おっぱいマン11

「兄ちゃ、ん……」
龍輝は、自らが齎した惨劇を前に、呆然と立ち尽くしていた。赤く染まった圭人は、何とか立ち上がろうと机の前でもがき、喘いでいる。
「おっぱい………マン……」
ピクピクと動く圭人の下に落ちたおっぱいマガジンの表紙を見て、龍輝は呟く。圭人の冷たい指が、おっぱいマガジンの”ガ”と”ジ”を隠していた。

「ウワーーーーーーーーーーーーっっっ!」
龍輝は飛び起きた。どうやら、あの後床で寝てしまっていたらしい。龍輝は、隣に懐かしい人影を感じた。
「……ママ?」
あるのは、亡骸だった。現実を再確認した龍輝は、立ち上がり、今後を考えた。
この家の事がバレれば、絶対に捕まる。逃亡するしかないけど、きっといずれ見つかるだろう。どうにかして、逃げ果せないとならない。捕まったら、多分、怖くてデカい男達に、犯されて、死んでしまう。それだけは絶対嫌だな。うーん!
龍輝は胡座をかいて思案した。そして、遂に、最高のプランが頭に浮かんだ。
そうだ、俺は、龍輝だけど、それと同時におっぱいマンでもある。なら、完全に”おっぱいマン”になればいいんだ!

「おーい、いるか」
龍輝はドアをノックした。小さな平屋だった。カーテンは全て閉められ、夕方なのに電灯はひとつも点いていない、薄暗い家。その為、龍輝は目的の人物が留守であると推測した。しかし、中から聞こえてくる物音で、その推測は間違いであるとすぐに分かった。
「……ん、龍輝?」
「山本、久しぶり」
山本はドアを大きく開けると、薄暗い中へ龍輝を招き入れた。
「……随分、暗いな」
「今寝てたんだよ」
「まじか、タイミングミスったな」
「いや別に。今、コーラ入れてくるから適当に座っといて」
山本はそう言うと、更に薄暗い奥へと消えた。龍輝は電灯を点けようか迷ったが、リュックを開け、自分の目的を思い出し、辞めた。
「いやあ、それにしても、まあ……」
山本は気まずそうにコーラを置いた。
「ああ、まあ、気使わないでいいよ」
「そうかあ、まあ、……大変だったろ」
「うん、まあ、でも、自分でもよく分からない。ああしないと、多分俺はもっと壊れたと思う」
「……」
「……俺が、何しにきたかわかるか」
「病院、抜けて来たんだろ。多分、その途中、数人やった……」
「……」
「俺は責めないよ、龍輝」
龍輝はハッとして、山本を見上げた。
「確かに、人を殺したのは嫌だし、気持ち悪いけど、でも、龍輝には龍輝の事情があるから、俺にそれを詮索できる筋合いなんてない」
「えっ、そ、そう……」
「ここに、逃げて来たんだろ?病院から。別に俺はチクッたりしないから、安心しろよ。俺も暇だし、いつでもいていいよ」
龍輝は動揺しながら、暫く山本を見つめた。そして、泣き崩れた。リュックから出し、手に隠し持っていた包丁が、地面に落下する音が静かに木霊した。

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