見出し画像

GISとは?基本知識を1から紹介!

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、WebGISサービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

今回の記事では、GIS(地理情報システム)の、概要、できること、取り扱うデータ、ソフトウェア、解析の際に必要な基礎知識について幅広く解説していきます。

GIS(ジーアイエス)とは?

GIS(ジーアイエス)は、Geographic Information Systemの略で、日本語では「地理情報システム」と呼ばれます。地球上の地物や事象はすべて地理情報と見なせます。これらをデジタルマップに可視化し、情報の関係性やパターン、傾向を明らかにすることがGISの主な役割です。

場所に関する情報が必要な場面は多々あります。例えば、「駅から徒歩10分圏内の物件は?」「店舗の最適な出店場所は?」「感染症の発生率が高い地域はどこか?」などです。GISはこれらの場所に関する質問に対し、地図上で視覚的に答えを示すため、文字や数値で表されたデータよりも理解しやすくなります。

平成7年1月の阪神・淡路大震災をきっかけに、政府はGISに関する取り組みを本格化させました。その中心となるのが、国土空間データ基盤や国土数値情報の整備です。

では、なぜ政府がGISデータの整備を行うのでしょうか?

GISに関するハードウェアやソフトウェアの低価格化により、GISの導入が容易になってきました。しかし、地図データが電子化されていない、またはデータの仕様が異なるために利用できないといった問題がありました。その結果、各自治体や民間企業が独自にデータを整備する必要が生じ、社会的に重複投資が発生するなどの課題がありました。

このため、政府は地形、土地利用、公共施設などの国土に関する基本情報をGIS化し、広く社会に提供しています。

また、GISデータには地図データだけでなく、衛星データも含まれます。衛星データは衛星から収集され、広域性と同時性に優れています。そのため、災害監視、農林水産業、地図作成など様々な分野で活用されています。GISデータと衛星データの詳細な活用方法については、次の章で解説します。

GISは3つのデータの組み合わせ方次第

GISは、電子地図上に情報を重ねて編集、検索、分析、管理などを行うことができるシステムです。GISデータは点・線・面の3種類で表現されており、それらの組み合わせ方次第で、様々な分析をすることが可能になります。本章では、点・線・面とはどんなデータか、また、それぞれの組み合わせによってどのような分析が可能になるのかという点について解説していきます。


  • 点で表現されるGISデータ

点で表現されるGISデータとは、特定の位置を示すデータです。例えば、都市のバス停や電信柱の位置情報が点で表現されます。


  • 線で表現されるGISデータ

線で表現されるGISデータとは、ルートや道筋を示すデータで、例えば、道路、鉄道、河川、パイプラインなどの要素を表現します。


  • 面で表現されるGISデータ

面で表現されるGISデータは、エリアや地域を示すデータで、土地の区域、土地利用、土地被覆などを表現します。例えば、都市の公園、農地、森林などが面データとして示されます。

出典:ESRI

これらの3種類のデータは、それぞれ単体でも活用できますが、組み合わせることで、以下のような分析が可能になります。


  • 点+線 の組み合わせ→ネットワーク分析

点と線のデータの組み合わせによって、ネットワーク分析が可能になります。

日常生活で出発地から目的地への最適なルートを知るために、カーナビゲーションシステムやルート案内アプリを使うことが多いのではないでしょうか。このシステムの背後では、最短経路問題というグラフ理論の問題を解くアルゴリズムが使われています。グラフ理論は、ノード(点)とエッジ(線)で構成されるグラフの性質を分析する数学の一分野です。例えば、鉄道の路線図をグラフで表すと、ノードは駅、エッジは路線に相当します。

このように、物事をグラフとして抽象化し、その構造を分析する手法をネットワーク分析と呼びます。ネットワーク分析は、社会ネットワーク分析やウェブページの検索システムなど、多くの分野で活用されています。交通ネットワーク解析もその一例であり、交差点をノード、道路をエッジとして表現し、そのグラフ構造を分析します。

