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ヴェネツィア暮らし〜フェスタ、フェスタ、今日は休日

週末が近づくとマンマはそわそわしはじめ、まずはあちこちに電話連絡。
休日=フェスタといえば、家族や友達と集まって一緒に食事をしたり、
少しばかり遠出するのがおきまりの楽しみなのです。
さて、今度の週末はどこへ行くことになったのでしょう?
2001年の春、ちょっと昔のヴェネツィア暮らしのお話です。

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週末のお出かけ、その行き先は?


ヴェネツィア暮らしのお出かけといえば、まず北岸の船着場=フェルマータから船に乗り、例えばブラーノ島のレガッタ祭りなど、ラグーナに散らばる島々へ。夏ならリド島へ日光浴に出かけることも。
あるいはサンタルチア駅から電車に乗って本土(terra ferma テッラフェルマ)へ渡り、ヴェネトの田園地帯(campagna カンパーニャ)へ。
どちらもせいぜい1時間くらいの道のりの小旅行です。

週末が近づくとマンマはそわそわしはじめ、いつものお仲間たちへ
次々と電話をかけていきます。
例によって大きな声の話はまる聞こえで、散々しゃべった挙句、
「それじゃあ、あの子たちにどっちに行きたいか訊いておくからね。」
どうやら行き先の最終決定は私たちにゆだねられることになったようです。
その週末のマンマのプランのひとつめは
「大型船に乗ってプンタ・サビオーニ(Punta sabbioni ラグーナ対岸の砂地海岸)に行き、とびきり新鮮で旨い魚料理を食べる」。
もうひとつは「Padva パドヴァの競馬を見に行く」というもの。
パドヴァはヴェネツィアから電車で本土へ渡り30分ほどのヴェネトの古都。
どちらのプランも魅力的だけれど、聞けば競馬といっても映画ベン・ハーに
出てくるようなカロッツィーノ(carrozzino 二輪馬車)をひくというのが
珍しく面白そうなので、パドヴァのほうに行くことにしました。

そうと決まればマンマは昼食のしたくもそこそこに出かけていき、
しばらくして髪型を気にしながら戻ってきました。
パルッキエーレ(parrucchiere 美容院)に行ってきたのです。
「休日にはパルッキエーレはどこも閉まってしまうからね」といいながら、湯気をたてているパスタの鍋に近づこうとしません。
せっかくふんわり仕上げた髪が、湯気にあたって台なしになっては大変。ちょっとばかりおめかしするのもフェスタならではの楽しみなのです。

画像4競馬場までのどかな野原の道をのんびり歩いていきます。

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パドヴァの競馬場 IPPODROMO

翌日、パパとマンマそれにお友達のシニョーラ3人と私たちという一行7人でパドヴァへ向かいました。表通りで待ち合わせ、電車に乗り込んでからも、シニョーラたちは道中ずっと喋りっぱなしの賑やかさ。
パドヴァの駅から競馬場までは、のどかな野原の道をのんびり歩いて
いきます。お天気も最高、うきうきした遠足気分です。
誰もが口々に「ああ、カンパーニャは緑もいっぱい、空気もいいし、なんて広くて気持ちがいいんだろうね」と言いあっています。
ヴェネツィアは海に囲まれた小さな島。迷路のように込み入った路地を
どちらに向かって歩いても、しばらくすると島の端に出てしまいます。
世にも稀な美しい町には違いありませんが、住人たちにとっては
私たちには思い及ばないような閉塞感もあるのかもしれません。
だからこうして時々カンパーニャに出かけては、のびのびした気分を満喫
するのでしょう。どこまでも続く地面を踏みしめる幸せ。
花が咲き、小鳥の鳴く春はまた格別です。
ヴェネツィアの自宅のほかに、カンパーニャ(またはモンターニャ=山)に一軒、そして海岸に夏用の家をもう一軒というのが、みんなの共通の
夢なのです。

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画像5競馬場の風景、皆ジャケットを着たきちんとした身なりです。

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DSCF0053ippodromo のコピー

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IPPODROMO 競馬場につくやいなや、なにはともあれ腹ごしらえと
オステリア(osteria 食堂)へ直行です。
場内には、競馬の様子を見られるモニターのあるバールがあり、
その奥に、意外なほどちゃんとした広い食堂がありました。
山小屋風の落ち着いた雰囲気、ピンと白いクロスのかかったテーブル、
カメリエレの持ってきたメニュには地元の料理がずらりと並んでいます。
同じヴェネト州でも、海に面したヴェネツィアとは違い、ここ内陸の
パドヴァでは肉料理のみ。
それぞれが注文したラグーのペンネ、名物の子牛レバー料理や兎の煮込み、
骨つき鶏のグリル、小玉ねぎやズッキーニの温野菜など、
素朴ながらどれも家庭的な安定したおいしさです。
日本なら間違いのない定食屋の味という感じでしょうか。
とくにどの料理にも添えられたほかほかのポレンタ(とうもろこし粉で作るヴェネトの代表的なつけあわせ)は本場だけあって、格別の旨さでした。
もちろんここでもシニョーラたちのおしゃべりは絶好調で、当然ヴィーノもすすみます。
しゃべるのと同じ口で、スピードも落とさずどんどん料理を平らげていく
のは、さすがに年季の入った高等技術だと、こちらは感心するばかり。
そして、お代の方は7人全員がプリモとセコンド、つけあわせの野菜も
食べ、ヴィーノも飲んでしめて130000リラという驚きの安さでした。
(まだ通貨がエウロになる前の話です)
こういう場合、自分の分だけ払うローマ式割勘、アラ・ロマーナでしたが、
私の分は1000円とちょっと。これでゆったり満足できるのだから、
得した気分でうれしくなってしまいます。
実はパドヴァの競馬場に来る楽しみの半分以上は、この昼食とおしゃべりにあったようです。

画像9二輪馬車立てのパドヴァ競馬


その後の競馬観戦での馬券の買い方も、それはつつましいものでした。
copiaというペア券が基本で2000リラ、約150円ほどです。
giroというセット券を3人で買うのが効率が良いと、教えられるままに
買って参戦。結果、私たち夫婦は全部外れ、他の誰も大きく勝ちはしませんでしたが、ご贔屓の騎手には声をかぎりに応援、勝った負けたと熱狂し、
帰り道も興奮さめやらぬ調子で競馬の話でもちきりでした。
わずかに小銭を儲けたら、バールでみんなにアペリティーヴォを奢って
使ってしまうのが決まりです。
なんでもみんなと分け合い、思う存分楽しんだフェスタの日。
またそわそわと次の週末が待ち遠しくなってしまうのは、
マンマだけではありません。








デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。