おっぱいマン18

「よう、食事中か」
嘲るように近づく山本崇に、橘はナイフを投げる。山本崇は飛来するナイフを平然と手で防いだ。
「……不意打ちでもない限り、私に攻撃は通用しない」
山本崇は手に貫通したナイフを抜き取りながら言う。
「私は人類を初めて見た時、あまりの醜さに涙を流した。……環境を破壊し、憎み合い、殺し合う。学びの場であるはずの学校ですら、偏見によるヒエラルキーが人間関係を支配している。こんな種族なら、より崇高な存在の”魂”になれる事を感謝すべきではないか?」
「そんな事……」
「お前も納得するはずだ、観察者。”ドブス”……だったか。あれは酷いものだった。出来れば止めたかったよ」
「黙れ!」
橘は再びナイフを手に取り、山本崇へと走った。大きく振りかぶった橘の右手のナイフを山本崇は蹴り落とし、肘で橘の顔面を強打した。体勢を崩した橘を山本崇は蹴り飛ばす。
「お、おい!大丈夫か!」
「く、龍輝早く逃げろ!」
橘は叫ぶと、山本崇の足にしがみついた。
「何がお前をここまでさせるんだ。ヤツに良いように使われているだけなんだぞ」
「お互い様だ……!」
龍輝は走り、そのまま厨房を抜け、裏口から外へ出た。目の前に停めてある白いバンに乗り込む。その時、龍輝は異変に気づいた。何故、鍵が開いている。そして、後ろの気配は……。
「うああわわわわああああ!!!!」
死体だった。トランクに詰め込まれた、6人の男の死体。
「おっと!気づいたか」
傷口を抑えながら寝転んでいる橘を跨ぎ、山本崇がやってきた。
「そのまま動くなよ。丁度全部”揃った”んだ。もうここで始める」
「人殺しが……」
「悪いな。おい、観察者、棒に触りたくないからもっとこっちに近寄れよ。龍輝はもう手中に収めちゃったぞ」
橘は息を切らしながら、葛藤していた。今ここで龍輝回収の為近づいたら山本崇に利用される。しかし、ここで逃げたら龍輝を取り戻せない。
「はやくー」
「……くそ」
「逃げるつもりじゃないだろうな。もう諦めろよ、油断したお前のミ、っ?」
山本崇は急に胸に痛みを感じた。胸に、刺さっている、”棒”が。
「油断したのは、お前の方だ……」
鮮血が、ドアウィンドウを覆う。
「ここまで来て逃がすかよ!」
山本崇は、リヤドアから逃走を図る龍輝を突き飛ばした。
「あが!」
「もう勝者は、決まってるんだ……、ああああああああああ!!!」
山本崇は咆哮しながら棒を引き抜いた。体の空洞から血液が噴出する。
「お前は、”棒”を冒涜した……!これは神聖な棒なんだぞ!」
山本崇の怒りを余所に、龍輝は立ち上がりリヤドアを開ける。が、すぐに閉ざされてしまう。
「小賢しいヤツめ、逃げられるとでも!?」
山本崇は龍輝の顔面を持ち上げ、叩きつける。
「私が失敗する筈がないんだ。この私は完璧に創られた。人間如きに負ける筈がない!」
山本崇はリヤドアを開け、龍輝を橘の方へと投げた。
「抵抗するな、もう終わりだ」
龍輝は橘の方を見た。龍輝の目には希望があった。しかし橘には無かった。

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