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僕は旅立つ

どこへも行かないでと泣いてみせることは、許しを求めていることに他ならなかった 砕けていく時代が、崩壊と共に鳥を抱きしめるあの樹が、私の囁いた悪口が、どうにも水気を含んでいてあなたはそれが嫌だった 机から転げ落ちていく消しゴムのように
切られては損なわれてしまう瞳や足をもう一度繋いでおくなんてことは、光の眩しさに目を細めることと同じようだった

これから語られる全ては祝辞である これから語られる全ては戦いを終えたこの国の歴史である これから語られる全てはあのとき離れていったもういくつかの私のうちの一人の、たったひとつの手記である

卒業式を終えたあなたはこれから待ち受けているあまりに多数の絶望を、まっすぐ捉えていた わずかに震えている手と、その横顔はまったく歪な組み合わせでしかない 輪郭がここでは言語の役割を果たしている 決められたことを復唱する 確認をする 確定させる
確認なんてものはやわらかいところを持たない者がする、やわらかさの真似でしかない 屋上に立つあなたの顔をよく記憶してた、裏庭にはほしいものがなんでもあって、そこであなたは自由な鳥のようにおおきく笑っていた 笑っている 必ずそこに行けば笑ってしまう 羽を羽ばたかせる方法も知らずに先に言葉をよく覚えてしまった だからそこに行けば必ず笑う やわらかさの真似を隠し、近いた私に恐れを抱くことなく許してしまったことだけがあなたの間違いだった 羽の一本一本をとても大事に抱えていたあなたのその撫ぜ方にはあなたのこれまでが懇切丁寧が表れていて、私にはそれが安易な取扱説明書のようだった だけれど、脳をなぞっては景色を滲ませ、触れ方だってわからなくなる 診察室の、病的なまでの白さが、羽のしなやかな 言語のしなやかな 朝のしなやかな 拙い羽ばたきでも十分に遠くまで飛んでいける 光のしなやかな 誕生のしなやかな 朝日のしなやかな 
飽和した雲の中にはいつも揺れているものがあって、だから私はそれから目を離せずに、私は私の正体を失ってまで、私は私の言葉を守り抜くこともできないで、揺れた炎に身を投じてしまった 
落ちた辞書を拾う、ページを羽ばたいたときに生まれた風で繰る、こんなものは生まれた時からずっと戯言だったのに、震えていた心臓の、手繰り寄せる次の味 整えられた味覚の、混在する明日の、後悔の、日記を書いている