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Coupa年代記(上)~Coupaはどのように購買ソリューションのトップに立ったのか

1.黎明期

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1-1.黎明期~Coupa創業

Coupaは2006年にパロアルト(シリコンバレー)で創業されました。ちなみに、Coupaという名前は、そもそもはパロアルトのカフェの名前です。その名前のドメイン取得がされていなくて、名前が気に入ったとの理由で、社名を決めたようです。(後にCEOのRob Bernshteyn氏が、会社のビジョンにこじつけますが(“C-O-U-P-A: OUR VISION”))。

創業当初の最初の製品は「eProcurement Express」と名付けられました。製品のプログラムコードは無料でダウンロードできるようにし、導入先がそれを修正してほしいと要請すると、書き換え修正(カスタマイズ)して、迅速に使い勝手の良いシステムを提供するビジネスを始めたのです。「プログラムコードを無料公開するビジネス形態は面白いね」と、業界筋ではちょっと話題になりました。この最初の製品は、2007年3月にはできあがっていました。

しかし、Coupaはそれには留まりませんでした。ちょうど盛り上がっていたクラウドブームに乗ったのです。半年後の2007年11月には、クラウド上で稼働する「eProcurement on Demand」が発表されます。「on Demand」は、「要求に応じて使った分だけの料金をいただきます」というクラウドコンピューティングの世界の当時の流行語です。さらには「クラウドコンピューティング」も「SaaS (Software as a Service)」も、まさに2006年~2007年頃の流行語でした。アリバ(Ariba,1996年創業)など既存競合製品がクラウド対応したのは、さらに年数を要しましたので、Coupaは購買業務用ソリューション(システム)をクラウド上で稼働した先駆者になりました。

Coupaの「eProcurement」は「発注~支払」をカバーしていました。購買業務の中では、最も多くのユーザーがいて、工数もかかっている領域になります。購買業務の効率化を目指すならば、まず手掛けなければならない部分になります。その領域で、モノを買う社員の誰もが簡単に使えて、業務作業を効率化する道具を提供することが、まず目指されました。
しかしさらに進んで、業務の改善にまで踏み込むためには、業務がどのような状態で行われているのかの可視化の機能が不可欠となります。ゆえに支出の状況を集計・分析して、可視化するための「Spend Optimizer」が2011年に追加され、Coupaが「発注~支払(Order-to-Pay)」業務領域を担うに必要な機能の整備が進みました。一通りの機能が、このようにして揃えられたのです。

1-2.黎明期~サムの消失

しかしCoupaの黎明期の終わりごろに、残念な出来事が起こりました。当時のCoupaには「Coupa Sam」というゆるキャラ(マスコット)がいたのです。柔道着(空手着)に黒帯、頭には鉢幕という、日本的な姿をしていました。「Spend Samurai」といったニックネームもついていたと思います。日本で結構ウケたかもしれないキャラクターでした。「Coupa Sam」でグーグル検索をすると、今でもいくつかの画像から当時の面影を窺えます。まあ、あまり可愛いとは言えないキャラクターでしたが。

その彼が突然消えました(消されました)。「サムの消失」事件の発生です。...R.I.Pサム (願わくば、復活の呪文を)。

2.急成長期

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2-1.急成長期~急成長前夜

2012年は、購買ソリューションの世界でいくつかの大きな出来事があった年となりました。

(1).第1期電子購買ブームの発生と終焉
ドット・コムブームとも呼ばれ1990年代末から2000年代初めには、購買ソリューションの世界にも電子化の波が押し寄せました。いわゆる、電子市場(e-marketplace)を含めた第1期電子購買(e-Procurement)ブームです。日本でも、2000年10月に日本アリバ(日本法人)がソフトバンクグループなどの出資を受けて設立され、そのアリバが「電子購買コンソーシアム」でカタログ標準化などを目指すなどの動きが起こりました。しかし各社に個別導入された(オンプレミス)システムの運用負荷の重荷や参加サプライヤーの組織化などがうまく進まなかったことなどを理由に、ブームはまもなく萎んでしまいました。「電子コンソーシアム」も2003年に解散するに至ります。

その結果は日本だけに留まりませんでした。海外でも、例えばIBMの購買コンサルティング部門グローバルリーダーの月例電話会議で「アリバってまだやってるの(会社があるの)?」といった発言が出るくらいにブームは冷え込んだのです。(ちなみにこの時は「オーストラリアではまだいるよ」といったANZリーダーの発言に、欧米も含めた全員で「へぇー」と言っていました)。Coupaが創業した時期は、実はこんな購買ソリューションの暗黒時代でもあったのです。

(2).購買ソリューションの暗黒時代とその課題
ではブームが萎んだ後の2000年代後半の状況はというと、アスクル企業版の「ソロエル(SOLOEL)」やソフトバンクの「パーチェスワン(PurchaseOne)」といったAmazon型の選択メニューからの購買方式(カタログ購買)を提供するサービスベンダーの利用が盛んになります。自社では運用しなくなったのです。購入品のカタログ整備などに自社個別で邁進するのではなく、サービスベンダーが提供する購買カタログを利用して買う、そんな方式が主体になりました。

