オリンピックは誰のもの〜パブリックビューイングをめぐって
先の見えないコロナウィルス感染拡大の中、
8割もの国民が中止あるいは延期をした方が良いと考える、
望まれないオリンピックが開かれようとしています。
私たちの命を脅かし、市民生活を蔑ろにしたまま、
強行されようとしているオリンピックは一体誰のためなのか。
突如日常を破って起きた #代々木公園のパブリックビューイング問題 、
状況はまだまだ継続中ですが、
6/20現在まで約1ヶ月の経緯をまとめてみました。
(経過が分かるよう見出しに日付を入れました)
5.17 それはある掲示板から始まった
私は渋谷区千駄ヶ谷の住民です。国立競技場はすぐ近く、
神宮外苑も代々木公園も徒歩で行ける生活圏です。
コロナウィルスの脅威にさらされ閉塞した生活が1年以上も続く中、
散歩は心と体にとって最大の救いであり、大切な日々の習慣になりました。
とりわけ明治神宮や代々木公園の緑の環境にはどれだけ癒されているか
わかりません。
友人たちともSNSでやりとりするのが当たり前になったSTAYHOMEの日常。
近所に住んでいながらリアルに会うことがままならないM子もそのひとり。私と同様に近所の散歩が日課のM子とは、身近にある豊かな自然環境が
どんなにありがたい存在か、よくチャットで語り合っていました。
そんな矢先の5月17日、M子が散歩中に代々木公園で発見した、
ある掲示板の写真を送ってきました。
突如出現した「樹木剪定のお知らせ」
植物園を取り囲む中央広場エリアを、#オリパラのライブサイト 会場の準備のため、周辺樹木の剪定するというのです。
たしかに春先から、オレンジ色の囲いがはりめぐらされていましたが、
誰しもそれはコロナ対策のためと思っていました。
そこに突如出現した「樹木剪定のお知らせ」。
「どうしてオリパラのために樹木が伐られる?」「ライブサイトって何?」寝耳に水、とはこのことです。
あまりの衝撃にM子と連絡を取って詳細を聞き、また散歩仲間の友人Kさんとも話して現地の確認、都の担当者に問い合わせてみるなど、手分けして
動くことにしました。
5.18 まずは現地の状況を確認
事態に驚いたKさんが、まずは代々木公園の現状の確認に向かいました。
掲示の地図を見ながら指定のエリアをチェックすると、中央広場だけでなく西門から広場に至る多くの木々に目印が貼られていました。
巡回の係員に聞いてみたところ、印があるのは元から公園が管理している
木で、どれが剪定されるかはオリパラ準備局でないとわからないとの話。
つまりライブサイト設営工事のための剪定作業は、公園管理センターでも
把握していないようでした。
また剪定は、6月1日から始まる工事用の大型重機や車両の通行の妨げになる
枝を払う目的で行われることもわかりました。
しかし、この時点でそのライブサイトなるものが、どのような内容と規模なのか依然としてあやふやであり、そもそもオリパラ自体、開催できるのか
どうかもわからないのに、コロナ以前に決まった計画をそのまま見直しも
せずに進めるのはおかしい、そのために樹木が無駄に切られてしまうのは
許しがたい、とさらに多くの疑念と不信感がつのるばかりでした。
5.18 ライブサイトについて都の担当者に問い合わせる
現地確認する一方で、今何が起きているのか調べることにしました。
ライブサイト計画の担当である「東京都オリパラ準備局」内の大会施設部に問い合わせてみると、以下のようなことがわかりました。
◆代々木公園をはじめとする都内の公園など数カ所に作られるライブサイトとは、パブリックビューイング大画面や盛り上げ会場という名のステージ、
関連グッズの物販ブースなどを設置するイベント計画。
(⇨思った通り電通マター)
◆代々木公園中央広場エリアに設営する予定で工事は6月1日から始める。
◆「樹木剪定」のお知らせを掲示したのは(M子が発見した)5/17月曜。
◆樹木の剪定については、設営工事車両通行の妨げにならないよう
枝を払い、進入路を中心に最小限にとどめる予定。
◆ライブサイト会場は高いフェンスで囲んで出入り口を限定、ネット予約制にして入場者をコントロールする。(⇨できるのか、そんなこと?)
◆基本計画で1日36000人と想定している入場者数及び詳しい内容については、コロナ感染状況に応じて検討中で、決まり次第公式サイトで周知する。
(⇨6月19日現在ではサイト上に計画詳細はまだアップされていなかったが、その後発表された全面中止の決定が21日に反映されている)
*「東京都オリパラ準備局」昨年末のライブサイト計画資料
東京都オリパラ準備局HPより
つまり誰もがコロナ対策だと思っていたオレンジ色の立ち入り禁止のエリアが、一転して今度は多数の入場者を集めたイベント会場になるという、
大いなる矛盾に満ちた計画。
樹木の剪定については、あくまで工事に伴う最小限といっても、
緊急事態宣言が再び延長されれば、工事の予定も変更になるのでは。
そもそもオリパラ自体、観客をどうするのかも決まっていないし、
さらに言えば開催されるかどうかもわからないではないか。
それなのにわざわざ密でハイリスクな状況を作る必要があるのか?
