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GRAN CALDO〜イタリアの暑い夏

夏のイタリア はヴァカンツァ一色。
都会は空っぽ、その代わり海辺や山の避暑地に人が押し寄せる
民族大移動が起こります。
とんでもなく暑かったあの夏のこと、シエスタとジェラート、
イタリアの夏の風景のスケッチです。

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イタリアの正しいヴァカンツァは

イタリア人の考える正しいヴァカンツァは、観光地の名所旧跡を訪ね歩く
のではなく、日常を離れたなんにもない田舎の山や海辺で家族でのんびり
だらだらと過ごすことにあります。
全国的に一斉にヴァカンツァに突入するので、8月にイタリアの観光地に
旅行に行くとあてが外れることもあるので注意が必要です。
目指すレストランやお店、観光名所までもが軒並み閉まっていた、
なんてことにもなりかねません。
夏休みシーズンは一番の書き入れ時なのだから、休むなんてもってのほか、というのは私たち日本人の感覚であって、イタリアでは必ずしもそうでは
ないようです。
まずは自分たちがヴァカンツァをとることが先決なので、心あるレストランや家族経営の店などは8月いっぱい休んでしまうのです。
(同じ理由でふだんの日曜日も休みます)
なかには夏の間だけ経営を委託して営業する場合もあるようですが、
このような効率優先の店はもともと大したことがないので、避けたほうが
よさそうです。
真夏にイタリアに行くならば、イタリア人と同じように山や海に出かけて
ヴァカンツァを楽しむのが正解かもしれません。
ヴェネツィアも例外ではなく、住民は皆ヴァカンツァへ出かけてしまう
ので、うわべだけとり繕った町には夏季休業の看板が目立ちます。

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#シエスタとパッセジャータで過ごす夏

およそイタリアの町というのは、城塞で囲まれすべて石造り。
町全体が強い日射しに灼かれると日陰といえどちっとも涼しくありません。
GRAN CALDO=猛暑のフィレンツェで、灼熱の日射しを避けるつもりで
逃げ込んだ薄暗い礼拝堂の中が、まるで石窯のようになっていて、
慌てて飛び出したことも。
できることならアルノ川に飛び込みたいくらいでした。
Caffe freddo con ghiaccio(氷入りエスプレッソ)なんていうのを
覚えたのもこの時。しかし、パラソルを広げたカフェのテーブルで、
グラスの中の氷がみるみる溶けていくのにおそれをなしたものです。

さて、よくまわりを観察してみれば、暑い盛りの日中に表をうろうろ
しているのは、自分も含めやはり観光客ばかりです。
地元の住人たちは、午後1時くらいにお昼を食べたら、後はしっかり
本気でシエスタ=昼寝してしまいます。
そして夕方日が傾いて気温が下がり、風が通るようになってから、
ようやく三々五々と町に出てくるのです。
まだ澄んだ青みの残る空を眺め、夕涼みがてらパッセジャータ=そぞろ歩くのは夏ならではの楽しみ。
もちろん途中でバールに寄ってスプリッツでアペリティーヴォ、あるいはジェラテリアでジェラートタイムとなります。
夕方のパッセジャータは、路上やいつもの店で常連の仲間と顔をあわせる、いわば日常の社交の場なので、ご近所といえどもちょっとおしゃれして
出かけます。新調の服を見せびらかすのに絶好のチャンスでもあるのです。

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DSCF0228 のコピー夏の夕方、パッセジャータと路上の社交とおしゃべりを楽しむ人たち

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ブロンザートした肌はドレスアップのアクセサリー

女たちにはこの夕刻のひとときにこそ似合う服というのがあります。
麻やジャージー、綿ローンなどの涼しげなスリップドレスの類いで、
いずれもかなり露出度が高い。
そして、この手のドレスを着るのには、よくブロンザート=陽灼け
した肌が必須条件なのです。
つまり小麦色の肌は、夏のドレスに欠かせないアクセサリーのようなもの
であり、夏が近づくと皆せっせと肌を灼くのです。

ヴェネツィアでは、夏になるとあの「ベニスに死す」で有名なリド島の海岸に、白とブルーのストライプのテント小屋が並び、そこを借りて日がな浜辺で過ごすことができます。
美しくブロンザータした肌は優雅な夏を過ごした証し、
一種のステイタスシンボルのようです。
もっと手軽には、アパートの屋上に上がって寝転んで日光浴と陽灼け。
夏の太陽は肌をこんがり灼くためのものであって、陽灼け防止なんて
まるで考えていません。マンマも、夏になっても生白い私を見て
「もっとおひさまと仲良くして、陽に灼けたほうがいい」と言うのでした。
しかし、中にはどうみても度の過ぎた陽灼けによるマッキアート=しみ
まだらになっているマダムも見かけますが、一向に頓着しないようす。
大きく開いた白いシャツのダルメシアン状態の胸元に、ジャラジャラと
大ぶりのネックレスをつけて迫力を出すのが、イタリア女の面目躍如という
ところのようです。

イタリア、夏の女たち

シンプルな黒いサマードレスも定番のひとつ。
ブロンザータした肌に、いったい下着はどうなっているのかなと思うような深い襟ぐり、背中のあいたドレスに、手首には大きめのバングル、
サングラスというのが、いかにも夏の女の見本のようなスタイルです。
表通りのバールのパラソルを開いたテラスの、一番目立つテーブル席に
いる可能性が高いのは、見られることを充分意識しているということ
でしょう。そして、同席の夫か恋人か、エスコートしている男たちの
誇らしげな表情もなかなかの見物です。
しかし、こういった情景にこちらの目が慣れてくると、
やってしまいがちな失敗があります。
ついうっかりと錯覚して、露出度満点のドレスを買ってしまったり
するのです。私は陽灼けしても真っ赤になるだけの体質、ブロンズ色など
ほど遠く、さらには魅惑のボディーの持ち主でもありません。
東京に帰って夢から醒めた状態になると、イタリアで買ったサマードレスはとても着られたものじゃないことに気づくのです。
ヴァカンス仕様のドレスは、やっぱり夏のイタリアであればこそです。






デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。