おっぱいマン16

「……ぐあああああああああ!!!!!!!」
「……血ぐらい、自分で飲めるようにしろ」
意識を取り戻した山本崇は、その声の正体を察すると、姿勢を正した。
「……佐川龍輝はどうした」
「”観察者”に、奪われまし、たァ……」
「来る前に忠告しておいたのに、この始末か」
「申し訳ございません……。しかし、彼は”夢”を見ていました。つまり”能力”が発現してきている……即ち、”計画通りの運命”を辿っているという事です……」
「しかし、もう一方の人格の発現は出来なかった。しかも佐川龍輝の現在位置は不明……それが真実だ。楽観的に捉えたところで、真実は変わらん」
「……はい……」

「……ハッ!」
「……起きたか」
強烈な夕日が目に刺さり、龍輝は顔を顰めた。
「……あ、あんた見覚えあるぞ……。夢で見た……」
「俺はタチバナ。お前を救いに来た」
「……何から?」
「山本崇、及び”運命”からだ」
龍輝は体を起こすと、タチバナをまじまじと見つめた。彼に存在する”違和感”の正体を、探っていた。
「……見覚えあると思ったら、あんた、橘だろ」
「そう言ったはずだ」
「いや違う、”俺と同じ学校だった”橘って事だよ。濱田たちに……なんつったっけ……なんか……あだ名付けられてたよな?」
「その話は良い」
橘は腰を上げ、龍輝を見下ろした。
「良く気づいたな。そうだ、俺はお前と同じ学校だった”あの”橘だ」
「やっぱな!……じゃあなんでそんな歳とってんだ?」
「面倒臭いから説明はしない。ただ、お前は俺の言う事を聞くんだ。これから”都”へ行く。そこでお前は運命から解放されるんだ」
橘はそう言うと、ついてくるよう無精髭の生えた顎で促し、歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待って!取り敢えず、なんで俺が狙われてるのかだけでも教えてくれよ」
「無理だ」
「じゃあ、山本崇の目的!それは知りたい」
「……山本崇は、”高次元生命体”なんかじゃあない。奴はただの生体兵器。高次元生命体よりも上の存在が創り出したんだ」
「何のため?」
「地球を”昇華”させる為。それこそが摂理であり、運命だ」
「地球を消化?」
「”昇る”に”華”の方だ。奴らはホモ・サピエンスの命を魂とし、地球を上の存在へ昇華させようとしている」
「命を魂に……。それって、俺達皆死ぬってコト…!?」
「いや、普通の人間だけだ。ともかく、これらは絶対に起きてはならない事だし、起きる運命を辿るつもりもない。お前は余計な事を考えず、ただ俺に従え。いいか」
「何一つ分からないけど、あんたに従うよ。それが1番良さそうだし」
龍輝はそう言うと、頭の中の疑問を全て取り払い、兎に角橘についていく事を決意した。何が起きているのか、”起きようとしている”のか。それは分からない。しかし、今はこの”観察者”という男に着いていく事が最善策だという事は目に見えていた。

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