おっぱいマン17

「なー、俺がなんで狙われてるのかだけでも教えてくんない?」
「ダメだ」
「なんで」
「そう言われているからだ」
「カスなんとかに?」
「ああ」
「そこをなんとか……」
「ダメなもんはダメなんだ」
橘はそう言うと、龍輝の方を向いた。
「これは地球の存続に関わっている問題だとまだ分かんないか?お前は俺の言う事を聞くんだ。事態を甘く見るなよ」
「……わかったよ」
自分が狙われている理由を話さない橘に不信感を抱いていた龍輝は、心当たりを探すため記憶を遡った。自分が、何やら大それた存在に狙われている理由。当然、見当もつかない。しかし一瞬、何かを”見た”。そこは、”畑”だった。数年前に、圭人とスイカを収穫した畑。そこに何があるのか?そこで何が起きたのか……。
「うわっ、!」
龍輝は、”記憶”から謎の赤い存在により追い出された。
「静かにしろ」
「いやなんか、”赤い”のが……」
「……何をした?」
「何をって……、ただ、昔を思い出してただけ」
「”見た”か、過去を。どうだった、鮮明か?」
「まあ、ぼんやりとしてるけど……、自分達が畑で何をしていたかは見えた」
「畑……スイカか」
「えっ?なんでわか……」
「龍輝」
「えっ」
「その”能力”を掌握するかが鍵だ龍輝。”時間を把握する程度の能力”を─」
「なに能力って、別に普通に昔思い出しただけだけど」
「お前はクストーデに”締め出された”……、それは彼が”能力”を掌握しているからこそ出来た事だ」
「ちょ、ちょっと話詳しく聞きたいからそこのレストラン行こう。運転手さん止まってー」
龍輝の真意に気づきながらも、橘は仕方なくタクシーを降りた。

「別にさっき言った事以上に言う事なんて無いんだけどな」
「ええっ!?そうなの。まあ別に腹減ってたし、全然いいよ。金ないから支払いはよろしく」
「分かったから早く終わらせよう。山本崇が来る」
「毎回思うんだけどなんでフルネームで呼ぶわけ」
「”山本崇”が個体名なんだ」
「犬とか、人間みたいな?」
「そう」
「じゃあ本名とか、無いわけ」
「まあ、生体兵器だから」
「なんか可哀想」
「敵に同情したら損する事になるぞ」
「そうは言っても一応友達だった訳だし」
「お待たせいたしましたミニホットドッグです」
「あ、ああ、ぁアどうも、ど……。……俺は友達……、いなかったから分かんないが、同情するよ」
「確かに、友達いなかったな」
「いやいなかった訳じゃないんだが、友達というか、なんというか……、でも案外、俺とお前も似てるかもな」
「なんで」
「俺もその……友達、に狙われて、死ぬとこだったんだ」
「えぇ、やばいなそいつ。同じ学校?」
「いや、おじさん」
「あ、あぁ〜、おじさんねw」
「俺は……全部壊してしまった。何もかも……。だから、これはチャンスなんだ。やり直す、最後のチャンス」
無精髭と後ろに流した長髪の中の細い目に偽りは無かった。何があったか知らないが、橘は途轍もない後悔を背負っているように見えた。
「だから俺は絶対……」
「ん?」
龍輝は、橘の目線の先を見た。ギョッとした。
「くそ、やっぱり進み続けるべきだったんだ……!」
来た。山本崇だ。追いつかれてしまった……。
「龍輝、お前は逃げろ!俺がここで食い止める」
橘はそう言うとテーブルのナイフを掴み、構えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?