おっぱいマン19

「………ダメだ、りゅう、き……、ハッ!」
橘は飛び起きた。意識を失うまでの記憶が、滝のように脳内で再生される。
「やっとお目覚めだ」
「こ、ここは……」
「流石に人前でこんな事やったら面倒な事が起きるからな。人のいない廃墟まで逃げてきたんだ」
橘は、自分の失敗が夢だったのかもしれないという希望が一瞬で潰えたのを感じた。顔を起こすと、そこには、山本崇と、目を覚ましたばかりの龍輝がいた。そして、6人の死体も。あれはきっと、クストーデの発現に必要不可欠な、贄となる”強大な魂”だろう。
「龍輝、大丈夫か」
「うーん、ここは……」
「もうその下りは飽きた。早く始めるぞ」
山本崇はそう言うと、”棒”を手に持った。
「なあ龍輝、1つ教えてやる」
「遠慮しとく……」
「龍輝、お前はまだ、”ヤツの目的”を知らない」
山本崇は嘲るかのように、微笑みながら言う。
「ヤツは、お前を救おうなんて思っていないんだぜ」
「じゃあ……なんの為に……」
「ヤツはお前と入れ替わるためここに誘導したんだ。ヤツは、”佐川龍輝”としての人生を諦めきれていないんだよ」
「俺と入れ替わる……?どういう……」
「”見て”みろ。それが……」
”運命”だ。龍輝は、”見た”。
「……龍輝、惑わされるな。こいつは嘘を言っているんだ」
「はは、お前も知らなかったのか?お前もヤツの傀儡に過ぎん」
橘は困惑しながら、龍輝を見た。龍輝は、ただ立っていた。
「……龍輝?」
「クストーデ……、いや、”未来の俺”は……入れ替わる為に俺を”都”へ連れて行こうとした。”始まりの場所”​───”都”で俺の肉体が死ねば、魂が”種”の気配に釣られて外に出る。その隙に俺の肉体にヤツが入るんだ。そして”俺”の中に入ったヤツが”種”を取り込む”時”へ能力で行き、その時の俺と入れ替わり”佐川龍輝”としての人生を取り戻そうとした。そうだろ」
「……何を言って」
「……あんたには分からないだろ、俺は、親友にも、俺を救ってくれるだろうと思っていたクストーデ……、即ち”俺”自身にも裏切られた。そして、あんたも”俺の正体”を教えてくれなかった。何故だ?」
「そんな、俺は、知らなかったんだ……。”都”は、””種”に選ばれた者の魂を還元をする事でクストーデになる未来を”無かった事に出来る””場所だと、俺は……」
「あんたも最初っから利用されてたわけか」
「やめろ!思い留まるんだ!」
「このまま”都”に行けば俺はヤツと入れ替わる事になる。悪いが、俺はそんなの御免だ。”都”は、救いの場所なんかじゃあないからな。あそこは、あそこは、俺が”種”を取り入れた場所なんだ……」
「龍輝!」
龍輝は制止しようとする橘を振り切り、山本崇の元へと歩いて行った。
「そうなる位なら……今、望みのモノを出してやるよ」
「おおそうか……」
「こうすれば、クストーデに俺がなれるんだろ。俺は、もう誰も信じない。こんなの、全部終わらしてやるよ」
「やめろ!」
橘は龍輝を殴り飛ばした。龍輝はふらつきながら、何とか体を起こした。しかし、龍輝は最早”龍輝”でなかった。
「お前は……」
「……あ、ああここはどこなんでしょう私は確か……。ああ親切な男性にご馳走になったところでしたねあれここはどこなんでしょうかファンの方がいらっしゃるみたいで」
「おっぱいマン」
「はい?」
「”見ろ”。そして”理解”するんだ。お前は、”種”から生まれた”破壊衝動に駆られるもう一方の人格”だ。使命を全うしろ」
「……私は、クストーデか」
「始めよう」
橘は、膝から崩れ落ちた。終わりだった。地球の終わり。世界の終わり。
「ぁ……」
龍輝と橘は、”棒”で貫かれた。融合が始まる。
「龍輝……逃げるな、自分から。目を逸らすな、過去と未来のお前の後悔から……。まだ間に合う─」






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