Coupa年代記(下)~Coupaはどのように購買ソリューションのトップに立ったのか

3. 覇道期

コメント 2020-08-05 101313

3-1.覇道期~Coupa、爆発的な攻勢に出る(2017年)

(1).買収、新機能追加による機能強化
しかし一息つくことなく、Coupaの製品機能の大幅拡大が2017年に爆発します。株式上場で手にした資金を活用して、一気に多くの企業買収に動くことで、Coupaは最新技術を取り込んだ大幅な機能強化を成し遂げます。
買収したのは、Spend360(AI活用での支出分類機能)、Trade Extensions(ソーシングシナリオなど見積最適化機能)、Riskopy(サプライヤーのリスク判定データの集約・取り込み機能)、Deep Relevance(AI活用の不正検出機能)、Simeno(カタログ購買機能強化)です。
また製品の新機能として、外部サイトAmazonの商品をCoupaのカタログと同一操作で購入できる「Coupa Open Buy with Amazon Business」(これにより、CoupaでAmazonからの購入実績データも一括管理可能に)、Risk Aware(評価会社とユーザーコミュニティのデータを用いたサプライヤーのリスク監視)、Service Maestro(作業の明細内容(SOW)に対応するサービス購買機能)などが追加されました。

(2).コミュニティ・インテリジェンス活用の明示
このような製品機能強化とともに、新たな戦略的方向性がさらに明確になります。「AI(Artificial Intelligence:人工知能)、BI(Business Intelligence:データ活用)の次はCI(Community Intelligence:コミュニティ・インテリジェンス(集合知))だ)」のスローガンのもとに、コミュニティ・インテリジェンスを重視する姿勢が強く打ち出されたのです。

デジタルの世界を振り返ってみましょう。2010年代に入って、仮想通貨(暗号資産)やブロックチェーンなどが本格化してきました。またSNSで「いいね」の数、あるいは「映え」を意識するようにもなりました。
これはどのように生じてきた現象なのでしょうか。その根底にあるのは、「全員が評価したものは意外と正しいのではないか」という考え方です。逆の感情も発生しました。正体や立場不明の権威者(”顔が見えない”権威者)による評価に金を出し、わざわざ使う必要があるのだろうかとの疑念です。すなわち、「脱中心化された信頼(Distributed Trust)」の世界観です (詳細は「Coupa(クーパ) is READY! ~ 十分な比較検討のうえに、実りある購買ソリューションの導入を(2019年4月2日)」の「改めてCoupaの特長を整理する」などを参照)」)。例えば、ブロックチェーンは、一元的な運用担当者を持たずに、参加者の皆がデータを保持することで信頼性を持つ仕組みを作ろうとすることで支持を集めています。

これを購買業務の世界に取り込んだらどうなるか、Coupaはまさにこの点に取り組みました。その結果、「Community Intelligence」の考え方が結実します。

誰かまとめた「世間平均の承認までの時間は何時間です(上から目線で「これが基準だぞ」)」で判断されるよりも、「皆=Community」から得られる事実(データ)に基づいた「あなたの承認までの平均時間は、全ユーザーを3時間上回っています(すごいね)」の方が、皆さんはよほど身に染みるのではないでしょうか。そもそも「誰か」とはいったい何者なのでしょうか、そこでまとめられた値には恣意的なバイアスがかかっていないといえますか、わざわざ金を出して買うほどの価値があるでしょうか(押しいただいて使うほどの価値があるのでしょうか)。こう考えてしまうと、正体不明の誰かが販売しているものの価値は徐々に怪しくなってきます。

さらに、サプライヤーの危うさ(リスク)についてはどうでしょうか。皆が「いいね」しているサプライヤーはやっぱり良い。逆に、皆が「危ないぞ」と感じるサプライヤーの情報をリアルタイムで共有できるとしたら、それはかなり役立つ(真実が反映される)のではないでしょうか。

このような背景を受け、「データに基づく集合知」の活用を購買業務に取り込み、「コミュニティ・インテリジェンス(Community Intelligence)」として活用を実現してきたのがCoupaです。2017年は、この「コミュニティ・インテリジェンス」が、まさに前面に押し出された年となりました。

3-2.覇道期~Spend Smarter、そして遂に日本へ進出(2018年)

(1).ビジョン「Spend Smarter」を掲げて
Spend Smarter(もっと賢くスマートな支出管理の仕方を実現)」のCoupaの企業ビジョンが出されたのが、2018年です。
買収による機能強化はこの年も続きました。DCR Workforce(派遣・業務委託(契約)社員購買)、Acquire(カタログ横断検索機能)、Hiperos(サプライヤーのリスク判定)をCoupaは買収しました。また新機能としては、Spend Guard(支出状況モニタリング機能)、Sourcing Optimization(ソーシングシナリオなど見積最適化機能,旧Trade Extensions)、Coupa Pay(早期支払割引なども含む支払管理機構)が加わりました。

