動くチーズ(ネズミじゃなくて人間として生きたい人のための自助論)
『私のチーズを動かしたのは誰?』という本があるらしい。「らしい」というのは自分は読んだことがない。医学博士によって書かれた自助(セルフ・ヘルプ)の本であるらしいが、自分がアメリカにいるころに話題になっていた。
毎日、迷路をくぐり抜けてチーズにたどり着く人間とネズミのつがいがいる。でも、ある日、いつものように迷路をくぐっていくと、あるべきところにチーズがない。次の日も、また次の日も同じである。とうとう三日目にはチーズはどこか別のところに行ってしまったと思わざるを得ない。
ここで、人間の方は当然の問いを発する。
「チーズを動かしたのは誰だ!?」
ネズミの方はそんなことを詮索しないで、「どうやったらチーズをまた手に入れられるのだろう」と考えて、新たに迷路の中にチーズを探しに出かける。
この本の作者によると、人間の発した問いは誤った問いである。そんなことを問うても無駄だからである。チーズがあるはずのところ留まって愚痴をこぼしていてもチーズは戻ってこない。それよりも、ネズミのように、新しい状況に適応して、自ら出来ることを考え行動した方が生産的である。
このチーズはボクの仕事でもいいし、あなたの憧れの彼氏/彼女でもよい。欲しいものが手に入らない、もしくはそれを失った時に、責任者出てこいと叫ぶのじゃなくて、代替品が手に入るように自ら考えて行動しなさいということだ。例えば、会社をクビになった時に、「なぜオレがクビになるんだ」とくよくよせずに、新たなスキルなどを習得し新たな仕事を探しなさいということになる。
人生の助言としては、決して間違っているとは言えない。でも、そこで「オレだけじゃなくて、ほかにもたくさんの人がクビになっているみたいだけど、なぜ?」、「会社が経費の削減を迫られているのはなんでだろ?」、「労働法が改正されて解雇が容易になったそうだけど、どういうわけだ?」、「仕事が外国に外注されるようになっているけど、それはいいことなの、悪いことなの?」なんていう大きな疑問は不問に付される。そんなことを問うても、あなたの仕事は帰ってこないのである。
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コーヒー一杯ごちそうしてくれれば、生きていく糧になりそうな話をしてくれる。そういう人間にわたしはなりたい。とくにコーヒー飲みたくなったときには。