出典:宙畑


  • 線+面 の組み合わせ→バッファ分析

バッファ分析は、GISにおいて特定の地理的要素から一定の距離範囲内に存在するエリア(バッファゾーン)を特定する手法です。これは、線や面のデータと組み合わせて使用されることが多く、さまざまな応用が可能です。

バッファ分析の具体的な例として、道路(線)を中心に一定距離内のエリアをバッファゾーンとして設定し、学校の通学区域や公園のサービスエリアなどを評価することが挙げられます。この手法により、ある地点からどれだけの範囲が影響を受けるかを視覚的に示すことができます。

例えば、以下の図のように海岸線を基準にバッファを作成し、等距離ごとに色分けをすることで、津波到達のハザードマップを作成することができます。災害時の避難所から一定距離内の避難経路を確保するなどの防災計画にも役立てられます。

出典:https://club.informatix.co.jp/?p=1171


  • 点+面 の組み合わせ→便益分析

便益分析は、GISにおいて特定の地理的要素(点)とエリア(面)を組み合わせて、その配置による利便性を評価する手法です。これは、公共施設の配置やサービスの提供エリアを最適化するために使用されます。

便益分析の具体的な例として、バス停(点)と居住地域(面)を組み合わせて、住民にとって最も便利なバス停の配置を決定することが挙げられます。この手法により、どこにバス停を設置すれば最も多くの住民が利用しやすいかを視覚的に示すことができます。


出典:https://nnao-web.boo.jp/2023/07/31/post-1145/

上の図では、便益分析を利用して、公共交通空白地(不便地域)を抽出しています。

  • 面+面 の組み合わせ→天地人コンパスの分析例

天地人コンパスは、地球観測衛星のビッグデータをはじめとする様々な面データをもとに、その重なりや関係性を評価するWebGISサービスです。これは、複数の地理的要素がどのように影響し合うかを評価し、特定の条件に合う場所を見つけることが可能になります。(詳しくは4章で解説)

天地人コンパスの分析の具体的な例として、以下の図のように地表面温度が高い地域(面)と降水量が多い地域(面)を組み合わせて、気候変動の影響を受けやすい地域や異常気象のリスクが高い地域を特定することができます。

天地人コンパス分析例

GISで取り扱うデータ

GISを利用する際にはデータが欠かせません。あらかじめデータを手に入れれば、GISソフトでデータを一から作成する手間を省けます。データには有償と無償のものがありますが、有償データはすぐに使用できるように加工・調整されていたり、精度が高かったりする特徴があります。一方、汎用的なデータは無償で公開されています。今回は、みなさんにより身近な無料で使えるデータと地図を紹介します。


出典:国土地理院

基盤地図情報は、国土地理院が提供する位置の基準となる情報で、以下のように点、線、面のGISデータに分類されます。

点データ:測量の基準点など、特定の地点を示す情報→正確な位置の基準

線データ:海岸線、公共施設の境界線、道路縁、建物の外周線など、特定のルートや境界を示す情報→地図上で形状や範囲を明確にする

面データ:行政区画など、特定のエリアや区域を示す情報→地域の範囲や区分を定義する

また、点、線、面データのいずれとも異なるデータ形式ですが、これらのデータと組み合わせて数値標高モデル(DEM)も使用されることが多いです。DEMとは、地表面の高さをデジタル形式で表現したデータで、地形解析や水文解析、都市計画など多くの分野で活用されています。

これらのGISデータは、GMLファイル形式で提供されており、最大1/2,500の高精度でダウンロードすることができます。


出典:国土交通省

国土数値情報とは、国土交通省国土政策局が提供する、国土に関する電子地図用のデータであり、地形や土地利用などの基礎的かつ汎用的なGISデータです。これらのデータは、以下のように点、線、面のGISデータに分類されます。

