おっぱいマン10

「ママ、みて」
龍輝はテストの解答用紙をリュックから取り出し、テーブルに並べた。
「俺、クラスで6位だったんだ。先生は、今回は難しいのばっかだったから凄いって」
「6位?」
「うん」
「圭人は2位」
「……えっ?」
「貴方は6位でしょ」
龍輝は、陽子を見た。しかし、陽子の目線と交わることはなかった。
「でも、6位でも」
「圭人は、何て言ってたと思う」
「……わかんない」
「あと少しだったって、悔しがってた。2位の圭人が悔しがってて、6位の貴方が喜んでて、おかしいと思わない?」
「……兄ちゃんは、元から頭が良……」
龍輝の右頬に、痛烈な痛みが走った。その頬にある手に、温もりは感じられなかった。
「次は5位以内って言ったよね、なんで?」
「……」
「そんなに、私に失望させたいんだ」
「ちが……」
「何が?」
「失望させたくなんか……」
「させたくなくても結果的にこうなってるの。それが、事実だから」
「……ごめんなさい」

「龍輝、お前」
「何」
「お前そんなの、どこで手に入れたんだよ」
「別に兄ちゃんに関係ないだろ」
圭人は龍輝の前に回り込み、肩を掴んだ。
「返してこい、俺も一緒に行くから」
「だから、関係ないだろ!」
龍輝は勢いよく立ち上がると、圭人の手を振り払った。
「俺は兄ちゃんとは違う、だから俺は俺の道を行かせて貰うからな」
「何を言って……」
「その中途半端な優しさとかき、気遣いとかも全部迷惑なんだよ!いらねーそんなの!」
乱暴にドアを閉め廊下に出ていく龍輝を、圭人はただ呆然と見つめていた。

「龍輝、今日はどうする」
「全部お前に任せるよ、帰ったってどうせ、ダメだし」
「じゃあ、コンビニ行くぞ」
龍輝の親友、山本崇はそう言うと、立ち上がった。
「崇、でも」
「でももないだろwやろーぜ」
「……捕まらないって、確証があるのか?」
「あーまあ、大丈夫だろ、俺がいるし」

「お宅の龍輝君はね、ウチからこんなの盗んだんですよ!」
コンビニの店長は、そう怒鳴ると、龍輝が盗ったガムを陽子に突き出した。
「本当に、申し訳ございません」
「お宅のねえ、教育がまずなってないんじゃないの?今、あー高二?高三?まあどうだっていいんだけどさあ、もう子供じゃないんだよ、分かってる?」
「はい」
「小学生とかが魔が差してやるー、とかならまだ分からんことも無いけどさあ、この歳で万引きって……、家庭に問題があるとしか言えませんな」
「こちらとしても、龍輝とは真摯に向き合って……」
「嘘つけ!」
龍輝は、2人の大人の会話に割り込んだ。龍輝の目は、少し潤っているように見えた。
「いつもいつも、圭人ばっか優先しやがって!何が真摯にだ!どうせ俺なんか早くいなくなれって思ってんだろ!」
「龍輝、何言って……」
「俺だって、ずっと頑張ってたんだよ、俺だって、俺も頑張って、がん頑張って来たのに……」

「龍輝」
「……」
「龍輝が言ってた事、全部本当だし、今回のことで、もう覆ることは無いから。それが嫌なら、出て行けばいい、そうでしょ?」
「……」
「圭人にももう言ってあるし、部屋にいるから、ちゃんと話聞いて来なさい、分かった?」
「……」
「分かったかって訊いてんだけど」
「……うん」

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