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映画備忘録vol.38 デヴィッド・ロウリー『A GHOST STORY』

台所の床に座りパイを食べている女性。後ろには目の位置に穴が2つ空いた白いシーツを被った、いかにも古典的な幽霊がぼんやりたっている。時々鼻をすすりながら、パイを食べる。固定カメラからの長回しが続く。10秒、20秒、1分、2分…。次第に、人生が映り込んでくる。一年前、父親が亡くなった翌日。夜の台所でコーヒーを淹れてひとくち流し込んだ。喉が熱くなった。そしてなぜか目頭が熱くなった。泣いていた。父親もあの時、僕をこんなふうに見ていたのだろうか?

現代アメリカ映画界の俊英デヴィッド・ロウリー、2017年の4作目。1980年生まれの彼が37歳でA24スタジオで撮り上げた…3作目の『ピートと秘密の友達』はディズニー、5作目の『さらば愛しきアウトロー』はフォックス・サーチライト。「制作スタジオは家のようなもの」と語るロウリーはとてもクレヴァーだ…『ア・ゴースト・ストーリー』は、私的で親密な呼吸から、宇宙の風までをオーディエンスの心に吹かせてくれる。老齢、熟達の過程でもしかしたら失われてしまうかもしれない思い切りと拙さ、蒼さ、透明さが確かに、少し燻んだフィルムの彩に宿っている。

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