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わたしのヴェネツィア案内①〜舟と路地とアペリティーヴォと

ヴェネツィアに通うこと25年あまり、
少なくとも年に一度はヴェネツィアの空気を吸わないと、
自分らしさが保てないような気がしていました。
大切なものに気づいてかみしめる、自分の軸みたいなものを確認する、
ヴェネツィアはそういう特別な場所です。
不思議な縁で導かれるように、友人の両親であるパパとマンマに出会い、
それが私の人生を大きく変えることになりました。


2021年の今、世界中がCOVID-19のパンデミックに覆われています。
切ないことに、まだヴェネツィアに行く見込みはないままです。
その間に町や人の暮らしは、今までにないスピードで
様変わりしていくことでしょう。
ガイドブックやネット上には旅の情報が溢れています。
この頃の懇切な情報は、すべてにリンクがはられていて、口コミも満載、
驚くことにgoogleのストリートビューで道順もバーチャルで辿れるし、
建物や店の中まで覗くこともできます。
コロナ禍にあって、現地からのライブ配信も増えました。

私にとってのヴェネツィアは世界に冠たる観光都市という表の顔ではなく、
そこで暮らす人々の生活に触れる、素顔の部分です。
いつまでも変わらずそこにある、そうあって欲しいヴェネツィア、
知っておきたい基本情報と、私の好きな場所を紹介したいと思います。
極私的なガイドであり、またここ数年行っていないので、情報として
古い部分もあるかもしれませんが、
しばしViaggio in fantasia 妄想の旅行を楽しみましょう。
まず魚の形をしたヴェネツィアの地図を眺めてみます。

画像1ヴェネツィア本島マップと主なポイント

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スクリーンショット 2021-09-29 14.51.31ヴェネツィアの公共交通、水上バスの路線地図

船で巡るヴェネツィア〜水上バスなど交通手段

ヴェネツィアと本土をつなぐ鉄道と道路は、ちょうど魚の形の頭の部分、
島の西北にあるサンタルチア駅とピアッツァレ・ローマが発着口で、
電車もバスも自動車も入ることができるのはそこまでです。
その先の乗り物はすべて船、あとは歩くしか移動手段はありません。
ヴェネツィアの公共交通の船は以下のようにいくつか種類があります。
*運河をゆく水上バス vaporetto ヴァポレット
*島の外側やラグーナの島々を結ぶ高速船 motoscafo モトスカーフォ
*対岸の本土へ渡る大型船 motonave モトナーヴェ
*本土とラグーナを巡る Alilaguna アリラグーナ

DSCF2714 のコピーPonte Guglie グーリエ橋の停留所の検札機。向こうから来るのはモトスカーフォ。


チケットはVENEZIA UNICA=ヴェネツィアウニカという
チャージ式電子カードで、駅や主要な停留所、空港などで購入します。
最近は予めネットで購入して、現地の自動販売機で発券する方法も
あるようです。
乗船する時は、このパスカードを停留所の検札機にピッとかざして
読み取ります。ただ、チケットの基本である片道1回券の料金が7.5エウロ
(2021年9月現在)と非常に高額です。
通常ツーリストなら滞在日数に合わせて24/48/72時間有効チケットや
1週間チケットを利用することになるのですが、これもまた住民用とは
運賃設定に格段の差があります。
うっかりチケットカードを持たずに乗ってしまったり、カードの
読み取りをし忘れて、巡回の検札員に見つかると多額のmulta 罰金を
とられるので注意が必要です。
片道1回券には改札後75分間有効ルールがあり、その間であれば乗り換え、乗り継ぎが出来ます。(例えばリアルト市場への買出しに行って帰ってくるのが75分以内ならば片道1回券でオッケー)
ヴァポレットの停留所は上りも下りも同じなので、乗る時は方向と行き先
を確かめましょう。
なかなか行き先の路線の船が来なかったり、来ても混んでいて乗れなかったり、時として歩いてしまった方が早い場合もよくあります。
目的地への移動のために乗るのではなく、片道1回券で島の周囲をぐるっと回る路線(2/4.1/4.2番の路線など)に乗り、夕暮れ時の
サンセットクルーズなど小さな船旅を楽しむのも一興です。
ヴェネツィアの公共交通
ヴェネツィアの水上バスヴァポレット

