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令和6年能登半島地震における、リモートセンシングが貢献している災害対応についてのまとめ

まずはじめに、このたびの令和6年能登半島地震によりお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。皆様の安全と、被災地の1日も早い復興を心よりお祈りしています。

この記事では、令和6年能登半島地震における、リモートセンシングが貢献している災害対応についてをまとめました。


災害対応のタイムライン

1月1日16時10分の発災に伴い、政府は内閣総理大臣を非常災害対策本部長に「非常災害対策本部」を設置。非常災害対策本部は、内閣総理大臣が災害の応急対策を進めるため、特別に必要があると判断したとき、災害対策基本法に基づいて、臨時に内閣府に設置するものです。災害応急対策の方針を作成するとともに、関係省庁や地方自治体との総合調整などを行います。

また現地での最大限の対応を行うため、石川県に古賀内閣府副大臣を長とする非常災害現地対策本部を設置しました。

本章では、非常災害対策本部会議の議事録に基づき、発災直後の1月2日〜1月3日に災害に関する情報が非常災害対策本部にどのように集約されていたかを紹介します。

・地震発災直後(1月1日 16時10分)自衛隊、警察の広域緊急援助隊、消防の緊急消防援助隊は、発災後、速やかに航空機等による被害情報等の収集を実施。

第1回目の「非常災害対策本部会議」(1月2日 9時23分~9時46分)では災害応急対策等に関する実施方針を発表。

・第2、3回目の「非常災害対策本部会議」(第2回:1月3日 10時10分~10時35分第3回:1月4日 10:22~10:49)では、詳細な人的・物的・インフラ被害等の詳細と被害への対策を報告。

災害における情報収集

本章では、ドローン、航空機、人工衛星などのリモートセンシング技術を活用して上空からどのように被害状況を把握しているのかをご紹介します。

【重要】
大前提として、警察航空隊や自衛隊による情報収集と救出・救助活動をベースとして、それらの情報と連携して各省庁が管轄の応急対策を実施しています。本章で紹介する情報収集方法はあくまでも実際に行われた方法を紹介するのみで、それらの情報が政府の災害対策に組み込まれているかは別となりますので、ご留意いただけますと幸いです。

リモートセンシングでの情報取得について

リモートセンシングとは、「対象物に触れずに、離れたところから物体の形状や性質などを観測する技術」です。

人工衛星や航空機などに搭載したセンサを用いて、地表面や水面、大気中の様々な物質による反射波や放射を観測し、物体の識別を行います。

最近では、ドローン、車両、船舶など多様な手段によって、地球環境などの広域な観測から地域や都市など限られた範囲まで、多様なスケールの観測が行われています。また、それぞれの目的に応じて、様々なセンサが開発されています。

特に人工衛星や航空機によるリモートセンシングは、大気や地表の状況を広域かつ短時間で観測できることが特徴です。

リモートセンシングで利用されているセンサについては、過去のこちらの記事でもご紹介しています。

この技術を活用して、今回の「令和6年能登半島地震」にて各機関、企業がリモートセンシング技術を活用し、どのような情報を取得したか紹介します。

・国土地理院

国土地理院は、日本唯一の国家地図作成機関であり、国土交通省の機関です。政府の防災基本計画において、国土地理院は航空機、無人航空機等による目視、撮影等による情報収集を行うとともに、画像情報の利用による被害規模の把握を行うものとされています。

・空中写真(※1)活用し、被災前後の比較、津波浸水域、輪島市中心の火災焼失範囲(推定)、斜面崩壊・堆積分布データ、堆積分布図を取得しました。空中写真の撮影は、機体の下部にカメラ孔を設けた測量用の航空機に搭載された航空カメラを撮影士が操作して、撮影を行います。

写真は珠洲市長橋町付近(左は2024年1月2日と2010年4月に撮影)
出典:国土地理院

・JAXAは人工衛星「だいち2号」からの観測データを解析し、地殻変動と海岸線の変化のデータを取得しました。「だいち2号」はSAR(合成開口レーダー)を搭載し、昼夜や天候に関わらず観測が可能な衛星です。令和6年能登半島地震の際、発災後に大雨注意報が発令されるなど天候が不利でしたが、このような状況でもSARは非常に有効でした。

SAR(合成開口レーダー)については、過去のこちらの記事でもご紹介しています。

・アジア航測・朝日航洋
アジア航測株式会社と朝日航洋株式会社は共同で、被害状況を把握するため、1月2日に緊急撮影を実施し、航空写真を公開しました。

出典:「朝日航洋株式会社HP 令和6年能登半島地震による被害状況等の航空写真より抜粋

・一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)

一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は、日本の無人航空機を含む次世代移動 システム(ドローン・空飛ぶクルマ含む)産業の振興を目的として活動しています。

本団体は、「令和令和6年能登半島地震」発災後、ドローンによる物資輸送、被害状況確認、行方不明者捜索等を開始しました。ドローンは衛星や航空機に比べ、観測範囲は狭まるものの低コストにかつ簡便に計測できるのが特徴です。 また、対象物との距離が近いので分解能が高く、より詳細な観測が可能です。

活動詳細はこちら

・東京工業大学

東京工業大学の松岡昌志教授、イラン・タブリーズ大学のサドラ・カリムザデ助教らのチームは(JAXA)の人工衛星「だいち2号」の観測データを解析し、被災地の建物エリアを対象に、2日時点で震災前のデータから変化があった地点を抽出し、変化の程度に応じて4段階に分類しました。

