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イタリアのおうちごはん教えます

さて、これからどうやって、非常にパーソナルな味、ヴェネツィアのマンマの料理を伝えたらよいかと考えています。
マンマから学んだ「よりよく食べることはよりよく生きること」を多くの
みなさんと共有したくて、今まで本にしたり、ブログを始めたり、不定期に自宅でレシピつきの食事会を行っていたこともありました。
そして今回のnoteでの試みです。
私が伝えたいことは、食を軸としたライフスタイルなので、
エプロンを持参して参加するような、いわゆる料理教室には
あてはまらないかもしれません。
以前「レシピつき食事会」という形式にしたのもそのためです。
まずはヴェネツィアのマンマから受け継いだ私の料理を食べて最終到達点
である味を知ってもらうこと、そしてテーブルセッティングや食事の作法やおしゃべりを含めた #イタリア家庭の食事の時間   を体験してもらいたいと思っているからです。
ふだんの食事もアペリティーヴォから始まるヴェネツィアの食卓を、
できる限り再現して楽しんでいます。
まずはじめに、イタリアのおうちごはんの基本をお話しします。

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#テーブルクロスは食事の合図

我が家にはヴェネツィアのマンマから受け継いだ数枚のtovaglia=テーブルクロスがあります。どれもマンマとの食卓の思い出が染み込んだもの。
食事の支度ができると、まずテーブルにクロスを広げ、ナプキンとナイフとフォーク、グラス、そして人数分のお皿を2枚ずつ重ねて置き、パンを用意し、オリーブオイルと塩と胡椒を並べます。
ヴェネツィアの家では、このテーブルセッティングは私の役目でした。
テーブルクロスを広げるのは、さあごはんだよ、という合図なのです。
食事が済んだら、食器もすべて片づけ、テーブルクロスやナプキンもまた
抽出しにしまって元のすっぴんのテーブルに戻ります。
カフェとブリオシュの朝食の時はテーブルクロスではなく、
tovagliolo=簡単なランチョンマットやナプキンクロスを敷きます。
ダイニングキッチンの円いテーブルは下ごしらえの作業台になったり、
時には書き物をしたり、カード遊びの場になったりしますが、
そういう時のクロスの敷いていないテーブルは別の顔をしている感じです。
今も毎日食事の時は必ずマンマのテーブルクロスを広げています。
たった1枚の布で日々の食卓は明るく彩られます。
お気に入りのテーブルクロスを見つけて毎日の食事の時間を楽しく
演出してみましょう。


#ふだんのイタリア 、朝、昼、晩

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イタリアの朝はカフェで始まります。
colazione=朝食は、カフェラッテ(またはカプッチーノ)と甘い菓子パン、
ブリオッシュが定番。
朝食は行きつけのカフェバールやパスティッチェリア(パンとお菓子の
ベーカリー)で、という人も多いですね。
pranzo=昼食は午後1時過ぎ、伝統的には昼食に一番しっかりした食事を
とります。昼食後に小1時間ほどシエスタをする習慣もまだ残っています。
cena=夕食は遅めで午後8時から9時。昼食をたっぷり食べているので、
冷たい前菜にパスタかリゾット、あるいは野菜料理などで軽めに
すませます。
その他にヴェネツィアには1日の生活のアクセントとなる、
大事なaperitivo=アペリティーヴォの時間があります。
食事の前や散歩の途中などにヴェネツィア名物のカクテル、
spritz=スプリッツでほっとひと息入れるのです。
忙しい週日は簡単な料理ですませることも多いですが、
週末には親の家に家族が集まって一緒に食卓を囲み、
マンマの手料理を楽しみます。


食事は前菜に始まり順番通りに

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イタリア家庭での伝統的な食事は、あくまでも順番通りにすすみます。
まずアペリティーヴォを一杯飲んで(支度しながら飲むことも)から、
⓪アンティパスト=プロシュットやマリネ料理など冷菜を主とした前菜
①プリモピアット(第一の皿)=パスタ、リゾット、スープ
②セコンドピアット(第二の皿)=肉や魚の主菜
③コントルニ=主に茹でるか煮るかしたつけあわせ野菜
④インサラータ(サラダ)=つけあわせ野菜の一種の生野菜
⑤ドルチェ(デザート)または果物

