立体と平面。

あれは確か小学四年生のとき。通ってた塾の国語の先生がこんな事を教えてくれました。

「物語文を読み解く時には、誰がどのような思いで言葉を発したかを読み取る事が大事なんです。」

続けて、その先生は例を持ち出して、おれたち生徒にこんな質問をしました。
「一方は、皆さんが心から憎んでいる相手に向けて発する『アナタなんて大嫌い』
かたや、長期の海外転勤が決まった彼氏が、夜の神戸港で、彼女の幸せを願いながら別れを切り出した時に、号泣する彼女が男の胸に顔をうずめて口にした『アナタなんて大嫌い』
これって一緒だと思いますか?」と。

一緒じゃないよなあ、と当時のおれは思いました。ロクに恋愛なんてした事もない10歳のガキでも分かりました。
それと同時に(なにが違うんやろ…)とも感じました。

その時に覚えた違和感を、十数年経った今なら言葉にできます。おそらく先生が伝えたかったのは次のような事でしょう。
言葉が持つ意味なんてのは限りなく相対的なもので、発した人・その声色・間・場所・時間・受け取った相手・会話の流れやその他諸々の要素によって容易にニュアンスが変わってしまう。『大嫌い』という言葉一つとっても、相手をぶっ刺すために使うのか、精一杯の愛情を伝えるために使うかで意味が異なってくる。だからこそ、誰かが発した言葉の真意を読み解くには慎重になる必要がある。

いやあ、国語のテストに役立つ知識だけじゃなく、生きてく上で必要なスキルまで教えてくれてた訳ですね。ありがとう先生。
まあ実際ここまで深い意味があったかは定かではありませんが、わりと早い時期から『言葉』という難儀なものについて考える機会に恵まれてたのは本当に幸せな事やと思います。

さて、少し話は変わりますが、深夜ラジオの放送内容の書き起こしも上で述べた話と似たような問題を抱えてる気がするんです。
ラジオの放送内容について触れられたネットニュースはこれまでに沢山読んできましたが、軒並みしっくりこない記事ばかり。そこで改めて考えてみました。

前提として、おれが認識している書き起こしってのは、パーソナリティの方の会話の一部を聞いて、キーボードをカタカタ鳴らして、所々内容を端折って、はい完成!ってしてるやつです。そして、多くのネットニュース記事ではこの書き起こしの最後に数行ほどの記者さんの感想が添えてあります。毎度お仕事ご苦労さまです。
でも、ぶっちゃけこの一連の作業よりも重要なのって、ブース内の空気感やパーソナリティ同士の関係性といった視認し難いものまで文字にして、その放送を聴かなかった読み手に100%の鮮度で伝えられますか?ってとこやと思うんですよね。

もっとも、そんな事できないとおれは思ってます。無理ゲーです。ラジオの空気感なんて曖昧なものは、どれだけ豊富な語彙をもってしても表現し得ない。
深夜ラジオの放送後記が単なる会話の書き起こしをしてないのも、そういう意味やと思うんですよね。制作者側ですら文字の羅列で放送を再現しきれないと考えてる、いわんやネットニュースの記者をや、って話です。

深夜ラジオの放送って、パーソナリティの方が発した言葉に、その人の性格・作家さんのクセ・前の週からの流れ・リスナーからの反応といった色んな事情が複雑に折り重なって完成する、いわば"立体"的なものやとおれは思うんです。今まで聴いてきた放送も、メールの差し込まれるタイミングが一つ違えば別の放送になっていたかもしれない。パーソナリティの声色が違えば、全く受け取る印象が変わったかもしれない。だからこそ聴いていて楽しい。
深夜ラジオが"立体"なら、ラジオ番組を書き起こしたネットニュース記事は"平面"ですかね。紙切れ一枚、スマホの画面内で完結してしまう。ペラペラとかそういう皮肉った意味ではなく。

いつぞやの酒井さんの「ファルコンをアベンジャーズから辞退させてあげたい」の声のトーンも、チックタック発言をした後の桃李くんの「なに?この空気…?」の空気感も、新幹線でのエピソードを話しているせいやさんの雰囲気も、ラジオを聴いた人にしか分からない。もっと言えば、聴いてても伝わりきらない場合だってある。
それを記者さん、まーだ書き起こしますか?書き起こせますか?って今めちゃくちゃモヤモヤしてます。だからこそnoteのアカウントを新しく作って、こうして書き殴っている訳です。

長くなっちゃったな。

まあ一言でまとめると『書き起こしなんて大嫌い』って話なんですよ。はい。

ここでの『大嫌い』が、相手をぶっ刺す意味か、はたまた愛情たーっぷりの意味なのかは、この記事を最後まで読んで下さった皆さまに委ねさせて頂きます。

では。

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