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ザ・コレクターズ武道館ライブ・レビュー2022

ロンズデールのトレーナ・シャツの上にインナーをはずしたM51を羽織り、サイドゴアブーツを履いて地下鉄に乗った。目指すのはもちろん日本武道館。だがその前に神保町のディスクユニオンに寄ったらウェディング・プレゼントがウクライナ民謡をアレンジしてピール・セッションズで演奏したコンピレーションが380円で買えた。悪くない。

あれからもう5年。前回はオープニングのマッシュアップ動画を見ながら既に泣いていた。なんだかよくわからないまま笑いながら泣いていた。熱心なリスナーではなかった時期もありつつ、それでもコレクターズを聴きながら自分自身いろいろな場所で生きのびてきたことがうわっといちどきに押し寄せてきて、それがなんなのかも分からないまま泣き笑いしていたのだ。

それに比べれば今回は余裕があった。「はいはいまた来ましたよ~」くらいの感じであった。それでよかったと思う。ザ・コレクターズは常にそこにあるバンドだ。ポール・マッカートニーをドームに見に行くのとは違う。武道館であってもそこにあるのは僕たちの毎日の泡のような生活のあれやこれを直接ビートする近さであるべきだ。祝祭のなかにこそそのまま手にとれるようなリアルな瞬間があるべきだ。

彼ら自身もまた、そうした「当たり前の手ごたえ」みたいなものを求めていたのだと思う。セット・リストも最新曲『裸のランチ』から始まり、スタンダードとのバランスを取りながらも『ヒマラヤ』『たよれる男』『全部やれ!』『ノビシロマックス』『マネー』『お願いマーシー』『限界ライン』など、要所を最近の曲で固めた。アニバーサリーではあったがセンチメンタルな回顧モードは一切なく、コレクターズの最前線、最新型のコレクターズがあった。

MCでは加藤とコータローが互いに「年々よくなるよね」とほめ合って笑いを取っていたが、それはまったく冗談ではなく、加藤は年々歌が上手くなっているし、コータローのギターは見るたびに迫力を増しているし、コレクターズは間違いなくよくなり続けている。コレクターズは成長を内包したバンドであり、それは聴き手である我々自身が日々なんらかの意味で成長していることの写像にほかならない。この日はこのやりとりのときだけちょっと涙が出た。

巨大なモッズ・ラウンデルが光り、ステージにスクーターが置かれるなどの演出はあったものの、ゲストもサポート・メンバーもなく、ただ4人で「いつもの曲」を繰り出し続けた。そのあまりにあたりまえのたたずまいは武道館をちょっと広めのライブハウスくらいに感じさせていて、ライブ・バンドとして彼らが積み上げてきたものの確かさを改めて認識させた。

このライブのハイライトは、世界のどこかで今まさにリアルな戦争が戦われている状況をリファーした『NICK! NICK! NICK!』であり、またCOVID-19で世界中からロックが消えたことを下敷きにした『お願いマーシー』であった。しかし、そうしたメッセージは取り立てて語られるのではなく、曲にしのばされて深く広がって行ったのであり、それこそがロックの仕事なのだということがバンドにも僕たちにもわかっていた。

過剰な気負いなく、2度目の武道館を「ふだんのライブのように」やりきったコレクターズをカッコいいと思ったし、それを「これがモッズだ」というタイトルにしたのもシビれたね。


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