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「音初(おとのはじめ)」を終えて

CAST         : VIDEOTAPEMUSIC / Cwondo / DJ NIWA / DJ suisui
Place          : 10 COFFEE BREWERS 大分店dot.店
Sound        : GoodSoundProduction
Camera      : Dan Nakamura / Richard
Equipment : Masaki Sugimoto
Date : 2022.1.7 & 1.8

2023年1月7日午後17時を少し回った頃だったか。

演奏中、いやリハーサルの時に衝撃をもって覚えた違和感にも似た感覚、

「デジャブ・既視感」

少なくとも私個人としては、過去に経験・体験したことのない、初体験の事柄であるはずにも関わらず、かつて同じような事を体験したことがあるかのような感覚に包まれた。

「前にもどこかで一度これと同じものを見たような気がする」という感覚。

脊椎あたりに鈍い電気が走った。

7年ほど前の冬、
ドイツのアザム教会で後ろ髪のハネ方が特徴的な長身の司祭が奏でていたG線上のアリアを思い出したのだ。

Cwondoという人はヨハン・ゼバスティアン・バッハの生まれ変わりに違いないと思った。

うん。
間違いない。

2018年2月に発表したミュージック・ビデオ“Tic”が国内のみならず、海外のリスナーからも支持を集め、一躍時のバンドとなった東京在住の4人組、No Buses。

アークティック・モンキーズの同名曲から取られたというバンド名が示唆するように、2000年代のロックンロール・リヴァイヴァルに触発されたガレージ・ロックのスタイルを追求する、所謂「バンド」であるが、

このNo Busesのフロントマンでもある近藤大彗のソロ名義がCwondoというわけなんだけれど。

個人談なので、
差し障りのなさそうな範囲で文字にするが、

なんでも埼玉あたりの名門サッカー部がある中高一貫校に入学したのち、
御多分に洩れず(よくある話だが、という意味で)、
レギュラーの座を掴むことに疲れ果てて、

結果として蹴球部を去りたくなった彼が、
監督の追求を避ける為にでっちあげた半ば、

「ホラ」

のような言い訳は、

「バンドをしたいから」

というもの。

勝手に音大出のエリートか何かなんだろうとたかを括っていた私はほくそ笑んでしまった。

奇しくも、
ここから彼の音人としてのキャリアは始まったということにもなる。

体系的な基礎もない、
所謂全て独学。
家庭環境をのぞいても音にまつわるエピソードは皆無。
孤高。
孤独。

そして宙に言葉を置いてくるようなそぶりでぼそっと言う。

「よく聴いていた音楽はワンオクとももクロ」

って言う
からもう加点的にびっくりだ。

ミキサーやMPCに至っては、

「ブックオフで800円だったから...」

なんてことまで言葉にし始める顛末。
故障していて反応しないボタンがあるから、
使えるところだけで音を作ったりもしている・・。

パッドを駆使して、ループや音ネタを再生しながら、
ドラム・パターンを指で演奏し、自身の楽曲を小節ごとに再構築してゆく。

マイクをとらせればさすがメジャーバンドのリードボーカルといった佇まいなのだが、
MCは失礼を承知で言うがなんと言うか、
たどたどしさ極まりない、、、のだけれど、

不思議だった。

会場にいる全てのオーディエンスが最初はみんな拍子抜けというか、

「え?聞こえない...へ?」

というような感覚を会場全体が受け、
周りをキョロキョロを見回す人までいる。

私に関しては機材トラブルかとすら思い、
PAさんの手元に目をやったくらいだ。

のだけれど、

彼の人柄なのか?

皆が彼の言葉端々にまで聞き耳をたて、
熱心に聞き入れようとし始めるから驚いた。
もちろん私もその一人で。

愛おしさすら覚えた瞬間だった。


見られ方を臆病にも意識する稚拙さが抜けない自分を恥じたほどの没入感

個人的な感想だが、
この人は「勝つ人だ」と思う。

大きなものに巻かれるために懐に飛び込みポジション取りをするような、
打算的な人間でもない。

結果はそれは大事なファクターなんだけれど、
トリッキーな得点はやはり継続しない。

大切なのはやはり過程であり連続性を担保できる勝ち方だ。

隙間を狙って自身のスタンスを決めるような計算高さもいい意味でない。

生まれながらに自身の中にある声のようなものに純粋に耳を傾け、
シンプルに彼にしかできないパフォーマンスでど正面からシュートを放ち続けている。

「あ、近藤くん、気付けばレギュラー掴んでるじゃん」

って思ってしまい自然と笑みが溢れた。

こういう人間にてっぺんをとってほしいと思える人。

自然と応援したくなるアーティストに出会えたこと、
この「縁」に本当に感謝です。

これはまだ告知前かのかな?

