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『狼男だよ』 その3

『狼狩り』

この章でまず触れねばなりますまいのが、明アニキのモテっぷり…。まさか兄貴が大藪ヒーローばりのセックス尋問テクニックを駆使してたなんて❗️

三人もの絶世の美女といい関係になり(なりかけ)、それぞれと熱い(心 or 身体の…もしくは両方の)交流を結んで見せるアニキ…。
もうこういった点だけでも、10回は精読する価値がありますね。師匠と呼ばせてもらお🙇‍♂️

知り合いの芸能ライター本間からの依頼で、失踪した新人タレント 砧ますみ を探すことになる犬神明。

捜査が進み、ついにある事実が判明する。

砧ますみも人狼だった❗️

ライター本間が「下水管のなかのほうが、ちっとは清潔」と語る、芸能界の裏側。この辺りのことは、少し透徹した視線で物事を眺めている知識人の方々にとっては、殊更あげつらうこともない、普通の認識だったんでしょうね。

芸能事務所間のいざこざか、痴情のもつれと思われた失踪事件の裏に、何者かの大掛かりな意図が見えてくる。

捜査の過程でいつも遭遇して、重要な役割を果たしてしまう、 “アンチ・ヒューマン派作家の鬼才” 安田一朗って、筒井康隆御大がモデルですよね。好奇心が強くてオッチョコチョイで公認の軽薄もの😆 

「いぬどし」生まれでアニキとわりに気が合うということですが、筒井御大もいぬどし生まれです。

そしてここで名前だけ出てくる亀井戸和夫は間違いなく平井和正自身のこと。 酷い言われよう~😆 「極度の人見知りで大ファンの園まりに会わせてやったら緊張のあまり座り小便を漏らした」と。

当時の平井先生、よっぽど園まりにご執心だったのか、冒頭の車のトランクの中の美女は「まり」という名だし、SF作家がたむろすスナックが「まり」だったりするし。

ちなみに総武線では平井駅の前が亀戸駅です。

物語後半には、SF界の重鎮と思われるあの御方も登場します。『日本沈没』❗️ そして会員制クラブ〈ヴァンパイヤ〉には、今や国民的スピリチュアル・リーダーとなったあの御方のお姿も❗️

冒頭で書きましたように、この章の肝はなんと言っても三人の美しき女性たちとの関わりにつきます。

大手芸能プロダクション、マナベ・プロが差し向けた大物女優は、ほんの数語交しただけで、明アニキの魅力に気づき、心底から愛しはじめてしまいます。

この辺りの二人の心の交流がめっちゃ泣かせる…。

アニキって、描写的には「サミー・デイビス・Jr. 」とか「内藤陳」とか書かれてますけれど、これは韜晦であって絶対良い男なんですよね。美男子ではないにしても、滲み出るような漢の魅力があるんだ。

「狼と人間は、所詮、折りあっていけない。」

絶対に結ばれ得ない事を承知しつつ、ほんのひと時の温もりを与え合う二人。悲哀に満ちる心の機微…。読ませるなあ。

米国芸能シンジケートが差し向けたセックス・トラップであるケイティは、アニキの月光マジックにやられて、逆にメロメロトロトロに溶かされちゃいます。

この辺りは大藪ハードボイルドのパロディとして書かれてたりするのかも知れません。アニキの性技にトロトロになって、重要機密をペラペラ喋ってしまうケイティ。

にしても、同じホテル内に二重にセックス・トラップが仕掛けられてるって😆  一回罠に嵌ってみたいわ。


そして郷子姐さま

後のシリーズでも語れてましたが、この時の郷子さまは、アニキに甚大な生命の危機が訪れることを超常能力で察知してて、あんな行動に出たんですよね。既に砧ますみが存命してないことも、おそらく察してた。

アニキを引き止める為に発して見せる性のフォースは、まさに超常能力レベル…。“セックスの異常天才”という称号がダテではないのがわかります。これ常人なら死にますね…。そのままの意味で昇天してしまう。