点データ:避難施設など、特定の地点を示す情報→緊急時の避難場所を特定

線データ:河川や鉄道など、特定のルートや境界を示す情報→地図上で交通や水路の形状を明確にする

面データ:鳥獣保護区や政策区域など、特定のエリアや区域を示す情報→地域の範囲や区分を定義する

また、点、線、面データのいずれとも異なるデータ形式ですが、これらのデータと組み合わせてパーソントリップ調査の統計情報も提供されます。パーソントリップ調査とは、人々の移動パターンを調査したデータであり、交通計画や都市計画など多くの分野で活用されています。

これらのGISデータは、シェープファイル形式などで提供されており、この形式を読み込めるGISソフトであれば、すぐに使用することができます。


出典:国土交通省

位置参照情報とは、国土政策局が提供している、日本全国の大字町丁目または街区単位の代表位置を位置座標として提供するデータで、GISでアドレスマッチングに必要な情報です。これらのデータは、以下のように点、線、面のGISデータに分類されます。

点データ:学校など、特定の地点を示す情報→教育施設の正確な位置を特定

線データ:鉄道など、特定のルートや境界を示す情報→地図上で交通路の形状を明確にする

面データ:行政区域など、特定のエリアや区域を示す情報→地域の範囲や区分を定義する

これらのGISデータは、CSVファイル形式などで提供されており、この形式を読み込めるGISソフトであれば、すぐに使用することができます。


出典:e-Stat

政府統計の総合窓口(e-Stat)は、各府省が公表する統計データをまとめたデータベースで、国勢調査、経済センサス、農林業センサスなどのデータを提供しています。これらのデータは、以下のように点、線、面のGISデータに分類されます。

点データ:行政界単位やメッシュ単位の位置情報など、特定の地点を示す情報→統計データの正確な位置を特定

線データ:経済センサスなどの調査区域や境界線など、特定のルートや境界を示す情報→地図上で統計地域の形状を明確にする

面データ:国勢調査の集計地域など、特定のエリアや区域を示す情報→地域の範囲や区分を定義する

統計データはTXT形式、境界データはシェープファイル形式で提供されており、行政界単位、あるいはメッシュ単位でダウンロードすることができます。

出典:公図ビューア

登記所備付地図データは、法務省が提供しており、法務局(登記所)に備え付けられる土地の位置や区画(筆界)を明確にするための精度の高い地図を電子化したものです。これらのデータは、地図XMLフォーマットで提供されており、ダウンロードして使用することができます。

ESRIジャパンは、GISソフトウェアのリーディングカンパニーであり、地理空間情報の解析や可視化をサポートする製品を提供しています。その中で、ESRIジャパンが提供するGISデータには、基盤地図情報や高解像度航空写真などが含まれています。特に、全国市区町村界データは、ArcGIS(4章で説明) の利便性向上のために、サンプルデータとして無償で配布されています。これらのデータは、シェープファイル形式で提供されており、ダウンロードして利用することができます。


出典:ESRI


Tellusは、日本発の衛星データプラットフォームであり、衛星画像データおよび分析ツールを提供しています。具体的には、以下のようなデータを提供しています。

・PALSAR-2 L1.1 (CEOSフォーマット): JAXAが作成する標準処理データ
・PALSAR-2 L2.1 (GeoTiff): 高次処理プロダクト
・AVNIR-2オルソ補正 (GeoTiff): 高解像度航空写真

AVNIR-2のタイル画像データ 出典:宙畑

これらのデータは、さまざまな分野で活用が可能です。具体的な利用例としては、以下のようなものが挙げられ、衛星画像データから分析した結果が利用場面に応じて画像データ、点・線・面データの形式で提供されています。

・資産調査: 地上の資産を調査するために衛星データを活用
・株価予想: 株式市場の予測に衛星データを応用
・森林監査・管理: 森林の状態をモニタリングするために衛星データを使用
・物流: 物流業界での活用
・魚群探査・養殖監視: 漁業や養殖業における衛星データの活用
・農作物の生育予測: 農業における生育予測にも役立つ

Tellusは、衛星データを手軽に扱える世界を目指しており、地図タイル(Webメルカトルで投影されたpng画像)や衛星データプロバイダから提供を受けたままのデータを提供し、ブラウザ上でデータの検索や解析が行えるほか、ビジネスや研究目的に適したデータが多数取り揃えられています。