(2).Coupa Japanの設立
2018年の何よりも大きなニュースは、Coupa Japanの設立です。
Coupaの東アジアへの取り組みが本格化するとともに、東京大手町に事務所が構えられました。
販売代理店契約で進出している海外ベンダーは、日本国内ニーズへの対応が耐えがたく悪く、遅くなりがちです。本音を言うと、Coupa Japanができるまでは、Coupaも決して対応が良いとは言えませんでした(満足できる状態ではありませんでした)。これは、海外ベンダーの利用を考える際の注意ポイントです。

Coupa Japanの設立により、この状況は一変します。日本企業がCoupaの国内導入を真剣に検討できる状況になりました。そして11月には、「2018年Coupaジャパンシンポジウム(Coupaジャパン最初の年次イベント)」が開催されました。

3-3.覇道期~遂にトップに~調査レポート3冠の達成(2019年)

(1).さらなる機能強化
2019年になっても、Coupaの企業買収による機能強化は継続します。競合他社の製品強化の勢いが鈍っても、Coupaの新機能の追求の姿勢は変わりませんでした。Exari System(契約ライフサイクルマネジメント)、Yupta(出張旅費の最適化など)の買収が、Coupaの製品機能強化につながりました。Exariは、Coupaの新機能CLM Advancedとなりました。新機能では、ユーザー(コミュニティ)の共同購買機能も2019年の強化ポイントでした。Coupa Advantage(購入量をCoupaでまとめることで、サプライヤーからの価格を安くする)やSource Together(ユーザー同士の共同購買促進機能)が、新機能として加わりました。

(2).Business Spend Indexの開始
データに基づく集合知活用の追求が、2019年にさらに進みます。経済指標としての活用が提起され、Coupaに蓄積された購買データを活用したBusiness Spend Indexの発表が2019年に始まります。
ここで景況感指数の信憑性に目を向けてみましょう。例えば、例えば、ISM米国購買担当者景気指数は、企業の買い物担当である購買担当者にアンケート調査して得た、景気が良いか否かの判断回答を集計した、いわば「感覚」の集計です。その他の景気指数も概ね同様です。それ以外の方法が無かったこともあり、景気動向を測るにはこのような方式が採られてきました。

でもそれで本当に良いのか、「データに基づく集合知」を活用し、Coupaに集約された各企業ユーザーのデータを匿名集計して経済指標にした方がより良いものができるのではないだろうか。そのような考えから「感覚」の集約ではない、データに基づく(データ・ドリブン)な経済指標としての「Business Spend Index」の公開が始まりました。まだトライアルの意味合いも大きいように思えますが、 相応の精度を有しているように見えます。

(3).Coupa、ダントツ購買ソリューションになる
このように時流を捕まえた機能強化を強力に進めてきたCoupaが、ガートナー、フォレスター、IDCの3大調査会社の評価レポートすべてでダントツの首位に立ったのが、2019年です。前年までは、Aribaとの並走(2トップ)でしたが、その状態を脱して、圧倒的な「ダントツ1位」に立ったのです。
購買ソリューションには、各企業ごとの向き不向きが当然あります。選定に際して、これと決めつけることは危険と思います。しかし導入の際には、「ダントツ1位の購買ソリューションはどのようなのだろう」と、Coupaと対比してみることが不可欠になっています。

(4).Coupa日本市場対応の完了
日本市場への対応も、2019年に完了しました。競合他社製品に比べると、非常に素早い対応となりました(他社は1年以上かかっています)。

裏話をすると、2018年のCoupaジャパン・シンポジウムの製品デモで披露されたCoupaの日本語画面類には、Coupaジャパンで修正した結果がまったく反映されていませんでした。修正実施前の状態で、製品デモが行われるという”大事故”が発生していたのです。そのような事故もありましたが、Coupaは、2019年春には日本市場への対応を完了し、さらに以降の法規制対応への検討を継続的に行う体制を整備しています。

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そして10月には、2回目のCoupaジャパン・シンポジウムが、前年より大規模に開催されました。ここでは三菱重工業の導入事例の紹介がありました。
三菱重工業の資材調達ホームページには、現在「Coupa(新間接材調達システム)」のページが設けられ、主要な操作説明の動画を含め、素晴らしく活用されている様子が覗えます。


3-4.覇道期~成長し続けるCoupa(2020年)