郷子さまの蛇姫たる所以、今まではミュータント的な超能力者だからかと思ってたんですが、今作で人狼と「同じ系統樹にある妖怪の血」と述べられていることから、おそらく神話人種:ホモ・モンストローズの血筋である何らかの確証があるんでしょう。

少し「三輪明神は蛇体であった」神話にも触れられてますが、もしかしたら一部で天孫系とも言われる、龍蛇族とか龍神と、係りがあるのかも知れません。


引き止めること叶わず、アニキを見送る郷子さま。クールな彼女が、実はアニキ以上の寂しさと親愛を胸に秘めていることがしみじみよく分かる名シーンです。

郷子さま…。
優しく抱きしめて慰めてあげたい。(死にます)


犬神明の出生に関してもいくつか情報が明かされ、人狼族である母は、大阪南部の僻村で暮らしていたと。そこに若い生物学者が訪れ、二人は禁断の恋に落ちる。

現在は、関空や新道ができたりで、すっかり開発されちゃってますが、昭和の初期にはまだかなり山深い地域だったと思われます。詳細は次巻かな。

芸能事務所、暴力団、米国芸能シンジケートと、複数の組織が絡み合って騒動は複雑化し、ついに銃器を携えた殺人部隊まで繰り出される事態になる。

事の真相は、砧ますみ、犬神明の両名を捕らえる “狼狩り” だった。

暗躍するのは米国シンジケートですが、その奥には前回煮え湯を飲まされたCIAが存在するという事でしょう。

この件の“責任者”であり、ケイティに加藤と名乗った小男、日本人の残念な点を戯画化したような容姿にもかかわらず、どこか純粋な日本人ではない印象もありますね。

おそらく『悪霊の女王』に登場した諜報員と同一存在で、『真幻魔』シリーズでクエーサーのトップに君臨したカトーとは別人のようですが、奇妙な相似点もあり、近親者である可能性も?

はっきりと所属は明かしませんが、日本の軍事施設にまで影響を及ぼせるほど権力のある、米国の組織に仕えていると。占領統治に関連? 例えば日系二世で、自らのルーツに憎悪を抱いている、といった雰囲気もあります。

あまり有能ではないみたいで、限りなく貴重な人狼の生体である砧ますみは死なせちゃうし、アニキのブラフに簡単に引っかかって、アニキまで抹殺しようとする。

砧ますみに関しては「19歳の美貌の女の子」ということしか情報はないのですが、返す返すも救えなかったのが残念ですね。作曲家 石塚茂の情婦だったという彼女、そこに愛はあったと思いたいなあ。

「新月期に飢餓状態で心臓に銃弾を二発」受けて絶命…。

ただ、遺体を冷所保存しておけば、満月期に復活しそうな気もするのですが、有能ではない加藤クンのこと、そこまで気は回らなかったかな。

いずれにしても、心神喪失のまま囚われの身となって、もしくは身体組織の一部だけ保管されて、科学者にいじくり回されるよりは、あっさり絶命した方が良かったかなとは思います。

優秀な戦闘部隊まで捨て駒にしてしまうほど、この“狼狩り”には潤沢な資金が投入されていて、大元にある機関はかなり本腰になっているのが分かります。

様々な要因が重なって、一気に『オペレーションF』が発動したと言う感じでしょうか。

アダルト・ウルフ第一作『狼男だよ』。

連作形式ではありますが、三つの物語は連鎖的に繋がっていて、トラブルはこの後もどんどん大きくなってゆきます。アニキには気の毒ですけれど。

「だが、おれはまだ死なないのだ。
 かならず、またお目にかかろう。」

八王子の地下深くに生き埋めになりながらも、不敵に言い切るアニキのこの台詞は、今読んでも心踊らされます。

そう。犬神明は絶対に死なないし、絶対にまた帰ってくる!

今もそう信じてます。


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