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神宮外苑再開発への意見〜15.神宮外苑創建の環境を守り、未来へ手わたすために

2022年4月15日。「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境アセスメントに
対して「都民の意見を聴く会」が開かれました。
17人の公述人からは、この再開発計画に対し様々な角度の問題提起があり、「緑豊かな歴史ある景観を守るべきだ」と提案を含めた計画見直しを求める声が相次ぎました。どの意見も多様で知見に富んだ素晴らしいものでした。公述人の声を、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。
以下に、
大橋智子さんの意見を紹介いたします。

神宮外苑創建の趣旨

私は本計画が近隣住民だけでなく広く国民に周知するだけの重要な意味を持っているにもかかわらず、充分な周知がされずに進んできたことに
ついて、また神宮外苑創建の経緯と趣旨、これまで守られてきた神宮外苑の環境を、これからも継続していただきたいという考えに基づいて意見を述べます。

環境影響評価書案p.11「事業の目的」に明治神宮外苑の創建当時のことがたった1行に満たない文で、「国民のためのスポーツの場を提供してきた歴史」とだけ記述され、その他の重要な歴史的経緯が抜け落ちています。
この根本的な認識違いが大量の樹木伐採を前提とした計画がなされた大きな問題点だと思います。
事業者が上位計画としている「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針(以下※印はその引用)」を策定した委員会資料にも
「明治神宮は内苑と外苑で構成する※」と書いてあります。
神宮外苑は明治神宮を構成する神聖な場所として、「国民の献費※(献金、寄付のことです。)」と「奉仕」によりできました。
神宮外苑は「公衆の優遊(ゆったりと心のままに楽しむこと)」を旨とし、その趣旨からスポーツ施設が設置され、都市計画公園となっていますが、
あくまでも「神苑」であることには変わりがありません
一説には崩御された明治天皇が相撲を好んだことから、当初は相撲場が設置されましたが、時代と共に現在のような国民が楽しむことができるスポーツ施設が建設されました。

スクリーンショット 2022-05-01 14.35.53創建時の外苑「明治神宮外苑志」より

スクリーンショット 2022-05-01 14.35.35創建時の外苑「明治神宮外苑志」より

green創建時外苑 のコピー創建時の外苑「明治神宮外苑志」より

しかしその中心は「聖徳記念絵画館」を取り囲む庭園で「中央の大芝生地と青山通りから伸びる4列の銀杏並木である。※」「植栽デザインの基本方針は絵画館前大芝生地を核として、“中央は薄く、だんだん同心円状に濃くなっていて、外周植栽は濃密に”である。明るい園地を濃い緑で取り囲むという植栽パターン構成※」が基本で中心軸の銀杏並木は外周の濃い樹木と一体として100年前から現在まで「風格ある景観※」(これは何回も繰り返されている言葉です。)として、明治神宮は樹木の管理を行い、地道な努力を重ねて、現在の樹形を維持してきました。

再開発で失われる100年の樹木

評価書案p.319、320によると、既存緑地の面積は今回手付けないことになった、銀杏並木の東側混交植栽群も含んでいるが、そこを除くと、
面積にすると今回の計画地内の既存樹木全体の64%に当たる、約1万㎡、
また体積で今回の計画地内既存樹木の58%に当たる、約6万㎥ほどの
既存の樹木が失われます。
市民に親しまれてきたこれほどの深い緑が失われるのです。100年かけて育ててきた宝物です。
一方新規緑地として追加される緑地は、屋上庭園が約9250㎡、芝生が3850㎡でこの二種で合計13000㎡としております。
p.320を見るとホテルの宿泊客しか立ち入ることのできないひな壇上の
屋上緑化まで含まれています。失われる100年の樹木の代わりに主に
屋上緑化と芝生で補おうとする計画
だということがわかります。
これでは、外周の濃い濃密な植栽が失われ、外周は薄い緑と超高層ビルになってしまいます。西側の深い緑と対になるシンメトリーな当初の植栽計画は失われてしまいます。
これでは小池百合子都知事が都市計画決定した時に語った、この計画が「創建の趣旨にかなう」とは到底言えません

情報公開も説明も不十分、秘密裏に進められた計画

始めに述べたように、神宮外苑の成り立ちが国内外からの献費と献木、全国からの奉仕による植樹であり、明治神宮は昭和27年に「時価の半額相当で
払い下げを受けた※」そのような経緯からも今回の計画を行うにあたり、
見解書p.53にある狭い関係地域だけでなく、広く国民に説明責任があります。これまで事業者は2019年3月に青山通り協議会、各町会・自治会ならびに各商店会だけに説明会開催を知らせるチラシを配布しました。
何の説明かよく理解されないまま、ごく一部の町会長だけが出席し、
事の重大さに気づき再度説明会を求めましたが、一切応じないまま、
2019年5月の環境評価条例に基づく縦覧が始まりました。
評価書案の縦覧はインターネットで公開することがありませんでした。
縦覧書を見るにはこちらから出かけて行かないとなりませんでした。
東京都に問い合わせたところ、事業者の意向でインターネット公開は行わないということでした。環境省では平成23年よりインターネットでの公表を
義務付け、「国民の情報アクセスの利便性を向上させることにより、情報交流の拡充を図る」としています。また「縦覧後も環境影響図書の公開を進める」ともなっています。
しかし本計画では過去の情報閲覧も容易に開くことができなかったり、
プリントもできないため、計画内容を知ることができにくくなっています。
この行為は計画の公開性に欠け、国の環境影響評価の趣旨に反しています。