GISが使えるソフトウェア

GISで取り扱うデータを解説したので、次はGISを使うことができるソフトウェアを3つ紹介します。


  • ArcGIS

ArcGISは、地理情報を収集、整理、管理、解析、伝達、および配布するための包括的なシステムです。このプラットフォームは、GIS(地理情報システム)の構築と使用において世界をリードしており、行政、企業、科学、教育、メディアなどの様々な分野で地理情報を活用するために、世界中で広く利用されています。ArcGISを使用することで、地理情報を公開し、誰でも容易にアクセスできる環境を構築することが可能です。このシステムは、Webブラウザ、モバイルデバイス(スマートフォンなど)、そしてデスクトップコンピュータを通じて、どこからでも利用できるよう設計されています。

そしてArcGISは、点、線、面データの活用を容易にします。また、これらのデータの視覚化や解析を行うだけでなく、データの共有や協業も容易にします。これにより、異なる部門や組織間での情報共有や意思決定プロセスの改善が促進されます。加えて、定期的にアップデートされ、新しい機能やツールが追加されるため、常に最新の地理情報技術を利用することができます。

出典:ArcGIS とは? | ArcGIS Resource Center
  • QGIS

QGIS(キュージーアイエス、旧称:Quantum GIS)は、地理空間情報データの閲覧、編集、分析機能を有するクロスプラットフォームオープンソースGISソフトウェアです。

出典:QGIS - Wikipedia

無料でありながら、有料のGISソフトウェアに匹敵する機能や操作性を備えており、さらに機能の追加は無料のプラグインを利用して行うことができます。NHKや兵庫県西宮市など大手メディア・自治体でも活用されており、使いやすさ・教えやすさにも定評があります。

QGISは、最新版とLTR(Long Term Release)版が提供されていますが、初心者の場合はLTR版を選ぶことが推奨されており、LTR版はバグ修正が長期的に行われており、より安定した動作が期待できるからです。

このソフトウェアは、データの閲覧から地図の作成、データの作成・編集、そして解析まで幅広いGIS機能を提供しています。点、線、面データを含む様々な地理情報データを直感的に操作し、効果的に活用することが可能です。

詳しくはこちらから
4. 機能 — QGIS Documentation ドキュメント

  • 天地人コンパス

2章でも紹介しましたが、天地人コンパスは、地球観測衛星のビッグデータを中心に、解析、可視化、データ提供を行うWebGISサービスです。様々なデータを基にして農業生産や都市開発などの目的に応じてカスタマイズが可能であり、ビジネスにおいて最適な土地を宇宙から発見することができます。

これまで、天地人コンパスは、宇宙からのビッグデータを活用した様々なプロジェクトに利用されてきました。例えば、宇宙ビッグデータ米プロジェクトでは、稲の栽培環境をモニタリングし、より美味しいお米の栽培を目指しています。また、キャンプ場候補地を探すプロジェクトや、気象情報を活用して複数の土地の類似性を評価するプロジェクトなどにも活用されています。

出典:天地人コンパス

一般的に、衛星データといえば撮影された写真を思い浮かべるかもしれませんが、天地人コンパスでは、気象情報や地形情報、地表面温度などの多様なデータを世界中のあらゆる場所で取得することができます。さらに、ユーザー自身が持つ地上データや実績データと組み合わせ、複合的な分析を行うことも可能です。


出典:天地人コンパス

GISの解析における基礎知識紹介

では、実際にGISの解析を行う際に必要となる基礎知識について紹介します。

以降の内容は有料となります。(この記事のみ購入する場合は、200円です。月に3~4記事が月額500円になるサブスクリプションプランもご用意しております。)
天地人へのご質問・記事に関するご感想・記事の内容のリクエスト等ございましたら、info@tenchijin.co.jp までお気軽にお問い合わせください。

ここから先は

4,039字 / 7画像

¥ 200