近藤くん。

あの場所で、
桜が散り終えて夏の陽気があたりを包み出す頃に、
きっとまた。

たくさんの感動と気付きをありがとう。

次はVIDEOTAPEMUSIC。

ミュージシャンであり、映像ディレクター。地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西の様々なビデオテープをサンプリングして映像と音楽を同時に制作。

映像と音を駆使しながら、時に熱く、時にメロウに、唯一無二のムードを持つエキゾチックなダンスミュージックを作り出している。

この人の作る「空間」、いや音楽というのは「空間」そのものなのだから、「作品」と形容することが正しいのだろう。彼の作品は計算し尽くされたクラッシックな舞台をも連想させる。

生であるのだけれど、
どこかフィルムを覗いているような錯覚に包まれこれがまた浮揚感すらもたらせてくれるからたまらない。

Cwondoが右脳タイプのミュージシャンだとするなら、彼は全くもって左脳型のニュータイプだと思う。

VHSから取り出されたノイズまみれの音声・映像やサンプリングされた音源。

これらが生の演奏の中に溶け込んでいる彼の作品に触れる際の感情は、
私たちが暮らす令和の街の中にいまもなお残る崩れ落ちそうなビルや、使われずに放置されたままの施設であるとか、昭和アイコン的な看板、また…そういった、過去に生きた先人たちの痕跡と対峙するときの感覚に酷似している。

なんというか、
大分という括りでいうなら別府の街を歩くときに感じる郷愁のようなものに近い。

VIDEOTAPEMUSICとは、“いつかどこかのだれか”になる、“今ここで生活している私たち”の記録である──

という。

「未来の人たちは私たちのことを知るだろうか?」 ──「世界各国の夜」より

こうVIDEOTAPEMUSICは語るが、個人的にはこの人の作品は50年後の教科書にスタンダードなある種一次情報的なテキストとしてタイプされているような気がしてならない。

ハイファイブしていきたいな
最大の蟻地獄のなか
We’re all in together
楽しまなきゃ損じゃないか

ゆらぐテープ巻き戻し
蜃気楼みたく波は打ち返す
そんなVHS放り込んだら
またすぐに次の夏さ

「Summer We Know ( feat.mmm) 」

きっと彼の言うようにまたすぐに次の夏(エピソード:と私は訳しました。)が来るのだろう。
歌われているように、
それぞれにとっての最大の蟻地獄はまだ各地で様々な熱感で続くが、
そんな時は記憶として脳裏に焼き付けて・撮り溜めたきたテープを巻き戻しながら、いやしくも、無様であっても今を生きる一人の人間として前に進んでいけたらと思う。

VIDEOTAPEMUSICさんとは直感だけれど、ライブとはまた違った形で、不思議な場面・立場で合える気がしている。どこか似たタイプかなって少しだけ思いました(笑)。きっとまたどこかで。


シェークスピアの舞台を再構築してフィルムにして欲しいと・・思ったなw 

今回もたくさんの関係者の皆さんに支えて頂きました。大人になって、劣化していく過程においても、一緒にバカやって遊んでくれるみんながいてくれるおかげで、今のところ、なんとか走れています。いつも感謝しています。

また、フライヤーを作成してくれたカフェクルーのKaho Saitoもありがとう。兎の年の最初の音イベイメージをキミに頼んで本当に良かった。おかげでビジュアル的にもいいひとときとなりました。

日々は慌ただしく過ぎていきますが、いくつもの「帰路」を跨ぎながら、わたしたちは生きていかねばなりません。順風満帆に見える人も、実際は水面下で必死にバタ足していたりするもの。いつ吹くともしれぬ「突風」に備えながら、今日以降も一生懸命に生きて行こうと思います。

いつの日にか振り返った時に、

「あの時あの瞬間は本当に輝いていた」

ときっと思えるであろう素晴らしい1日をまたフィルムに焼き付けることができました。お互いに、いい人生にしていきましょう。

また次のイベントで皆様にお会いできる日を楽しみにしております。

10 COFFEE  BREWERS 店主 川平大介

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