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弟への恐怖政治

弟の存在はいつも不思議な感じだ。一番身近で、取っつきやすく、場合によっては色々と頼りにしてしまう、そんな存在なのだ。そう思えてきたのは、ある程度の年齢を重ねた末なのかもしれない。けど、やはり生まれたときから知っており、その弟の成長過程をほとんど知っているという特別感が、僕の中にあることに気がつく。
特別感などと今だから言えるだろうけれど、昔はもっと複雑な心境だったような気がする。弟の存在を僕の記憶の中から探ると、一番最初に出てくるものは、弟をいじめた事だった。僕の中でどんな心理的な作用があったかは思い出せないけれど、所謂母親を取られたジェラシーからくるものだったのではないかと想像する。
子どもの頃の3年の歳の差は絶対的な権力を行使することができる。ほとんど野生と化してしまった、僕の嫉妬心は弟への暴力行為に走らせた。弟を捕まえて壁に押しつけたり、ぶつけたりした覚えがある。
泣く弟の声を聞いた母親がやってきて、どうしたのかと僕に尋ねる。そして悪びれなく応える。「んー、何か知らんけど、スグルがハイハイで壁に突撃しよったんやー」と。
その後も、何らかの形で弟をコントロールする浅知恵を働かせていた気がする。「そんなんするんなら、もう遊んだらーん」、「こうせえへんのなら、連れてったらーん」、などと僕にとって都合の良い条件を弟に課して、恐怖の支配体系を作っていたような気もする。
弟の存在は特別なものだ。きっと、弟にとっても僕は特別な存在なはずだ。弟が積年の憤懣やら怨嗟を持っていないことを、僕はただただ祈っている。