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前歯がでるとき

人は得意な表情をしているとき、上唇が少し上に上がり、口が半開きになって、歯の上の段が少し露わになる。
大きな仕事が終わったとき、料理が上手くでき上がったとき、ちょっとしたジョークがキマったとき、目がクリクリといたずらっぽく動き、その下ではげっし類の前歯のごとき白い二本の歯が光る。友人たちのそんなちょっと得意げな顔を思い浮かべて、そうだそうだ間違いないと気がつく。
それは、下顎が下がって口が半開きとなる表情とはまるで違っている。上唇が上がって歯を見せているときは大体において目がいきいきとしているが、下顎が下がっているときは、目に照準が定まらずどこか不安げな感じだ。
鏡を前に自分の表情を省みる。今は下顎が下がっているときか、それともプイプイっと上唇が上がって前歯がでているときか、と。