靭な男も、ひとりきりでは生きて行けないのだ」

孤高の戦士の魂が、真の女性性、母なる慈愛に抱かれ、一つになることで、まっさらな男児となって再生する。

歪められたセックス観が吹き飛ぶくらい、性愛の本質、男女の融合が生み出す本当のフォース、奇跡が、十全に描き出されています。

まったく想定外の中、いきなり“妻”を得たアニキは、見事に変貌します。言葉の一つ一つから、気力と幸福感が横溢して、足を撃たれても全く気勢は削がれない。妻を持つ事で、さらに男は靭くなれるんですね。

逃亡中に見出した犬神一族が祀っていた小さな祠に、たかが祈りを捧げるシーンは、ささやかですけれどかなり重要です。

ここでたかは神的存在(犬神?)と交感し、はっきりと身裡にその存在を宿す。

洞穴に侵入して的確に逃走経路を指示し、犬神にしかなし得ない膂力を発揮してアニキを手助けする。

極寒の中の逃亡劇。二人が交わすやりとりは、熱愛に満ちていて、胸を熱くさせられます。

「それはおれの残りの全生涯に匹敵する凝縮された時間であった」

アニキの言葉に泣けます。

雪山に容赦無く襲い来る特務工作員たち。彼らは最新の銃器を装備した人狩りのプロであり、ヘリコプターまで投入してアニキを追い詰める。

銃撃による瀕死の手傷を負いながらも、妻としてだけではなく、戦いにおいても優秀なパートナーを得て、心からの歓喜と充足感を持って、闘いに挑むアニキ。

放たれた猟犬を前にして、とっさに放った狼の遠吠え❗️

そして、それに呼応する、数十頭の狼の咆哮❗️❗️

犬神一族~❗️❗️ 😭

犬神の里から犬神一族が消えた理由は、最後まで明かされませんが、少なくともこのシーンで、ちゃんとこの次元に存在して、アニキを見守れる状況にはあって、そして、アニキの咆哮に応える程度には“共感”してくれているのが分かります。

十数年前、自らのルーツを知った若きアニキが訪れた時には、姿すら見せてくれずに手ひどく追い返されます。

「異神(マガツガミ)の裔の血をまじえた者は穢れだ。汝は犬神の者にあらず、疾く立ち去れ」

って、かなり強烈な言いようですよね…。
厳粛な掟と信仰が、今も残存していることが窺い知れます。

『真幻魔大戦』では “観る者” という一族の使命が語られましたが、もしかしたら人類と関わることの禁忌には、字義以上の深い意味が秘められているのかも。

もう一つ、彼らの重要な使命であったのが、“時空の関門”を護ること。一族揃っての消失は、その関門の異変(善きにつけ悪きにつけ)に関わりがある様にも思えます。

それにつけても咆哮による返答…。

これって明らかに好意的ですよね。

表立っては協力できない。
しかし、ちゃんと観てるぞと。
お前の奮闘は分かってるぞと。


続きまっす。

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