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画像3Santa Sofiaサンタ・ソフィアの乗り場からリアルト市場へ渡るトラゲット

ヴェネツィアといえば、まず真っ先にゴンドラといわれますが、
あの装飾つきのいわゆる観光用のゴンドラはあくまでツーリスト用であり、
実は私たちはおろか、ヴェネツィアのマンマも乗ったことはないのです。
浅草の地元住民が観光人力車には乗らないようなもの?
また、住民たちは自家用車ならぬ自家用ボートを持っている場合が多く、
チャーターして乗るタクシーボートを使うこともありません。
ただ、島の真ん中の大運河カナルグランデを横断するための traghetto
トラゲットと呼ばれる渡し舟があり、こちらは住民が日常的に利用する
ゴンドラです。大運河を横断するだけなので、ものの5分ほどですが、
ツーリストなら片道2エウロ(住民は1エウロ)でゴンドラ体験ができます。
カナルグランデ内に3カ所乗り場がある中で、Santa Sofiaサンタ・ソフィアの乗り場からリアルト市場へ運河を渡るのが使い勝手もよく、ヴェネツィア
らしさが味わえます。

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ヴェネツィアを歩く歩く〜パッセジャータの楽しみ

ヴァポレットに乗って運河を巡るのも楽しいですが、
ヴェネツィアの醍醐味は、なんといってもpasseggiata パッセジャータ
→人生はパッセジャータ)という町歩き。
どこへでも徒歩でカバーできる等身大の町なので、まずは歩いて回ることを
おすすめします。
自動車はもちろん自転車もなく、通るのはせいぜい荷物運びの台車くらい
ですから、歩くには安全です。
島は大小の運河の隙間を橋でつないだジグソーパズルのような構造で、
平らな直線の道路は少なく、狭い路地が立体的に入り組んでいます。
路地から路地、天水井戸のある小さい広場を通り抜け、古い橋を渡り、sotoportegoソットポルテゴという独特のトンネルをくぐり、運河沿いの
河岸に出る。そしてまたその先の路地を入って、歩く、歩く。
ヴェネツィアは歩く快楽を教えてくれるところです。
路地の要所要所には方向を示す「San Marco サン・マルコ」「Ferrovia 駅」「Rialto リアルト橋」など矢印の表示があります。
それでも迷路のような町で、道に迷うことしばしばですが、どちらに
歩いても限られた島の外へ出てしまうことはありません。
道を探しているうちに、思ってもみない素敵な場所にめぐり合うことも
あるので、迷子もまた愉しです。
歩き疲れたら手近なバールに入り、ヴェネツィア名物のアペリティーヴォ、spritzスプリッツ(→「アペリティーヴォのすすめ」)でひと休み。
地元っ子たちもお気に入りのバールでアペリティーヴォしています。
ここではパッセジャータとアペリティーヴォはセットで楽しむものと
決まっているのです。

DSCN0758 のコピー散歩の途中、カフェやスプリッツでひと休み。小腹ふさぎには名物のサンドウィッチ、トラメッツィーニがちょうど良い。

DSCF2466 のコピー 2スプリッツとパタティーナ(ポテトチップス)が定番

15319234_10211035301582338_2931371550126157575_n のコピー 2

ヴェネツィアで目覚める朝

宿は必ず本島内にしましょう。対岸のメストレなど本土周辺にリーズナブルなホテルがたくさんあるようですが、ヴェネツィアの本島に滞在し、
その風景と空気に浸ることが何より大事です。
旅の途中に、ひと時でもヴェネツィア暮らしの気分を味わうには、
ゴージャスなホテルよりも、キッチン付きのアパートを借りてみましょう。
ネット上ではairb&bなどの物件もたくさん見つかります。
カンパニーレの鐘と小鳥のさえずりとともに、ヴェネツィアで目覚める朝
ほど幸せに満たされることはありません。
あるいは、燃えるような茜色からすみれ色に染まってゆく運河やラグーナの
夕暮れ。ただそこにいるというだけで、何ものにも代えがたい至福の時間に浸ることができます。

