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手入れする生活(14) 「おもしろかった」

田んぼの景色を残したい

娘が保育園で風邪をもらってきて、それが早速うつってしまった。実に半年ぶりくらいの風邪だ。昨晩は喉の痛みでうまく寝られなかった。2時間ごとに起きてしまい、うがいとのどスプレーを繰り返し、のど飴をなめる。最近、人とほぼ会わないようになり、風邪をひかないことに気がついた。もうずっとこのままでもいいかな、というくらいに快適だった。

自宅で一人でコツコツと仕事を進める。外食もしない。僕にはそれが想像以上に快適だった。家で過ごすことが増え、掃除の気持ちよさに目覚めた。作れるようになったお菓子も増えたし、新しくレシピノートをつけはじめた。

畑なんかもやってみたいと思い始めた。近所の市民農園が年間2,000円くらいで借りれるようだ。やってみたいが、きちんと続けられるかの不安が大きい。まずは、ベランダのプランター栽培から始めようか。ハーブ類を育てたい。ハーブがあると料理がグッと楽しくなる。バジルを大量に買ってきて、それに合わせてパスタやピザをつくる。バジルのレシピなんかを調べてみて、作ったことのない料理にチャレンジしたくなったりする。ミントがあれば、ミントウォーターが日常的に飲める。朝の目覚めに気持ちよさそうだ。

そんなことを考えていたが、ふと、実家の田んぼのことを思い出す。
僕は田んぼの作業を一人でこなすことができない。父親が元気なうちに習っておいたほうが良さそうだ。僕が田んぼをできないせいで、実家の周りの田園風景が失われてしまったら、後で悔やまれる。あれは失ってはならない気がする。思い立ったら、気が変わらないうちに父親にメッセージを送った。田んぼをやりながら、ピアノを弾いたり、絵を描いたり、原稿を書いたりして過ごすのも良さそうだ。自分で自分の生活をつくっていきたい。老後とかではなく、今のうちから練習しておきたい。


父へのプレゼント

もうすぐ父親の誕生日なので、プレゼントを何にしようか探す。こないだの父の日には、Google Home Miniを贈った。年をとっても、新しいものに触れ続けてほしいからだ。年齢が上がると、だんだんと流行りものに手を出しづらくなるのは自分だってそうだ。Tik tokもまだ体験したことがない。よくないな〜と思いつつも、Youtube広告で流れてくる動画を見ているだけで、うるさすぎて嫌になる。

それはさておき、誕生日プレゼントだ。なんとなく、文具がいいかなと思うが、あまり喜びそうなものが見つからない。モンブランの万年筆なんかプレゼントできるようになったら最高だなと思う。いまは到底無理だ。
本が好きなので、美術書とかどうかと思い、nostos booksのサイトを見に行く。すると、トップにいいグラスがアップされていた。

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これは良い。実家にはないタイプのグラスだ。

グラスと言えば、左藤ガラスのコップも良い。

昔、もみじ市で購入したが、毎年夏にこのコップを出してアイスコーヒーを飲むのがたのしみだ。水を入れて飲むだけでもグッとおいしく感じる。呑み口が厚手で、口当たりがまろやかになる。

一瞬、こちらにしようかと思ったが、残念ながら現在は在庫切れになっていた。また別の機会にしよう。

nostos booksでANDO'S GLASSを2つ購入した。せっかくなので、母の分も一緒だ。グラスのサイズが、ショートとトールの2種類あったが、ショートを選んだ。ロックグラスっぽいので、お酒を呑みたくなりそうだから、ショートにしようか迷ったが、ショートのような広口グラスは、ちょっとした非日常感が出て、生活に彩りが出るだろうと思い、それに決めた。

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グラス自体は、nostos booksのオリジナルではないので、実際は他店でも購入できる。だが、僕はこのグラスをnostos booksで知った。だから、ここで買う。それにプレゼントなので、安心できる店で買いたい。特に通販は店選びが大事だ。僕の代わりに、プレゼントを梱包し、届けるのは店のスタッフさんだ。目の前で見届けることもできない。購入後はすべておまかせになってしまうからこそ、きちんと信頼できるお店で購入したい。その信頼にお金を払っていると言っても良い。

遅延せずに、誕生日当日に届くといいなと思う。母とふたりで炭酸水でも飲んでほしい。


今日の「ドキドキした話」
「おもしろかった」

奥さんとの初めてデートしたのは、渋谷だった。

僕は映画に誘った。前野健太の『トーキョードリフター』だ。単純に僕が見たかっただけで、彼女の音楽の趣味どころか、お互いのことなど、ほとんど何も知らなかった。

初めてのデートで、名前も知らないミュージシャンのドキュメンタリー作品に誘うなんて、僕をどう思っただろう。

正直に言うと、僕は彼女を試していたのだった。
28歳になっても、これまでの失敗から誰かと恋愛関係を長続きさせられる気が全くしなくて、どうせなら最初からワガママに振る舞ってやろうと思っていた時期だった。

映画は想像していた以上に、良かった。
夜道をバイクで流しながらモー娘。を歌うシーンでは、「僕はこんなことで笑うんだよ」と強調するかのように、少し大げさに笑った。
エンドロールの前野健太の歌声に少し泣いてしまったことがバレないよう、余韻を味わっているふりをして、場内が明るくなるのを待ってから外にで出た。

彼女に、映画の感想を聞く時間がきた。
きっと始終よくわからず、楽しめなかったに違いない。少しきまずい感じのまま、とりあえず形式だけの夕食を食べて、サヨナラするんだろう。その後、いちおうありがとうのメールだけ送ったら、もう会わなくなるんだろうな。


「おもしろかった」と、彼女は言った。
僕は想像していなかった反応に、「え、だって、よくわかんなかったでしょ」と聞き返した。
前野健太は知らないし、わからないところもあったけど、おもしろかったよ、と彼女はもう一度返した。

その後、夕食にどこで何を食べたか全く覚えていない。彼女の「おもしろかった」という感想だけが、ずっと記憶に残っている。

映画を見て以来、前野健太のライブには一緒に何度も行った。下北沢の風知空知や、神楽坂の正月ライブにも行った。レコードやCDも家で繰り返し一緒に聞いた。『今の時代がいちばんいいよ』は下北沢の古書ビビビのサイン会で購入し、同日夜に開かれた下北沢B&Bでのトークショーにも、一緒に参加した。その頃には、彼女は奥さんになってくれていた。

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渋谷で一緒に映画を見たあの日、僕は怖かったんだと思う。
映画ではなく、この映画を選んだ僕のことを「おもしろくない」と言われやしないか不安だったんだと思う。僕ってこんなやつなんですけど、大丈夫ですか?って映画を通して彼女に問いかけていたのだった。

はなから今後のことを諦めていた僕が、「おもしろかった」という返事に、どれだけ安心できたか。あのとき僕は「やっと見つけた」という思いで、胸がいっぱいになっていた。


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