出典:日本経済新聞

・株式会社Synspective

Synspective社は「令和6年能登半島地震」におけるSARデータの無償提供を開始しました。

詳細はこちら

同社のSAR衛星StriXは、従来の大型SAR衛星の約1/10である100kg級で、コスト面は、開発と打上げ費用を合わせ、大型SAR衛星と比較し約1/20を実現していることが特徴として挙げられます。

・株式会社アクセルスペース

アクセルスペースが「令和6年能登半島地震」で被災した地域の衛星画像を政府機関や自治体、報道機関に無償で提供することを2日に発表しました。

詳細はこちら

同社は、自社で独自の小型衛星コンステレーションを運用、保有しています。「衛星コンステレーション」とは複数基の人工衛星を連携させて動作するシステムのことです。人工衛星1基では捉え切れなかったエリアを複数基が「群」としてカバーすることで絶え間なく広範囲の情報を得たり、通信を行ったりすることができます。

過去のコンステレーションに関するnoteはこちらをご覧ください。

7.株式会社QPS研究所

QPS研究所は、「令和6年能登半島地震」の対応として、同社保有の小型SAR衛星QPS-SARで能登半島エリアを観測しており、国の行政機関、報道機関に画像提供していると発表しました。

詳細はこちら

QPS研究所は、世界トップレベルの高精細小型レーダー衛星「QPS-SAR」を開発し、2023年12月6日、東京証券取引所グロース市場(証券コード:5595)へ上場した会社です。

8.Planet Labs(米国)

Planet Labs(米国)は「令和6年能登半島地震」の発災前後の能登半島の衛星画像を公開。衛星画像からは、能登半島で85kmの海岸線で隆起が起きていることが判明しました。
Planet Labsは、CubeSatと呼ばれる小型衛星ネットワークを使用して、地球全体を毎日撮影し、リアルタイムの地球観測データを提供しています。

9.Maxar Technologies(米国)

Maxar Technologiesは、「令和6年能登半島地震」の発災前後の能登半島の衛星画像を公開。大規模火災が発生した石川県輪島市と、同県珠洲市、鵜飼の被害状況を捉えました。
Maxar Technologiesは、人工衛星を保有し、高解像度の商用衛星イメージングデータを提供する世界的な企業です。同社の衛星は地球観測や地理情報システム(GIS)に利用されています。

災害における情報集約

ここまで、各機関や企業が、ドローン、航空機、人工衛星等のリモートセンシング技術を活用してどのような情報を取得したかを見てきました。
本章では取得した情報を集約し、可視化して見やすくする取り組みについて紹介します。

・防災科学技術研究所

防災科学技術研究所は、「令和6年能登半島地震」に関する防災クロスビューを公開しました。防災クロスビュー( bosaiXview)とはSIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)※等により共有された災害対応に必要な情報を集約し、統合的に発信しているWEBサイトです。

平常時は過去の記録や現在の観測、未来の災害リスク、災害時は発生状況、進行状況、復旧状況、関連する過去の災害、二次災害発生リスクなどの災害情報を重ね合わせて(クロスさせて)、災害の全体を見通すことができます。

「令和6年能登半島地震」に関する防災クロスビューはこちら

※SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)
SIP4Dは災害時に対応する様々な機関が所持する情報を「相互に共有する」ことで、状況認識の統一 をはかり災害対応を効率的に実施できるようにするための情報流通基盤です。(出典:防災科学技術研究所より抜粋

防災クロスビューでは、国土地理院、 JAXA、 NASA、Synspective、 UMBRA、 QPS研究所、アクセルスペースで取得した情報が一元的に集約されています。

・東京大学・渡邉英徳研究室

東京大学・渡邉英徳研究室は被災地の3Dマップのための「能登半島地震フォトグラメトリ・マップ」を提供開始しました。能登半島地震フォトグラメトリ・マップは被災地の写真から3DCGモデルを生成する「STUDIO DUCKBILL」システムを活用し作成されています。これにより、津波浸水・崖崩れ・地殻変動による隆起などの被害状況を立体的に把握できます。またこのフォトグラメトリ・マップに活用されている、空中写真は国土地理院、衛星画像はPlanet Labs.のものを活用しています。

機能等の詳細はこちら

能登半島地震フォトグラメトリ・マップはこちら

上記のリモートセンシングデータやそれらを活用したマッピングシステムにより以下のような災害情報を取得できました。

1.火災や液状化・地震による倒壊・損壊などの建造物被害が発生した範囲と建造物の被害状況を推定

2.被災状況の分析「津波浸水」「斜面崩壊」「盛土崩壊」など

3.地震による地形・地盤等の変動とその影響

4.災害による、時系列での変化

その他衛星の活用方法

ここまでリモートセンシング技術による災害対応を紹介しましたが、人工衛星技術は通信手段としても貢献しています。

「非常災害対策本部会議」の被害報告によると、「通信関係については、固定電話で石川県において、通信サービスに支障が出ている。携帯電話では、石川県などにおいてNTTドコモは6市町、KDDIは6市町、ソフトバンクは8市町、楽天モバイルは6市町の一部の地域で通信サービスに支障が出ている。」と報告がありました。

そこで、今回、KDDIとソフトバンクは、衛星ブロードバンドサービス「Starlink」を被災地に無償で提供。この取り組みにより、避難所にいる被災者の方々はインターネット環境を利用することができ、通信網が途絶えがちな災害時において、衛星通信はその一役を担いました。

過去に、衛星ブロードバンドサービス「Starlink」について、解説していますのでご覧ください。

最後に

皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
本記事が少しでも、何かのお役に立てたら幸いです。

文章/金子 隆大
リサーチ/相原 悠平