少なくとも観客の有無が決まるまで工事を止めるべきではと、いろいろと
問い質しても、電話に出た担当者は何の決裁権があるわけもなく、もごもごと歯切れの悪い返答のみ。ただいま検討中です、と繰り返すばかりでした。この樹木剪定の件についての問い合わせは多いのか?
と尋ねてみたら、かなり同様の電話がかかってきているようでした。
ちなみに電話の応対はとても丁寧です。上からの指示が確定せず、現場では困惑してるような気配も感じられました。
5.22 SNSでの拡散、そしてライブサイト計画の中止を
求める署名が立ち上がる
代々木公園で起きているこの状況を多くの人に知ってもらわねば、と
現地の写真や集めた情報を、M子と私、KさんとでSNSで発信し始めました。
主な拡散の場は、M子が多くのフォロワーを持つツイッター上です。
「オリパラから代々木公園の環境を守ろう」というメッセージは、
またたく間に、オリパラ開催に不安と不信を抱く多くの人たちに
広がっていきました。
その中のひとり、ロッシェル・カップさんという女性がこの問題提起に強く
賛同して「代々木公園の緑の環境を破壊するオリンピックのライブサイト計画の中止を求めます!」という署名キャンペーンを立ち上げることになりました。ここまでの流れはすばやく、拡散を始めて4日目の22日に署名が
スタートし、1週間足らずで署名は10万を超えました。
署名の動きは新聞、各局テレビのニュースや情報番組など次々とメディアに取り上げられ、さらに反響は大きくなっていきました。
それは多くの人たちが、コロナ感染拡大の最中にあって強行されようとしているオリンピックに疑念を持っていることの表れにほかなりません。
ライブサイト中止の呼びかけが、その不条理を可視化することに
なったのです。
25日に貼り替えられた掲示
5.25 代々木公園の樹木剪定作業とメディアの反応
署名による反対の声が上がる中、予定通り24〜25日の二日間で樹木の
剪定作業が始まりました。
ただし、初日には掲示が貼り替えられ、剪定はごく一部であること、環境への影響がない範囲であることなど、より丁寧な説明が加わっていました。
当局が市民の懸念に配慮したものと思われ、そして実際に剪定は限定的で
あり、景観に影響が出るレベルではありませんでした。
これは市民の声が大きく広がり届いた結果ではないでしょうか。
オリパラ準備局に再度連絡して確認してみると、やはり相当数の問い合わせが寄せられているとのことでした。
木の剪定を心配して、現場の様子を見に行っていたM子がちょうど来ていた東京新聞の取材を受けました。
その記事は翌日26日の東京新聞トップと「こちら特報部」に大きく取り上げられました。どちらもオリパラ開催への批判、懸念、中止を求める動き、
そして開催に固執する菅政権の支持率急落が並列して伝えられています。
5.28 署名は10万を超え、都議会へ向けて要望書を提出
6月の工事開始を前にした28日、署名の発起人のロッシェル・カップさん
から都議会へ、代々木公園ライブサイト中止の要望書が提出されました。
この時点で代々木公園の樹木剪定は終了していたので、要望書の焦点は
緑の環境を守ることから、さらにライブサイト計画の本質的な問題へ
移っていきます。本当の問題提起はこれからです。
コロナパンデミックの中、8割近くの国民が延期または中止をした方が
いいと考えているオリパラが強行されようとしています。
このライブサイト計画は、その矛盾の構図を端的に示すものです。
誰も望んでいないどころか、生活や命を脅かす結果になる計画を
「決められたことだから」と、見直すことができない。
こんな理不尽なことが許されてはならないのです。
その後、パブリックビューイングに対する批判がさらに高まると、
都知事は「代々木公園のライブサイト縮小へ」と発言を変えていきます。
いやそうではない、観客数を半分にすればよいのではない。
ただでさえ真夏の死ぬほど暑い時に、わざわざ密な場所を作り出す
という意味がわからないのです。
アルコール販売を取りやめる?といっても、そもそも売る気だったと
いうことが信じがたいのです。
公園に5人以上で集まるなといい、花見も禁止した公園で、
大規模な集客イベントをするという大きな矛盾を抱えたまま、
なし崩しに進められる工事を止めなければなりません。
工事開始の6月1日午後、現地の状況
6.01 工事開始日に「ライブサイト中止とワクチン会場転用」の速報〜都知事のまやかしの発表
ライブサイトの工事が始まる6月1日の午後、現地の状況を見に行きました。車両の出入りや資材が積まれているのをチェックしていると、
