おっぱいマン13

「……龍輝、やめろ!」
なんだ、この声は……。
「龍輝、お前はまだ戻れる!」
うるさい……もう無理なんだ……。
「下がってろ!これが”運命さだめ”なんだよ!」
この声は……山本?
「龍輝、これでいいんだ、このままでいいんだ……」
そうだよな、山本。これで良いんだよな、山本!!

「ハッ❗️❗️❗️❗️❗️❗️❗️❗️❗️」
龍輝はソファから飛び起きた。見慣れない天井に混乱したが、すぐにここが山本の家だと分かった。
「うるせー、ぞ、龍輝い」
山本が俺の咆哮で目を覚ました。
「あー、悪い……変な夢見ててさ。お前と……変なおっさんが出てきた……」
”夢”を思い出しながら寝惚け眼で語る龍輝を、山本は興味深そうに聞いていた。
「……ふうん、それで、変なおっさんって?」
「誰かはわからない、でも、見覚えがある……」
「へえ、気になるじゃん。思い出してよ」
「うーん、あの顔は……」
「あの顔は?」
「……くそー、ここまで出かかってんだけど」
「頑張れ」
「……無理だ、ごめん」
「そおか、まあいずれ分かるよ」
山本はそう言うと、腰を上げ、部屋から出ていった。昨日からだが、山本の不自然な追求癖が少し気になる。見ない間に、少し性格が変わったようだ。少し、窶れているようにも見える。それに、両親はどこだろう。帰ってきた気配は全く無い。
「……」
時計を見る。午後1時04分。今日は確か火曜日。学校は無いのだろうか?今日は祝日か?時計に書いてある日付と、壁に掛けてあるカレンダーを照らし合わせた。……祝日じゃない。今日は至って普通の、”平日”だ。点々とした違和感が、山本の存在を徐々に、そして確実に不透明にしていった。この異様な雰囲気は、何なんだ。まるで本能が警戒しているような……
「龍輝の好きなん無かったから、オレンジジュース入れてきたぜ」
「あ、あサンキュ」
そうだ、山本は殺人者の俺を優しく受け入れてくれたんだ。そんな彼を疑うなんて、俺はなんて不届き者なんだろう。彼の純粋な目には、偽り1つ無い。きっと、あの奇妙な探究心もその純粋の現れだろう。
「……美味い!」
それもそのはず、もう何日も何も喉にしていなかった。怒涛の日々だったから忘れがちだが。
「龍輝、人格の話に戻るが」
「……ああ」
「もう、出せるのか?」
「いや……」
「”もう1つの人格”の存在を忘れているのか、それとも隠しているだけなのか、どっちなんだ」
「え……?」
「佐川龍輝、お前は”運命に選ばれた”。”種”の選択により、お前の運命は”決定”されている」
「……は?」
「お前はもう、”見た”のか?そこまで”到達”しているのか?これは、私や運命への”抗い”か?」
龍輝は、まるで人格が変わったかのようにまくし立てる山本に困惑した。何を言っているのか理解出来ず、ただただ立ち尽くしていた。
「そろそろ”観察者”が私達を見つけると、”上の方うえのかた”が仰っていた。それまでの時間稼ぎなのか?」
「ちょ、ちょっとま待って、何言ってんの」
「”出せ”と言ってるんだ!」
山本は瞬間的に龍輝の目と鼻の先にまで移動し、龍輝の胸ぐらを掴んだ。
「はな、せよ!」
「時間がない。”観察者”に邪魔はさせないぞ」
「なんな、なんなんだよ観察者って!?」


「観察者……、”観察者タチバナ”だ──ッ!」

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