ICFのコア・バリュー改訂案を読んではじめて気づいた(のかもしれない)core 「value」の意味

21/06/09 付(時差のため受信は 21/06/10)の ICF(International Coaching Federation: 国際コーチング連盟)からのメルマガの中に
Complete the Member Value Survey!
なる一節がありました。

概略を引用すると:

2020年にICFが活動範囲を拡大するにあたり、ICFシステム全体からのボランティアのグループが、ICFコア・バリューを見直すためのバリュー・サミットに参加しました。
(略)。このサミットでは、5カ月間にわたり、現在のICFコア・バリューを見直し、検討しました。この広範な検討の結果、バリュー・サミットは、(略)、ICFコア・バリューの改訂を推奨します。

ということで,ICFのコア・バリューが今後改訂されるようです。
メールには本件改訂に関する意見募集をする旨と,意見募集用のアンケートリンクが後日送付される旨が記載されていました。

そして実際,21/06/11 にアンケートリンクが送られてきました。
アンケートに回答する過程で入手したコア・バリューの改訂案を読んでいくうちに思わぬことに気づきましたので,その概要を以下に記録します。

コーチングの定義

現行

Partnering with clients in a thought-provoking and creative process that inspires them to maximize their personal and professional potential.

改訂案

A creative and thought-provoking partnership in which the coach supports the client’s awareness to achieve their greatest personal and professional potential.

第一印象は,「え? コーチングの定義,変えるの?」でした。

1)パッと見,thought-provoking と creative の順番が入れ替わっていますね。たぶん語順が変わっただけでしょう。
2)現行で maximize their ... potential とされているのが,改訂案では achieve their greatest ... potential に変わっています。僕は英語に必ずしも堪能ではないので,形式文理の違いから読み取れる(のであろう)改訂趣旨がいまいちピンときません。「最大化」について量的よりも質的にって感じのニュアンスを出したいのかな? とか勝手に思いましたが,どうなんでしょう??
3)現行で process と表現されているものが,意味合いとしては coach supports で置き換えられたように読めなくもありません。コーチの関与により力点をおいた表現に変わったと思える反面,下手をすると,クライアントはサポートされる存在なのだと受動的に解釈されてしまわないか危惧されます。このあたり,クライアントとコーチとは対等な関係であるとか,協働関係を互いに意図的に築き上げるなどとこれまでは認識されてきたと思います。このニュアンスが改訂案できちんと維持できているのか(表現できているのか),ちょっと引っかかります。
4)最後に,オイオイと思うのは,コーチングの定義の中にコーチという用語が出てくること。これはさすがにおかしいと思います。「コーチングとは,コーチが〜〜することです。」という定義になってしまっていて,じゃあ「コーチ」って何者よ,という疑問が残ってしまう。そこで「コーチとは,コーチングをする人です。」と言ってしまったら,定義が循環していることになってしまいます。

コア・バリュー

現行:

Integrity,Excellence, Collaboration and Respect

改訂案:

Professionalism, Collaboration, Humanity and Equity

なんとも驚き,形式文理上は Collaboration しか残っていません。。

現行の Integrity と Excellence が改訂案では Professionalism に統合され,反面,Respect が Humanity と Equity に分かれたと言えなくもありませんが,,かなり大きな改訂であるように思えます。

コア・バリューというより,倫理っぽい感じがするのは僕だけでしょうか。と思ったところから,このあと僕は思わぬ沼にはまり込むことになりました。

改訂案をよく読むと序文に次のような文章が書かれていました。

The ICF Code of Ethics is based on the ICF Core Values of Professionalism, Collaboration, Humanity, and Equity”. The actions that flow from these Core Values are described as ‘the Ethical Principles’. All Ethical Principles are aspirational and serve as a way to understand and interpret the ICF Core Values.

ここで僕は,自分が今まで極めて重大な誤解をしていたのかもとの疑惑に気づきます。

ICFのコア・バリューというとき,それは,ICFの存在や提供するサービスが世の中にもたらす最も中核的な価値のことを言っているのだと僕は今まで理解してきました。要するに,ICFが提供する(少なくとも提供しようとしている)価値について言っているのだと。

しかし,上の序文を見る限り,そう言っているようには読めません。序文が言っているのは,ICFとして信じている・持っている中核的な価値観としてのコア・バリューです。ICFがもたらす価値ではなく,ICFが信じている価値観です。
だからこそ,その信じている価値観に従って行動が導かれ,それが倫理原則として具体化されるわけです。

少なくとも,上の序文を読む限り,そう読むのが素直だと僕には思われます。

ちなみに,現行の序文の記述はこうです:

We are committed to reliability, openness, acceptance and congruence and consider all parts of the ICF community mutually accountable to uphold the following values:

現行では,コア・バリューである Integrity,Excellence, Collaboration and Respect とは別の reliability, openness, acceptance and congruence なる概念が持ち出され,これらについて commit するとともに,以下の values を uphold することに ICFコミュニティ全体として相互に accountable であると consider している,という文章です。

ICFが we として commit しているのは以下の values ではなく,reliability, openness, acceptance and congruence(ICFJの訳によれば「信頼性、オープン性、受容性、一致性」)です。
その上で,以下の values を uphold することに ICFコミュニティ全体として相互に責任を負うと【考えている/みなしている】,という文章です。

uphold は,この記事を書いている Mac 内蔵の辞書によれば「1⦅かたく⦆〈法・主義など〉を支持する,擁護する」「3〈慣習・伝統など〉を維持する」という意味があるようです。
value についての文章ですから,ここは素直に辞書に言う「1」の意味だと考えるなら,現行の序文は:

我々は,信頼性、オープン性、受容性、一致性にコミットするとともに,以下の values を支持することに ICFコミュニティ全体として相互に責任を負うと考えている

という文章であることになります。
そして,uphold の意味が「1⦅かたく⦆〈法・主義など〉を支持する」ことであることに鑑みれば,「以下の values を支持する」は「以下の価値観を支持する」ということになるのが素直であろうと考えられます。

つまり,現行のコア・バリューでも,そこに言うコア・バリューとはICFがもたらそうとしている価値のことではなく,ICFが支持していると考えている価値観のことを言っているのではないでしょうか。

いやあ,なんだかクロスワードパズルでも解いているような内容でしたが,
結論的には,今も昔も,いや違う,現行も改訂案も「コア・バリュー」というのはICFが提供する価値のことを言っているのではなく,ICFが信じている・支持している価値観のことを言っているのだと読むのがどうやら正解のようです。


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