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神宮外苑市街地開発の建築物配置と樹木

神宮外苑市街地開発の建築物の配置と既存樹木の関係、また13年間にわたって連鎖的に行う工事計画を図にしてみた。この工事計画の根本的な問題は、大きく2点で、
①野球場とラグビー場の用地の入れ替え
②限られた地域に施設建築物を目一杯に配置
野球場とラグビー場の用地を入れ替えての建て替えが、大量の樹木伐採の原因になっている。また、施設完成後の配置もギリギリだが、さらに問題なのは建設工事中の工事ヤードや資材置き場の確保である。
果たしてこのような建築計画は可能なのか?

①青山通りから絵画館に向かって並ぶ4列のいちょう並木(東側2列68本+西側2列60本=計128本)のうち、特に最も新野球場が接近する西側1列30本(明治神宮所有)については、建築物や地下構造体による根の毀損、水系の遮断、また日照悪化などによる衰退が懸念される。すでに近年の急激な温暖化の影響により、いちょうの枯損が進んでいる。この上、野球場建設によるダメージを受ければ、いちょう並木の衰退、枯死は免れない。
②港区道に沿った2列18本のいちょう並木(港区所有)は、新野球場の建設地にあたるため、当初(事業者による調査検討の結果)移植は困難とされ伐採対象であったが、その後伐採批判の高まる中、現在は「移植検討」とされ、その判断は2027年まで保留となっている。伐採しないとしても移植による保全は、実現性は極めて薄く、18本の創建のいちょう並木、兄弟木の一部が失われることは必至である。
③新ラグビー場の建設地が建国記念文庫の森に大きく食い込み、大半の既存樹木が失われる。移植される樹木についてもダメージは大きく、森としての生態系は破壊される。
存置される樹木についても、工事中の養生は困難であり、完成後も約46mのラグビー場の影になり、環境悪化による衰退は明らかである。
※新ラグビー場の建設地となる、すでに解体された第二球場敷地内の中高木については伐採54本及び移植41本の申請許可が下りている。

【連鎖的工事と建築物の配置】

連鎖的に行われる工事は、以下の順で行われる予定。
①2024~28:ラグビー場(第1期)・事務所棟建設
①2025~26:明治神宮テニスクラブ移転新設 
②2027~31:ホテル併設野球場建設
③2028~31:複合棟A建設
④2032~35:ラグビー場(第2期)・複合棟B・文化交流施設建設⑤2033~36:中央広場整備
「競技の継続性」を第一義として、かなりアクロバティックに大規模工事を進める計画である。施設完成後の配置もギリギリだが、さらに問題なのは建設工事中の工事ヤードや資材置き場の確保である。

先の国立競技場建設時の工事現場(以下に添付)を見てもわかるように、相当の工事ヤードが必要とされるが、限られた用地の中で、神宮球場の営業を継続しながらの工事は、その確保が危ぶまれる。
しかも、神宮球場の一部がラグビー場建設地に食い込んでいるため、ラグビー場の工事を2期に分け、新球場完成時後、現神宮球場を解体した後にラグビー場のエントランス部分を完成させるという工程になっている。
現計画のスケジュールでは、2023年から2031までの8年間、神宮球場は二つの大きな建設工事に挟まれた状況で利用することになる。また、2025年には国立競技場での世界陸上大会が予定されているが、大規模な工事現場の真っ只中での開催となる。

絵画館前広場の東側、フットサルコートがあった場所はアスファルト撤去工事が行われた。この場所はアセスの資料で樹木の仮移植先とする一方、
工事日程では、2025~2026年に神宮テニスクラブの移転新設工事が行われることになっており、そうなるとこの場所への仮移植は不可能。(移植作業だけでも数カ月はかかり、移植後すぐにテニスクラブの工事を始めることになる)このような架空の移植計画しかない状態で、工事を進めていくことに大きな危惧を感じる。

なぜこのような雑で無理やりな建設計画に固執するのだろうか。
このプランが唯一無二のベストなものなのだろうか。
2021年に事業計画が発表されて以来、最も大きな疑問、違和感は、これまでもたった一つのプランしか提示されていない点だ。
環境アセスのプロセスにおいても、審議会で示されてきた建築計画は常に「まだ最終決定案ではない」というエクスキューズつきの不確かな資料を根拠に審議され、事業者の答えは常にできる限りの範囲で行うという「努力目標」にすぎないものだった。
建築計画はまだまだ改善すべき点があると思う。環境や緑を守り、住民被害を軽減する、より良い選択肢があるのではないか。スクラップ&ビルトの再開発ではなく、改修と保全を軸に据えた、より持続可能な整備計画へと見直すことができるのではないだろうか。

デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。