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神宮外苑再開発への意見〜④本旨を忘れた都市計画を見直し、若者たちに恥じない未来を

2022年4月15日。「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境アセスメントに
対して「都民の意見を聴く会」が開かれました。
17人の公述人からは、この再開発計画に対し様々な角度の問題提起があり、「緑豊かな歴史ある景観を守るべきだ」と提案を含めた計画見直しを求める声が相次ぎました。どの意見も多様で知見に富んだ素晴らしいものでした。公述人の声を、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。
以下に、3/23に都議会に対し陳情書「神宮外苑の歴史的景観と環境の保全に関する陳情」を提出した西川直子さんの意見を紹介いたします。


知らぬうちにすすめられていた再開発計画への底知れぬ不安


「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境影響評価書案に対して環境保全の見地から意見を述べます。
 私にとってこの「神宮外苑市街地再開発事業(以下神宮外苑再開発とする)」との出会いは、昨年12月14日の東京都による住民説明会でした。
東京都土地利用計画課によるスライドの説明の後、青山高校体育館に
集まった140人ほどの住民から聞こえたのは、不安と憤りの声、怒号が飛ぶありさまで、寒い中、延々3時間、東京都は、ご理解ください、ご意見は
パブリックコメントで、都市計画審議会で、ご意見を審議します、の一点張りでした。
では、住民は何を不安に思っていたのでしょう。それは環境の悪化です。「五輪が終わって静かになると思っていたのに、なぜ今、ビルを建てるのか」「4列の銀杏並木は守るというが、ぎりぎりまで野球場が建てられて銀杏は大丈夫か」「野球場のネットと電光掲示板が銀杏並木の景観を阻害する」「190m(38階)、185m(40階)、80m(18階)、60m(14階=ホテル付神宮球場)なんて、神宮外苑を新宿副都心にする気か」。
それらの用途は、環境影響評価書案(以下案とする)によれば、190m38階建ビルはオフィス、185m40階はオフィスと商業、80m18階建はほとんどホテルのようです。でも、この段階では1000本もの木が伐られるということは
知らされていませんでした。

 パブリックコメント締切は12月28日と、説明会からわずか2週間。
それでも説明会の参加者はパブリックコメントを書き、異例の提出数だったと聞きます。
そして年が明け、2月9日の東京都都市計画審議会直前の1月末、1000本もの木が伐られるというニュースが駆け巡りました。ちょうど石川幹子教授が
新宿区都市計画審議会の委員で、神宮外苑再開発のことを知り、開発計画と突き合わせて、これはなくなる、これもだ、と、1本1本、毎木調査をしたそうです。

大きく反響を呼んだ1000本の樹木伐採


その反響たるや、全国から注目されることとなりました。都内に住む経営コンサルタントの女性が始めた「神宮外苑1000本の木を伐らないで、再開発計画の見直しを」の電子署名に5万7千人が署名し、高校生たちが集めた「神宮外苑の樹木1000本の伐採に強く反対します」には手書きと電子署名で7000人もの人が賛同しました。そして、今、東京都6月議会への「神宮外苑の環境を守る」陳情は、陳情者が現在70人で、100人を超える大陳情団となるでしょう。
 この数字をどう見るか。単に木が伐採されるという感情的な問題だけでなく、そこには、都市計画、都市再開発に対する底知れぬ不安感と不信感があるのではないか。たしかに2018年「東京2020大会後の神宮外苑まちづくり指針」などによって手順は踏んできたと言います。
しかし、そこに十分な議論はあったでしょうか。神宮外苑に超高層ビルが建つことや、1000本の木が伐られたり、移植という名の撤去が行われることが明らかにされたのでしょうか。
そもそもプレイする側が指針や制度と呼ばれるルールをつくるという極めて変則的なことが起こっているのです。未来を担う若者たちのためにスポーツクラスターをつくるといういいことをしているのなら、もっと誇らしく公開したらいい。海外ではこのような大規模で重要な開発が行われる際には模型を3カ月から半年公開し、住民発意で住民投票もできると言います。
このような都市計画の民主主主義、民主的な都市計画が、今の日本では根底から揺らいでいるのです。そして、住民の不信の目は、環境影響評価各委員の先生方や事業者代表三井不動産、その代理人日建設計に向けられているのだということを忘れてはなりません。

本旨を忘れた都市計画を見直し、若者たちに恥じない未来を

そもそも都市計画や、都市再開発の本旨とは何でしょう。
たとえば戦後のバラックが建て込んだ劣悪な環境を整理し知恵を絞って
より良くするのが本来の都市計画ではないでしょうか。
それが今ではいい環境、誰もがいい、守りたいという環境、風致地区を
つぶして高密度にするのが都市計画になっている。
これは本末転倒であります。そのほか、
1)ドームラグビー場の環境と景観への負荷、
2)建設時と既存建物解体時のCO2排出量が不明、
3)樹木はできる限り保全、移植とあるが具体的にどれを保全し、どこへ移植するのか、具体性がない、
4)ラグビードームから出るイベント時の騒音が示されていない、
5)高層ビルの下に広場をつくるというが、大震災の火災時には火災旋風が起こってかえって被服廠のような危険があるのではないか、など、
各論の問題点は2番以降の公述人が詳しく述べることでしょう。
また、この案全体ですが、事業者がつくっているため、自動車交通量や排気ガス、土壌汚染などに大きな分量を割いていますが、道路や鉄道建設ではないので、少し時代遅れではないでしょうか。
むしろ防災上のことを考慮して、再開発でどれだけの人数が増えるのか、
ビル1本でどれだけ収容するのか、ホテルは何人宿泊するのか、野球場や
ラグビードームの収容人員は、などを、命にかかわる問題として明らかに
すべきだと提案いたします。

 最後に、春休みをつぶして、神宮外苑の樹木を守ろうと署名活動をした
高校生(この春から晴れて大学1年生だそうですが)からことづかってきた文章を読み上げます。
 「SDGsや環境保護などと言葉だけで言って無理やり計画を進めるのではなく、私たちの未来のことを考えた計画に変えてほしい。本当の環境保護とは、人間にとって便利なように樹木の数合わせをすることではなく、現存する緑を守ることではないのでしょうか。」
大人たちは10代の若者たちに対して恥ずかしくない仕事をしたいものです。

デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。