2020年1月には事業者は「東京都公園まちづくり制度実施要綱に基づく神宮外苑地区公園まちづくり計画に関する説明会」を開催しました。
参加資格は案内を配布した範囲に限られ、住所氏名の記述を求めるという
限定的なものでした。
近隣以外を排除する説明会が公開性の高いものと言えるでしょうか?
前の公述人の方も近くに住みながら,最近まで知らなかったと述べてい
ました。

そこでは、既に神宮外苑の景観や環境に関する懸念を持った住民や廃止
されるJSCのテニスコート利用者などからも計画見直しの強い意見が出されました。しかしその後見直されたのは、東の混交樹木地帯の計画のみで、見解書p.7~12のように、西側の計画は見直されることはありませんでした。またその表現もp.9の球場のA-A‘断面の様に背景に見える壁面をほとんど見えない淡い線で描いています。
銀杏並木の高さを大幅に超える60mのボリュームの建物が雛壇になって続いていることをまるで隠蔽しているかに思われます。
評価書案p.401のNO.3眺望予測図は、審議会委員の専門家からも指摘されているように、球場の壁面が銀杏並木に隠れるような角度になっています。視点を少しでも西に振れば、球場の60mの建物が銀杏並木に覆いかぶさる様に見えるはずです。

tokyojingu210815 のコピー球場の建物ボリュームが淡い線で描かれた断面図

計画と符合しない環境評価の対象範囲

また今回の環境評価の対象範囲は、秩父宮ラグビー場、神宮野球場等が建っている銀杏並木の西側から伊藤忠ビルのある、青山通りまでとしています。しかし実際は、聖徳記念絵画館前の広場に現在ある軟式野球場やフットサル場を廃止して、そこに銀杏並木西側にあった神宮テニスクラブを移転する
計画が発表されています。
更にその東エリアに新たに建つ屋内テニス場は15mの高さの建物です。
テニスコート設置のため、聖徳記念絵画館前広場の外周にあった樹木が大量に伐採または移植されます。この広場は「大銀杏球場」という名前がついていますが、開発の計画配置図を見るとこの大銀杏も失われるようです。
この計画は今回の環境評価の範囲に入っていませんが、総合的にそれぞれが影響しあい、神宮外苑の環境を大きく変えることになるので、計画に含めて評価すべきと思います。
銀杏並木東エリアの混交植栽群を緑化面積に含んでいながら、手を付ける広場を含めないということは真の環境評価にはなりません。

隠されていた大量の樹木伐採計画

中央大学研究開発機構・機構教授で日本イコモスの委員でもある、石川幹子教授によると、今回の評価書案対象地とテニスコート設置のために消える
樹木は1000本以上で、事業者によると伐採、または移植とされています

しかし、移植に関しては、同教授によると新国立競技場建設時に移植された樹木のうち、移植前の姿を残している樹木はたった3本とのことで、現在の姿を見ると移植は樹木にとって過酷な環境であり、保存される本数に
カウントすることは大変難しいことがわかります。
石川教授は新宿区の都市計画審議会の報告で、この計画を知り、調査を始めたそうです。また「東京都、事業者は、ずっと公開してきたと言っておられますが、伐採される可能性のある樹木の位置を明示した情報は、2022年1月20日すぎまで公開されてこなかった」ということです。

スクリーンショット 2022-05-01 16.14.16

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こちら(上図)は石川教授が作成した図面で、赤く示した樹木が今回の計画により伐採または移植とされる樹木です。先生は航空写真を元に既存樹木を判読、さらに実査も行い,計画図に重ねて消去されている樹木を特定されました。ただし,フェンス内の樹木や影になっている部分はカウントできなかったそうです。
私は2019年の環境評価書案の縦覧を行い、意見を出しましたが、その時
銀杏並木東側の混交樹木が失われるということには気づきましたが、
これほど多くの樹木が失われることまでは把握しきれませんでした。
これは事業者が敷地内樹木がどれだけ失われ、環境に影響があるかを
調査公表していなかったからです。

美しい神宮外苑を未来に手わたしたい

2020年の東京オリンピック招致が決まった2013年に「国立競技場を建て替えるため」という大義名分のもと始まった神宮外苑地区の規制緩和ですが、そもそもオリンピックのアジェンダには「経済、社会、環境の各領域を包含する持続可能性の施策」が求められています。
また「IOCは既存施設の最大限の活用、および大会後に撤去が可能な仮設による施設の 活用を積極的に奨励」するとしていましたが、結局必要以上に
巨大な競技場がホワイトエレファント(=不要の長物)のごとく建って
います。この度の環境評価該当開発地は「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」のスタートでもある、東京オリンピックの精神にも反しています。これ以上神宮外苑の樹木を減らすことなく、スポーツ施設は
現在地での建て替えに見直して頂くよう強く望みます。
そして美しい神宮外苑を未来に手わたしたいと思います。


デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。