食べ物のにおい
なぜだか、においがきつい食べ物が好きだ。日常的に、においのある食べ物を常食としている訳ではないけれど、どうしてだかどうしてだか、においの強い食べ物には心引かれる。
クサヤ、フナズシはもとより、フランスのウォッシュチーズとかブルーチーズ、中国の臭豆腐や腐乳など、そういったものを食べられる機会がある時は是非ともとチャレンジをする。人が集まるとなったらそういったものを買い求めて、においの記憶やら、においにまつわる経験などに話の花を咲かせたくなる。
その関心のきっかけは、きっと父の郷里の久留米のラーメンにあるのだと思う。久留米では、町中の屋台にとどまらず、郊外の小ぎれいな店でさえ、仕込み時の豚骨を煮出すにおいをたれ流す。時においてはかぎ慣れぬ獣臭いにおいが至る所で広がり、ムハッとしてしまうが、このようなにおいを香しく感じる人たちもいるのは不思議な気持ちとなり、異文化のにおいへのチャレンジ精神に火がつられる。
昔、おじさんが自分の子ども(いとこ)を久留米でラーメン屋に連れて行った話は傑作だ。おじさんにとっては久留米ラーメンのにおいは懐かしく食欲をかき立てるもの、関東で生まれ育ったいとこにとっては全くの異臭でしかなかった。
においで泣いたのは初めてだった、と言ういとこの証言は、いかににおいの世界が奥深く、記憶にも感情にも訴えかけるものだと気がつかせてくれる。