おっぱいマン12

「俺を、殺すつもりだったのか」
「……というより、俺に関わった人全員を殺すつもりだった。俺という存在を、居ないことにしたかった」
「難しいなー」
山本は、カラッと笑った。
「因みに、お前に関わったやつ全員殺した後は、どうするつもりだったん?」
「……信じないだろうけど、俺にはもう1つ人格があって、そっちで、生きていこうと思ってた。誰も龍輝を知らなくなれば、龍輝は死ぬから」
「……ふーん」
「……」
沈黙の中、山本は急に顔を上げ、龍輝を見据えた。
「それ、みしてくれよ」
「それ、って?」
「その、”別の人格”ってやつ」
「……バカにしてんの」
「いや、全然」
龍輝は山本を疑ったが、表情は真剣そのものだった。
「……無理。故意に発現させる事はできないんだ」
「まあまあ、そう言うなって。見てみたいんだよ、俺」
龍輝は困惑した。山本は淡白という程ではないが、あまり物事に興味を示すような人間ではなかった。それなのに、なぜここまで惹かれているのだろう。
「いやあ、難しいよ」
「……わかったよ、じゃあ、ビーチ行こう。お前行きたがってただろ」
「……?危ないし、暫くは外には出たくない」
「……まあ、そうか」
山本は諦めたように、部屋へ消えて行った。龍輝は、これからどうするかという課題に集中することにした。山本を生かす時点で、おっぱいマンの独立は不可能だ。かと言って、龍輝として生きる時点でいずれ足が付く。究極の二択だった。保身の為、今の自分を受け入れ、真摯に向き合ってくれる親友を殺すか。それとも、純粋無垢な親友と過ごす時間を重視するか。俺は、確かに人を殺したクソだ。でも、まだやり直せる。道徳よりも利己心に支配される程、俺は堕ちてはいないんだ。そう、俺は……
「龍輝、これ見ようぜ」
龍輝は山本を振り返った。いつの間にかこの部屋に戻ってきてたらしい。
「……A……V?」
「おん、お前好きだったろ」
「AVは、皆好きだろ」
「まあそうかじゃあとにかく見ようぜ」
「ええ〜、いや、いいよ俺は」
「これすげーんだよ。ほら、見ろってここ」
山本はDVDパッケージを指差した。
「ほら、な」
「あぁ〜、確かに。でかいなあ」
「だろ、でかいだろ!」
「お〜、でかい」
「でかいんだよなあ、ここ!」
「あぁ〜でかいね」
「そうだろ、でかいんだよ」
「でかいのはもう分かったよ」
「いやいや、でかいだろ!」
「あーでかいって」
「でかいんだよ」
「でか」
「ここさあ、でかい」
「……しつ」
「でかいだろ?おい、どうした!」
「しつこいって、分かった見るから」
龍輝はそう言うと、テレビの前のソファに座った。AVを見るなんて、何年ぶりだろう。だが龍輝にAVを見るつもりは無かった。現状について考える時間が欲しかった。
「……」
龍輝は山本を見た。さっき純粋無垢と表したが、それ以上に、彼には”何か”があるように感じる。何かを、抱えているような……が、考えすぎだろう。彼は俺の親友で、俺を受け入れてくれた。ただそれだけだし、今はそれだけで良い。テレビから聞こえる大袈裟な喘ぎ声が、俺の安堵感と不安の入り交じる感情に覆いかぶさった。

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