というふうに順々に食べていきます。
前菜類とパンは最初から食卓に出ていますが、プリモであるパスタや
リゾットとセコンドであるメインの料理が一緒に並ぶことはありません。
何故なら家庭のふだんの食事では、銘々にお皿を2枚重ねて置き、
上の皿で前菜やプリモのパスタを食べた後、その皿が下げられてはじめて
あらわれる下の皿で肉なり魚なりのセコンドを食べるからです。
これは食事の量や内容には関係なく、どんなにささやかな食事でもけっこう厳密に守られています。セコンドをはしょった前菜とパスタだけの食事
でも同じです。
例えば半分割りにした茹で卵にマヨネーズをかけただけのものやハムを
ひと切れという場合でも、それはちゃんと前菜とみなされます。
そしてパスタを茹でるタイミングとも関係があるのですが、よっぽどのことがないかぎり誰かがひとりだけ先にパスタを食べ始めるなんていうことも
ありません。
基本的に目の前にある料理はひとつずつなので、食卓の上は割とすっきり
しています。それから小さい子供には許されるかもしれませんが、
セコンドの料理を食べ始めた人が、もうちょっとパスタを食べたいといって逆もどりすることもありません。
つけあわせ野菜は主菜と一緒に出します。そして生野菜のサラダは最後に
食べることが多い。デザートや果物を出すのは、いったんすべての皿を
片づけた後。つまり時間的にも空間的にも常に一方方向なのです。
例えば3人以上の食事で料理が盛られた皿を順にまわして取り分ける際
にも、この法則は守られます。
この場合は食卓の上に十字が切られるのを避けるという古風な慣習も
ありますが、隣の人へ一定方向に皿をまわしていくのが自然に身についた
マナーのようになっています。


#イタリア料理の決まりごと

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何故イタリアではこうなのか、おそらくイタリアのマンマに訊いても答えは返ってこないでしょう。
逆に、はじめにリゾットやスープを食べるイタリア人にしてみれば、
ご飯とおかず、汁物を交互に同時進行に食べる日本式の方こそ
不思議であり、理解しにくいのです。
それぞれの文化が積み重ねてできたスタイルなので、どちらが合理的なのかという問題でもありません。

ちなみにイタリアでは常識とされているのに、意外と知られていない食事のルールがいくつかあります。いくつか例を挙げると、
*食事のパンにバターはつけない(アンチョビやスモークサーモンのカナッペ等の例外はあるにしても)
*魚介類の料理の時はチーズを食べない(魚介のパスタやピッツァには
チーズを使わない)
*カプッチーノは食後には飲まない。もっと言えば、カプッチーノは夕方
以降は飲まない。
*カプッチーノを含むカフェはパニーニなどの軽食と一緒に飲まない。
カフェに合わせるのは甘いパンやお菓子だけ。

いずれもユダヤ教やイスラム教の戒律のように禁止されているというわけ
ではないものの、破れば違和感を与えることはたしかです。
私たちが、白いごはんに醤油をかけて食べたがるイタリア人に面食らったりするのと同じです。

その他、地方文化の集合体であるイタリアでは、料理においても
その土地にしか通用しないスタンダードだらけ。
すっかり日本人になじんだ感のあるイタリア料理ですが、
実はいろいろと違うのだというのを体験してみるのも面白いと思います。
私自身、マンマとのヴェネツィア暮らしの中で、いつも目から鱗の
驚きの連続でした。
最終的には(周囲を不快にしない程度の常識を守ったうえで)各自好みで
自由でいいと思いますが、物事の決まりにはやはりその国が築いてきた文化に根づいた、それなりの理由があります。
時にはそれにならい、決まりごと通りにしてみると新しい発見につながるのではないでしょうか。


デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。