複数の報道班が来ていた中の一つ、テレビ朝日の報道ステーションの
クルーから取材を受けました。
これまでの経緯を話していたまさにその時、「都知事が計画中止を発表」という速報が飛び込んできました。にわかには信じがたく思っていると、
やはり「”オリンピックのパブリックビューイング会場”をワクチン接種に
転用」と言っただけで全面中止ではないという、まるで悪徳詐欺商法の
ようなすり替え。「ワクチン会場転用」という方便を使って市民の目を
かわし、その実ワクチン会場終了後にはパラリンピックのライブサイト
を開催するというのでは、結局計画の継続ではないか。
案の定、このまやかしの中止発表はあたかも都知事の英断であるかのように
ひとり歩きし、メディアの注目は代々木公園から逸れていきました。
代々木公園の中止報道が流れると、埼玉、千葉、横浜などが次々に
パブリックビューイング中止の決断を下していきました。
井の頭公園のライブサイト計画についても、武蔵野市から都へ中止の要望が出されます。
それなのに、当の代々木公園の「パラリンピックの」ライブサイトの工事はまんまと続行されるという、実にあざとく歪んだ状況になっていきます。
6.08 その後も工事は続行、代々木公園はオリパラの
誤謬と矛盾の象徴になっていく
ワクチン接種会場への転用という「都知事の英断」が発表されて1週間。
代々木公園の工事は「ワクチン接種会場」ではなく、「観覧用」として
元の予定通り進んでいました。
工事建築主は小池百合子、許可権者は渋谷区長長谷部健、建築許可は
電通代表五十嵐博。という工事計画の看板が立っています。
中央広場エリアは高いフェンスで取り囲まれ、ワクチン接種用と思われる
プレハブ棟や、異様ともいえる数の簡易トイレが設置されています。
そもそもアクセスの面からいっても真夏の代々木公園は、ワクチン接種には適していません。ワクチン会場転用というのも、
とにかく工事を無理やり続けるための口実にすぎないのではないか。
都民ではなく発注業者ファーストなやり方に疑念は増すばかり。
パラリンピックのパブリックビューイングも中止にして、その工事を
止めるべきです。
そして「ライブサイト計画反対」は、オリンピック開催を是として
いるわけではありません。
パブリックビューイングは「オリパラの誤謬と矛盾の象徴」であり、
私たちが求めているのは「オリンピックそのものの中止」なのです。
6.19 「都内すべてのパブリックビューイング開催中止」〜急転直下の都知事発表は本物か
代々木公園の工事が急ピッチで進行する6月19日の夕方、また突如として、都知事が「都内すべてのオリパラパブリックビューイング開催中止」と発表しました。不可解なことにその発表の中に代々木公園のパラリンピックに
ついての言及はありませんでした。「すでに代々木公園はすべて中止」との認識だったのでしょうか?(公式サイト上ではまだパラリンピックのPV開催は掲載されています)いや、そうではないはずです。
事実、6月11日に一部の報道で「都は都内パブリックビューイング全面中止を検討」と伝えられた時には、都知事は即座に「事実誤認だファクトではない」として当該報道機関に抗議文まで出しているのです。
1週間の間にどのような潮目の変化があったのでしょうか。
やはり都議選を前に、様々なかけひきがあるのだろうと思われます。
油断せず、ひき続き状況を監視していかなければなりません。
フェンスで囲われた国立競技場周辺
6.20 檻に封じ込められた町〜オリンピックは誰のもの?
オリンピックがあと1ヶ月と目前に迫り、千駄ヶ谷〜神宮外苑〜代々木公園
周辺は、大規模な交通規制が始まりました。
競技場の周りはバリケードのようにものものしいフェンスが張り巡らされ、
日に日に息苦しさが増しています。そこには本来平和の祭典であるはずの
晴れやかな雰囲気など微塵も感じられません。
まるで町は巨大な檻に封じ込められようとしています。
IOCの傲慢さや、組織委員会や政府の無責任極まる実態が露わになる
につれ、オリンピック開催に疑問を呈する声は高まる一方です。
しかし、運営側はもう後戻りはできないタイムリミットとばかりに
押し流してしまえば、反対の声もおさまり諦めるだろうと
思っているようです。
誰も望んでいないオリンピックは、国民の不安と苦悩をよそに
暴力的に強行されようとしています。
それはもうオリンピック禍と呼べるのではないか。
オリンピックは一体誰のもの?
都議会選挙も目前、今一度強くこの不条理を問いかけたい。
デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。