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神宮外苑再開発への意見〜13.歴史的遺産再開発における事業者の社会的責任を問う

2022年4月15日。「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境アセスメントに
対して「都民の意見を聴く会」が開かれました。
17人の公述人からは、この再開発計画に対し様々な角度の問題提起があり、「緑豊かな歴史ある景観を守るべきだ」と提案を含めた計画見直しを求める声が相次ぎました。どの意見も多様で知見に富んだ素晴らしいものでした。公述人の声を、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。
以下に、
川田綾子さんの意見を紹介いたします。

風致地区として守られてきた神宮外苑の環境

私は東京で生まれ育ち、学生時代には大学野球やラグビー観戦、現在も銀杏並木周辺のみどりの散策等で神宮外苑の地に親しんできました。現在都市計画コンサルタントとして都内各地のまちづくりや計画づくりに関わっており、本日は生活者の視点とまちづくりに関わる職能の立場から、樹木保存の具体的方策が示されていない点と大きな開発に関わる事業者の責務について意見を申し上げます。
 神宮外苑は、大正時代に国家的記念事業として造営され、都市の中の公共造園と都市計画との関係の重要性を意識した内外苑と結ぶパークウェイやパークシステムの考えに基づき計画されました。当時の土木技術と文化的知恵の粋といえます。大正15年9月1日には、東京都市計画・明治神宮風致地区が日本における最初の風致地区として指定され、幾たびかの変更を経ながらも現在は「東京都風致地区条例」で継承されています。

具体的に示されていない移植・保全の方策に危惧


当事業の対象区域は、風致地区区分のA地域(絵画館前から銀杏並木)
B地域(絵画館、神宮球場、第二球場)に該当し、風致を保全すべき地域となっています。風致地区A地域では、「支障木の伐採は必要最小限に止め、現存する植生はできるだけ残存させるものであること」等*1が基準として
位置付けられていますが、絵画館への4列の銀杏並木は保存すると見解が
示されているものの、周辺の既存樹木は1000本近くが伐採されます(パネル1)。事業者からは「移植等により極力残す計画」と繰り返し回答されて
いますが、樹齢百年超の樹木を移植・保全する具体的な方策などは示されていません。
保存を前提としている銀杏並木については、当該地の地区計画に基づく4号壁面線で道路境界線から最低8mの後退が位置づいています。
現地で道路境界から壁面後退位置をおってみると、現状の植え込み縁石部分から柵までが約7m、銀杏の幹中心からですと約6mです(パネル2)。
特に計画されている野球場は銀杏並木に近接し銀杏の根張りとの抵触が危惧されます。銀杏は他の高木に比較しても根張りが大きく、基礎杭部分が20mを超える銀杏の根部分に抵触し、樹木生命の源である根幹の生育の妨げが
懸念されます。環境影響評価書案P.18の図6の1/1600の断面図(パネル3)では、道路境界と建物後退の位置関係が明確に読み取れません。
壁面線の位置と野球場の土台部分の設備等や銀杏や植栽帯と根張りの想定がわかる図面(1/100~少なくとも1/250の縮尺)で示していただきたいです。保存と言いながら、具体的手法が示されず、とくに地中部分は建設後数年経って枯れた場合に確認することも難しく、配慮したが結果うまくいかなった、ということは許されるものではありません

環境影響評価の計画地の線引きは疑問

環境影響評価書案P.398では、「・・・緑地のうち計画地内については改変を行うものの、既存樹の一部を存置・移植するとともに、新たな緑地を創出することにより、計画地外の緑地も含めた緑豊かな景観が維持される計画である」としています。再開発事業区域は、あくまでも計画者による線引きであって、神宮外苑は少なくとも竣工時の範囲をもってして日本の歴史的資産です。まして、計画区域内のテニスコート、テニス施設の移転により既存の樹木が伐採されるのであり、計画区域対象外という理由で環境影響評価を
行わない理由には当てはまらないのではないでしょうか。
計画区域外であっても環境影響評価を行うべきと考えます。

4事業者の社会的責務について

次に、事業者が本事業にかかわる理由と社会的責務について明らかにして
いただくことをお願いします。

1つめに、伊藤忠商事株式会社は、2021年4月にSDGs STUDIOを開設し、
5月に中期経営計画において、基本方針の1つに「SDGsへの貢献・取組強化」を掲げています(パネル4)。立地する青山通り沿道は、景観としてのスカイラインを守るため、沿道の町会・商店会による「青山通り街並み協定書」2006(平成18)年11月時点11団体)をもとに、2015年10月に60mの絶対高さ制限を定めています*2。現伊藤忠商事ビルは、絶対高さ指定以前に建築されたと考えて約90mの高さが可能と思われますが、再開発で、地域合意の高さ制限を破ってまで60mの3倍以上となる190mの超高層ビルを建設し、床面積は現在の約2倍を所有することになります。その目的と、改修を
上回る環境負荷の大きさに対しての考えをお示しいただきたい。

2つめに、計画区域内で土地所有権のない三井不動産株式会社は、複合棟の床を所有する予定でしょうか。現状の公園区域を縮小し除外した区域に複合棟を建て床を取得するというのであれば、1955年から約20年間三井不動産
社長を務められた実業家の江戸英雄氏の戒めに反する行為になると思います。江戸氏は、不動産協会理事長として1973年に「民間ディベロッパー行動綱領」*3をまとめ、ディベロッパーとしての社会的使命及び倫理をうたい、自然環境および地域社会と調和すること、そして投機的土地取引を戒めています。

 3つめに、明治神宮については、2020年に鎮座百年を迎え、10万本もの献木により造営された永遠の森を守るとうたい*4ながら、多くの既存樹木を伐採し自然環境を改変する再開発を行うという矛盾が露呈しています。

最後に、JSC日本スポーツ振興センターは、環境影響評価手続き下にある
中で、1月にPFI法に基づくに新ラグビー場にスポーツ博物館を含めた施設の設計、建設の事業者入札の募集を開始しています。
3月には変更された技術提案書の記載要領には、「敷地外周や北側に存在する既存樹木や敷地の高低差を踏まえ、緑と調和し、周辺地域・周辺施設との連続性に配慮した優れた施設配置・外構計画」*5を留意事項及び評価基準としてしますが、計画から運営・維持管理もPFIによる委託事業者任せです。我が国唯一のスポーツ関する独立行政法人として、環境保全への主体性をもち事業者責務を果たしてください。
事業者は、本計画に関して、国民への明確かつ具体的な説明責任をご自覚いただき、百年先を見据えた持続可能な我が国の文化・資産の継承を担っていただくべく、事業の見直しをお願いします。

デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。