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ダットサンズ

The Datusunsというバンドは、2002年デビューの南半球はニュージーランド出身の四人組。日本でのデビューアルバムが発売される年の『Rock'in on』だか『Player』だかの雑誌に小さな記事が掲載され、初めて彼らを知ったのだった。何やら2000年代に古典的なハードロックをリバイバルするバンドの雄であるようなことが書かれていたような覚えがある。
今更そんなゴリゴリのロックを炸裂させるバンドが出てくるのかと、些か興奮した。しかも南半球というなじみのない土地の出身だ。バンド名も日産のダットサントラックからきているというナンセンスさも好ましく思えた。そのいささか時代遅れな感覚と、地域的な物珍しさが僕の好奇心を刺激した。そして何よりも、周りの誰もが知らない音楽を知ることに、しかし浅はかな、喜びを得ていた。
その頃、Led Zeppelineとか、Deep Purpleとか、Creamとか、AC/DCとかの古典的なロックを聴いて胸をときめかせていた人間にとっては、夢のようにショッキングな出来事だった。
何てことだ今になってそんな時代がやってくるのかと、ギンギンのギターリフの嵐や、絶叫するボーカルの金切り声や、くどく長いギターソロを聴いて、新たな時代のロックを夢想してほくそ笑んだ。
ひょんなことから、2003年にオーストラリアのシドニーに家族で生活することになった。その新しい土地に到着して1週間もしない内にシドニーでThe Datusunsの南半球凱旋(?)コンサートが、市内のライブハウスで行われることを知った。情報誌を握っている手が震えた。自分の時代のツェッペリンを見ることができるのだと。
家の中ではいつも彼らの音楽を流していた。家族皆それぞれにその音を楽しんでいたような気がする。ロック嫌いの父でさえ、新しい生活にあてられてか、愉快そうに耳を傾けていた。町中でも彼らの音源が流れていたので、洋楽好きなどという気取りも失せて、ただただライブの日が楽しみだった。
当日、弟と二人でライブハウスに出撃した。海外での初めてのライブの経験であったとか、ドンピシャな好みであったとか、ただひたすらネアカな雰囲気が会場を占めていたとか、いくらでも理屈はこねられるが、僕は熱狂した。
あの時からもう15年位が経ったが、未だにThe Datsunsの姿は僕の心に残っている。メディアにおける彼らの露出が下火になってしまっても、彼らのショウを、観客の息づかいを、そして不安げな僕ら兄弟のライブ観戦を、いつでも思い出すことができるのだ。