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ドブス顔面キモ人間 第11話

「HATE」

く…………うっ、……ふ……………っ。
俺は急いでティッシュを手に取り、夥しい量の液体を拭き取る。
「ごめん………ヨシダさん……」
俺は罪悪感の中、立ち上がった。

「や、やめて!やめてーーー!!」
「うるさい」
「おいやめろよタチバナ!タチバナ!!これ学校に言ったら大問題だぞ分かってんのか!あんま調子に……」
俺はタカモトの口を抑えた。
「タカモト虚勢は見苦しいってー」
「やるぞ」
佐原義和がカメラを持って来た。
「うん、やろう」
「やるって、なに、……や、え?何をするんですか……え、やめ」

「見せてみろ」
佐原は俺のスマホを奪い取った。
「”ドブス顔面キモ人間再びの犯行”、か……」
「2回目だし、結構話題になるのが早かったよ。まだ偽物だって疑ってる奴もいるけど、信じてる奴も増えてきてるし」
「なら、良かったな。これで思惑通りか?」
「もう少し努力必要そうだけど、まあ、まずまずってとこかな」
「そうか」
「うん、おっさんもちょっと話題になってるよ。”謎の男”だって」
「そうか」
「……うん」
「それでいいのなら、良かったな。だが……」
「……だが?」
「お前、最近、何かあったろ」
「何か?」
佐原義和の目が、少しばかり鋭くなったように感じた。刃物のような危険性を醸し出すその眼光は、ゆっくり俺を突き刺した。
「学校、で、何かあったんじゃないか」
「え……いや、別に……」
「……もう行け、もう11時過ぎている」
「うん……」
佐原義和。出会ってから数ヶ月経つが、やはり不気味な男だ。何を考えているんだ?一体、俺をなんだと思っているんだ?何故、俺の殺人を助ける?金でも要求するつもりか?全く分からない。でも、俺には、ヨシダさんがいる。佐原義和が不気味だろうが、近づいてきている試験範囲が多かろうが、ヨシダさんがいればなんでも大丈夫。ヨシダさんも、俺をそう思っているだろうか。ヨシダさんは、俺をどう思ってるんだ?もしかして、好きだったり?ンwまさか、そんなハズはないかでも有り得なくはないよな。だって一緒に出かけた中出し。少なくとも、嫌われてはないし、好かれているだろう。それだけでも、充分だ。ヨシダさんは、俺を認識してくれているんだ……。

「……転載か」
俺の動画が転載されていた。それだけ有名になったのだろう。良かった。良かった。これでこそ頑張った甲斐があったというものだ。
「ほら、学校」
母さんは知らない。俺の本当の”姿”を。

「最近、このクラスから行方不明者が増えています。その為、今日から午前授業で下校というかたちとなります」
人殺して、人気になって、更に午前授業とは、良い事しかないな。だが、俺以外はそうでも無いらしい。皆、少なからず表情が暗い。それもそうか、行方不明者じゃなくて、皆死んだってことを察しているんだろう。それに、全部犯人が同じだということも、どこかで察しているんだろう。俺だ。お前ら、俺だ。隣に、犯人がいる。
「……何笑ってんだタチバナ」
「……え?いや、元々こういう、顔です……こういう顔だーーーー!!!」
「……タチバナ」
俺はもういつもとは違うんだ。このクラスの奴らを生かそうと殺そうと、全ては俺の判断だ。このクラスは、もう俺のものなんだ。誰にも支配されない。
「タチバナ、疲れてるなら、保健室行った方がいいぞ……」
「い、いや、大丈夫……です」

休み時間、俺は廊下をふと見ると、神々しい”なにか”がいた。ヨシダさんだ。きっと俺に用があるんだろう。態々有難い。
「ヨシダさ……」
「ヤマモトー」
ヨシダさんが呼んだのは、俺ではなく、”超ヨウキャ”だった。
「あれ、ヨシダ?どうした」
「そっちのクラスなんか人いなくなってんだってね、怖ー」
それ実は俺がやったんだ。うん、いやいや、結構簡単だったよ。うん、ハハ、確かに。
「怖いよなー。最近クラスの空気も悪くなってるし、いい事ねーよー、授業短くなるくらいかな」
「ハハハ!それだけはよかったね」
その顔は俺には見せてくれなかったのに。ヨシダとヤマモトは、教室から、廊下へと出て歩き始めた。俺には話しかけてくれないどころか、目すら合わせない。ヤマモトに対するあの目を俺に向けたことは無かった。
「ああー、そっか、ハハ。もう、いいか、いっかいいや、いいやもう」
この俺に刃向かったらどうなるか、クソ女に教えてやることにしよう。

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