日めくりカレンダー


    板谷麻生
 先日ぼーっとしているときに、ぱっと浮かんだ。日めくりカレンダーを作ることを思いついた。一日から三一日まで格言や名言、教訓、故事が載った日めくりを作ればずっと使える。資源を無駄にしないし、また役立つ言葉が書いてあれば見た人にも良い影響を与えるだろう。
 さっそく取りかかろう。一日は「塞翁が馬」だ。中学生の頃、給食時間に流れてきたのがこの故事の元になった物語だ。塞翁の息子が馬から落ちて骨折した。人々が見舞いに行くと塞翁はこれは幸いになるだろうと言った。やがて戦争が始まり村の若者は戦争にかり出されたが、塞翁の息子は怪我のため戦争に行くのを免れた。多くの若者が戦争で命を落とした。
幸と思えることが、後に不幸になったりまたその逆も言える。ぼんやり聞いていたが、そういうものなんだと納得した。その頃一三,四歳で、後の人生で本当に「塞翁が馬」のような展開になるとは想像できなかった。この世に生まれてきたからには、幸不幸、老病死苦は誰にでも訪れるということだ。
二日。「人は無力だから群れるのではなく、群れるから無力になる」この言葉は、ルポライター竹中労の名言だ。人は己自身が強くなれば、群れる必要はなく強くなれると竹中は言った。竹中は生前、時の首相夫人に対して「庶民ぶるネコなで声の権勢欲夫人」と揶揄した記事を書いた。首相側から名誉毀損で訴えると言われた週刊誌の編集部は竹中の連載を中止した。それに怒った竹中は週刊誌を相手に訴訟を提起し、八年後週刊誌側が慰謝料と謝罪文を出すことで和解した。このように竹中は群れないことで生涯強く生きた。
三日。「怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みの息むことがない。」この言葉は、ブッダの残した古い教典典である、『ダンマパダ』(法句経)に出ている言葉だ。続きがあって「怨みをすててこそ息む。これは永遠の真理である」となっている。簡単に言えば、怨みがあってもそれに怨みで返せば、いつまで経っても怨みは消えない。怨みを捨てれば、怨む気持ちは消える。数年前、ある高齢男性が東京でブレーキ操作の過ちで、交通事故を起こした。事故により三十代の女性と三才の女の子が亡くなった。残された夫の悲しみは想像もできないほど大きい。夫は事件の裁判で意見陳述し、被告の男性に重い実刑判決を望むと言った。愛する妻と子を亡くした上に、被告が罪を認めず車のブレーキの故障のせいにしたので大きな憤りでいっぱいだ。テレビカメラの前で気丈に答える男性に、ブッダの言葉を教えたいと思った。被告に対する怨みを捨てれば、楽になるだろうから。

さざんか39号

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