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ドブス顔面キモ人間 第4話

「幸せを奪いし者」

朝。いつもの如く、空を見上げる。穢れなき、完璧な”青”が我々を支配している。ヒトは家畜のように、毎日同じ事を繰り返し、やがて死に至る。人生。ヒトは死ぬ為に生きる。そこに、幸せはいらない。
「佐原さん、回覧板、よろしくお願いしますね」
隣人が私に話しかける。私は家族を好まないが、この隣人はシングルマザーのようで、死んだ魚のような目をしたガキを1人で育てている。だが、そんな事は私に関係はない。他人を気にする余裕は生憎無かった。今日は”計画”がある。5分程度空気を吸い、吐いて体内を洗った後、家の中へと戻った。何十年も使用したことにより、柄にややカビが生え、刃の鋭さが落ちてきた包丁がテーブルの上に置いてある。今日の”相棒”となるモノだ。コイツを使い、私は他者から、私が1番恨むモノを奪ってきた。それが生き甲斐だからだ。綺麗な硝子のグラスに茶を注ぐ。透明のグラスから茶が黄色く反射する。朝の一杯を、一気に飲み干す。喉に冷たい液体が一気に流れ込む。美味い。後は、今夜まで待つだけだ。

夜。佐原義和は、数回の調査で、この時間帯ならターゲットが自宅にいる事は分かっていた。彼の目の前の家には、”池田”と書かれた表札がある。ここは、池田一家の自宅だった。佐原は池田家の最新型インターホンを押した。家の中で、ドタドタと急いで階段を降りてくる音が聞こえる。
「……すみません、池田俊樹さんいますか?」
「あーはい、どちら様ですか?」
池田俊樹のやや機嫌の悪そうな声がインターホン越しに聞こえる。それもその筈、時刻は既に3時を過ぎていた。
「すみません、落し物があったので……」
「落し物?」
「ええ、多分、池田さんの物だと思います。ここら辺に落ちていたので」
「落し物って、なんですか?」
池田は用心深かった。
「キーホルダーですよ、なんかのキャラクターのです」
「……分かりました、ちょっと待ってください」
池田は痺れを切らしてドアの鍵を開けた。早く寝たいからだ。佐原がこの時間を選んだのも、そうなることが分かっていたからだ。
「……どれですか?」
「”これ”だ」
池田の胸に包丁が突き刺さる。傷から血が溢れる。池田はその痛みに思わず、呻き声をあげた。しかし、何が起きたかを理解出来ていなかった。
「………グ………ン」
佐原は池田の胸にグリグリと包丁を押し込む。血の量は見る見るうちに増えていく。池田は漸く全てを察したように、目を大きく見開いた。
「……逃げろーーー!」
池田は叫んだ。佐原は酷く苛ついた。佐原は生を失っていく池田に舌打ちすると、家の中へと歩いて行った。池田家は、佐原のモノとは違って広く、綺麗だった。薄型のテレビと大きなステレオスピーカー。真っ白なテーブルとキッチンに、巨大なソファ。そして赤いカーペット。佐原はこれでもかと、”充実した生活”を見せつけられ、更に苛立ちを膨らませた。右手を見ると、階段があった。1階に人の気配は無かったため、他の奴は2階に居ると思われる。また、先程の池田の断末魔の後に足音ひとつもしなかった為、まだ本格的に起きてはいないと考えられる。下手におびき寄せるよりも、今回は静かに向かった方が良さそうだ。階段は高級な石で出来ている為、物音1つしない。高級なモノは佐原にとって憎むべきものだが、今回ばかりは有難く思っていた。2階。ざっと見たところドアは6つ。部屋は4つと言ったところだろう。一つ一つ見ていくのは手間がかかる為、今度はおびき寄せる事にした。佐原は包丁を床に叩きつけた。鈍い金属音が廊下に木霊する。佐原は、その金属音の中に小さな悲鳴と物音を見つけた。奴らは起きて、自分の存在を既に察知していた。流石に先程の断末魔で気づかれていた。しかし、お陰ですぐに場所を特定出来た。左から2個目のドアの部屋だ。きっと寝室なのだろう。佐原は、笑みが止まらなかった。寝室(仮)の前に来た。この中に、獲物がいる。この中だ。
「入りますョ〜♪」
ドアを開ける。中を見渡す。いた。池田の妻と、娘だろう。妻はざっと見て40前半、娘は10後半ら辺だ。
「アンタ……誰!?」
「私は、佐原義和です。よろしくお願いします」
佐原は大きくお辞儀をした。池田妻はあまりの不気味さに、鳥肌が止まらなかった。
「何が目的…?金なら、金庫よ…。それともーー」
「黙れ。私はお前たちから命を奪わせてもらう。殺す」
「……!カナコ、警察にーー」
池田妻はの首に大きく筋が割れ、血が溢れる。カナコの悲鳴が大きく木霊する。カナコはスマホを急いで手に取り、電話アプリを開いた。
「お嬢ちゃん、こっち見てよ」
カナコはスマホに急いで110と打ち込む。
「お嬢ちゃん、こっちを見ろ!」
佐原は怒鳴った。カナコはビクッと大きく驚き、ゆっくりと佐原の方を向いた。佐原が手に持っていたのは、池田妻の首だった。カナコの悲鳴がまた轟いた時、再び鮮血が寝室を舞った。

血みどろの寝室から出た佐原の足は、軽かった。一気に3人も殺せた。こんな感触は久しぶりだった。佐原は1階に降りると、マッチを取り出した。その時、何か気配を感じた。急いで前を向く。玄関だ。玄関を見ると、血の池に倒れ込んだ池田の死体があった。そして、ソレの後ろに突っ立っている少年も。
「……これは……」
少年は目を大きく見開き、愕然と佐原に訊いた。佐原は、当然殺そうと少年に近寄った。しかし、歩みを辞めた。
「……俺を殺さないの」
「隣のガキか。私を尾行したのか?」
タチバナは小さく頷いた。
「何故そんなことをした。お前は……なんなんだ」
「この人達は、オッサンに何をしたの?」
「お前に関係はない。殺されたくなければ、早く消えろ」
「なんで俺を殺さないの?」
佐原はタチバナの目を見つめた。
「お前の目は、私と同じ気がする。お前は、私と同じモノを持っている。そう思った」
「同じモノ?」
「同じ不満だ。お前は、私と”同類”だろう、違うか?」
「……分からない」
「ガキ。この前の少年殺人事件の犯人、お前だろ」
佐原の言葉に、タチバナの目は輝き始めた。
「……まあね」



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