しかしこの方式にも限界が見えてきました。カタログ購買(選択メニュー方式)で対応できるのは、間接材購入額全体の25%程度と言われています。残りの75%は見積取得や価格査定が必要です。その75%をどうするのか、それが依然残った課題とまりました。また自社特有ニーズに、サービスベンダー経由の購買が全て対応できるわけでもありませんでした。

加えて、サービスベンダー経由での購入では、その状況が可視化困難の状況も生じます。前述のように、購買状況の可視化は購買業務改善の前提です。しかしベンダーからの購入状況をうまく把握できず、可視化ができないとなると、購買業務をどう改善していくべきかの方向性も描けません。さらに、購買業務には購入~支払(Procure-to-Pay(P2P))以外のものもあります。契約管理、サプライヤー管理など、サービスベンダー対応外の業務をどうするかも課題になります。このような点が、2000年代後半のサービスベンダー利用では解決できない問題として残っていました。

(3).統合型購買ソリューション(購買スイート(Suite))の隆盛化
これらの課題に包括対応でき、さらにクラウドコンピューティング技術に対応した統合型購買ソリューション(クラウド購買Suite)の隆盛化、それが2012年の時点で生じていたトレンドでした。サービスベンダーのカタログ(選択メニュー)からの購入も、購買スイートを介することで、購入データを収集し、購入状況の可視化ができます。折しも購買業務を改善し、より多くのコスト削減を求める声は、リーマン後に強っていたことも、後押しとなりました。

その影響は、2つの老舗購買ソリューションの大手企業による買収として現れてきました。SAPによる「Ariba(1996年設立)買収」と、IBMによる機能特化型ソリューション「Emptoris(1999年設立)」の買収です(経緯や年表は、Kearny(A.T.Kearney)のレポート“The Future of Procurement Technology: Mediocrity Is No Longer Acceptable”の図2が参考になります)。

2-2. 急成長期~Coupaの成長、そして上場

(1).機能拡張するCoupa
Coupaもこのトレンドに乗じて、対応業務機能を拡大します。
2012年には契約管理(Contract)機能を追加し、購買カタログ機能(Catalog)を強化しました。2013年の強化は見積機能(Sourcing)です。そして2014年には在庫管理(Inventory)が加わりました。

在庫管理と言えば、こんな事例があります。ある日本の電機メーカーで事務所移転を機にキャビネットの中身を出してみたら、全部門合わせて数百万円分もの文房具・事務用品類が眠っていたとのことです。少額のものでも塵が積もればの言われ通りに、買い貯めた在庫を把握せずに、買い増していった結果ゆえです。それに対して、Coupaには在庫(貯蔵品)を見逃して買ってしまわないようにする「在庫管理(Inventory)」機能が備わっています。このような特色ある、便利な機能も、お客様のニーズを反映して、追加されていきました。また、2016年にはサプライヤー情報管理(Supplier Information Management)機能の初版も提供されました。

企業買収による機能強化も始まりました。経費支出管理レポート作成などの機能を持つXpenser (2008年創業)を、2013年4月に買収します。まだ投資家からの出資を募っている段階での小粒の買収ですが、その後に連続する買収の端緒となりました。そしてその後も事業成長につれ、2014年にはZenPurchase, TripScanner, Invoice Smash, 2016年にはContractuallyと買収による強化が進められます。

(2).事業の拡大と戦略アライアンス・パートナーシップ
事業も順調に拡大を続け、顧客数も伸び続けました。
2013年12月のプレゼン資料には、急速に拡大する事業の状況の説明図があります。

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また、顧客数も急速に増加していきました。下図は2010年1Q~2013年2Qの主な獲得顧客と顧客数の伸びを表しています。

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それとともに、コンサルティング会社との戦略アライアンス・パートナーシップが始まります。最初に発表されたのが、2013年のKPMG,引き続いて2015年のIBMとデロイトと続きます。パートナーシップ発表前から連携した動きはすでに行われていましたが、正式なパートナーシップは、確実な導入に向けた顧客の信頼獲得にもつながり、顧客数は伸び続けました。さらに顧客向け年次シンポジウムである「Inspire」も2013年から始まりました。
また、当初は米国中心の事業展開を行っていましたが、まずは欧州へ、そしてインドへと海外進出も進み始めました(ただし後発ゆえの海外展開の遅れは、これ以降もしばらくの間、調査会社レポートで弱点と指摘されていきます)。

(3)指標管理、コミュニティへの着眼
注目しておくべきは、Coupaの圧倒的な強みであり、他社参入障壁と考えられる「集合知」の活用への着眼が、2014年よりスタートしていることです(2017年に本格的に打ち出され、2020年9月にCEOのRob Bernshteynの2冊目の著書となった概念です)。主観的なアンケート回答の集計ではなく、Coupaユーザーの業務データを匿名集計して、指標値にして発表する「Benchmark report」の提供が2014年から始まりました。

(4). Coupa、Nasdaqに上場する
このように事業を拡大きたCoupaが、Nasdaqへの上場を果たしたのが、2016年10月です。Round Kまで11回の投資家から資金調達を受け(それだけ期待をもって継続的に出資されてきた)後での上場でした。スタートアップ企業としては、ひとつの区切りに到達しました。

※使用した図にはCoupa社の資料よりの許可を得ていない引用があります。Coupa Japanより指摘があった場合は差し替え対応致します。
(後半は、以下)


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