セスティエーレと呼ばれる6つの地区(サンタ・クローチェ・サン・ポーロ・ドルソドゥーロ・サン・マルコ・カンナレージョ・カステッロ)に
分かれた島内の、どこに宿があるかでかなり印象が違ってきます。
観光の中心であるSan Marcoサン・マルコ地区は物価も高く、何より
ツーリストだらけで騒がしいので避けたほうがよいでしょう。
CannaregioカンナレッジョやSan poloサンポーロなどの地元住民の生活圏に近い地区がおすすめです。私はやはりマンマの家があったカンナレッジョに特別の思い入れがあります。高級ブランドショップや星付きリストランテはないけれど、ヴェネツィア暮らしの心地よさが味わえます。

大運河の対岸にあるジュデッカ島や、さらにその先のリド島は、それぞれに違った趣きの魅力がありますが、どこへ行くにもまず船に乗らなければ
ならず、アクセス的にはちょっと不便です。
イタリアの他の都市に比べて治安はよいほうですが、スリやぼったくりや
路上のインチキ商売は山ほどいますので、気をつけましょう。
特に駅や空港など、外へ逃げ道が開いている場所は要注意です。
また、晩秋にかけてヴェネツィア名物「Aqua alta アクアアルタ」の季節がやってきて、運が良ければ(悪ければ?)町が水浸しになる世にも稀な
光景に出会えます。(→ヴェネツィア名物アクアアルタのお話

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オンブラ・エ・チケッティ〜ヴェネツィアの味を楽しむ酒飲み天国バーカロ

いつも家でマンマの料理を食べることが第一の目的だったので、
リストランテに行く機会は少なく、実はそんなにヴェネツィアの外食事情に詳しくありません。
ただし、ここには独特の酒飲み文化があり、Bacaro バーカロといわれるヴェネツィアならではの居酒屋が秀逸です。
より本格的な食事を出すところはOsteria オステリアとよばれますが、
その区別は曖昧。いずれもCichetti チケッティという酒の肴や、地元っ子がOmbra オンブラと呼ぶ地酒のワインが楽しめます。
大皿に盛られたヴェネツィア料理の数々を、つまみぐいの要領であれこれ
選べて楽しく、目の前にあるものを指さして注文するので、間違う心配も
ありません。
しかも、どれも一皿100円くらいからと唖然とするほどのお値段。
このワインと肴、Ombra e Cichetti= オンブラとチケッティ は、
(→ヴェネツィア名物オンブラ・エ・チケッティ )居酒屋バーカロでの
合言葉。カウンターでの立ち飲みが基本の気軽な店なので、探検気分で
はしごしてみるのも楽しいものです。

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DSCF8012 のコピー「18ヶ月熟成サン・ダニエレ産のプロシュット70グラムのパニーニ、すぐに作ります、4エウロ」

tramezzini のコピーヴェネツィア名物のTramezzini トラメッツィーニ

DSCF7674 のコピー揚げたてポルペッテとモッツァレラチーズ入りの揚げパンはビールで。

レストランでなくても、バールやデリでおいしい食べ歩き

また、ヴェネツィアのバールには名物のTramezzini トラメッツィーニという具沢山のサンドウィッチがあり、町歩きの途中の軽食や小腹ふさぎに
ぴったり。ハムやサラミに卵、オリーブ、アスパラガスやアーティチョーク、ツナなどバリエーションが豊富です。
主な通りや市場の周辺には、Pizza al taglio 切り売りピッツァの店や、
食料品店が経営するデリなどテイクアウトの店も多く、パニーニ Panini
薄焼きサンドのピアディーナ Piadina 、リゾットのコロッケ Arancini
揚げミンチボールのようなポルペッティPolpetti 、 小さなピッツァ、
モッツァレラチーズ入り揚げパンなどなど、思わず買い食いしたくなる
誘惑に満ちています。
もう少しちゃんと食べたいなら、Rosticceria Tavola calda と呼ばれる
カフェやワインを一杯からフリットやパスタなど温かい食事もできる、
小さいファミレスのような軽食屋も便利です。

最近はおしゃれな造りのトレンディな店も増えているようですが、
評判のいい旨い食べ物屋は、概ね路地裏のどん詰まりにあって、
見つけにくい古ぼけた味わい深い店ばかりです。
逆にサン・マルコに近かったり、大通りに面した(呼び込みなどのいる)
大型店は要注意です。観光客をカモにするぼったくりも多いので、
気をつけましょう。
カフェやスプリッツ、ジェラートの値段は、サン・マルコに近づくにつれてきっちり上がっていくのが、ヴェネツィア人の商魂たくましいところです。










デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。