(1).Coupa、4割成長を継続中
新型コロナウイルスによるパンデミックの発生により、2020年にはこれまでとは違う日常が展開されています。しかし、時流を捕まえた機能強化を強力に進めてきたCoupaの業績は、勢いが鈍るのではないかとの懸念を跳ね返して、依然4割成長を継続中しています(2020年第1四半期決算結果)。

(2).購買業務のあり方まで~不確実性の時代における回復力の構築
2020年は新型コロナウイルスのパンデミックという、過去に例を見ない年となりました。そこでCoupaが打ち出してきたのが「不確実性の時代に回復力(レジリエンス力)構築するフレームワークとツールキット」です。
このプレスリリースに1つ注目すべき点があります。「Innovation」という言葉が、(おそらくは)初めて使われました。この「フレームワークとツールキット」では、パンデミックが引き起こした事態に対して、どのような業務のあり方を目指していくべきなのか、それに対してCoupaはどのように使えるのかが提示されています。
便利で有効な製品を単に提供するという立場を越えて、どう業務を作り上げるべきなのか、そのためにどのようにCoupaは使えるのかの提案にまで、Coupaが踏み込んできたことが「Innovation」という言葉に表れているように思います。
この路線をCoupaが果たしてどのように進めていくのか、注目していってみたく思っています。

追記: 私とCoupa

最後にCoupaと私の関係についてお話します。私は、IBMグローバル全体の中で、日本(日本IBM)の購買コンサルティングの責任者(Procurement Consulting Service Lead)を担当していました。前述のAribaの話など、その立場で様々な興味深い経験をしてきました。
ちょうど2009年ごろだったと思います。内容があるWebinarを提供する新しい企業が登場しました。創業間もない頃のCoupaです。マスコットのCoupa Samが日本的な姿だったこともあり、印象に残りました。
その後、IBMがCoupaとの関係を強めていきます。AribaがSAPに買収されたのと同じころに、IBMも老舗ソリューションのEmptorisを買収します。しかし、EmptorisにはProcure-to-Pay(P2P)の機能がありませんでした。顧客にトータルな購買ソリューションを提供するため、そして強化しつつあった業務アウトソーシング(BTO: Business Transformation Outsourcing)事業のIT基盤として使うには不足が生じます。そこで、IBMとCoupaとの協業が始まりました。IBMは、買収したEmptorisにCoupaを組み合わせて提供を始めたのです。日本でも、2013年初めにはこの動きが具体化していました。IBMとCoupaの正式なアライアンス締結は2015年になりますが、実際の協業はそれ以前から始まっていました。
このような立場にありましたので、私はCoupaの全ての機能に、2013年から触れてみることができました。その結果、使い勝手の良さ(含:設定の手軽さ)に魅せられた1人になったのです。「一週間あれば、お客様と検討できるたたき台(POC: Proof of Concept)を作ってみせる」と豪語していたくらいです。Coupaはそのくらいに、購買業務を理解し、要点を押さえているならば、簡単に設定できる仕組みでした(設定画面から一元的に迅速に設定できるところは変わっていません)。
その後、私も日本IBMを離れ、またIBMもAribaとの連携に方針を変更することでCoupaとの関係を絶ちました(同時に、買収した歴史あるEmptorisを消滅させる決定を行い、いまだに「Emptorisといい、Stalingといい、IBMは大企業の論理で買収しては無責任に消滅させる」などを当てこすられたりもします。
しかしCoupaとはその後も縁があり、シンガポール事務所と連絡を取らせていただくなどしてきましたが、Coupa Japan設立とともにReferral Partner with no referral feeにしていただきました。報酬を得ると中立的でいられないこともありますので、このような契約を探し出していただき、Coupaからの情報提供を幅広く受けることができる立場にあります。
その上で、Coupaという企業をみていると、スタートアップとしてクラウドの時流に乗ったところに成長の契機を見出し、その後「データ活用の集合知」活用のComminity Intelligenceで強力な参入障壁を築いて、ダントツのトップに立ってきました。そしてさらに、業務のあり方を云々する次の段階も見えてくるといった段階にあります。その過程を見ていると、スタートアップ企業がいかにして事業基盤を確立し、どこにも負けないトップ企業に到っていくかの、1つの参照事例が提供されていると感じます。そのため、スタートアップ企業の方々が、様々に考察していく上で参考になる情報提供にもなるかと思い、「Coupaってなに?」を書き始めてみました。今後もCoupaの動きを追っていきますが、それはどのような戦略に基づき、どのような効果を与えているかを読み取っていただければ幸いです。

(前半は以下)




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